第7話 ドキドキランチタイム

 リナを家に送っていき、リナがただいまーと言って玄関のチャイムを鳴らすと金色の髪を伸ばした小さな女の子が鍵を開けて迎えてくれた。幼稚園ぐらいだろうか?


「おかえり、おねえちゃん…と、おにいちゃんだれ?」


「こんにちはお兄ちゃんは判官九郎っていうんだ。お姉ちゃんのお友達だよ」


 屈んで、女の子とおなじ目線でにっこり笑いながら話しかけると、女の子はもじもじしながら


「おおがきあめり、6さいです」


 6、と指で数字を作りながら教えてくれた。


「そっかー、あめりちゃんっていうんだ、よろしくね?

 あめりちゃんお留守番してたんだ、えらーい!」


 そう言って頭を撫でると、くすぐったそうにしながらニコニコ笑う。かわいいなぁ、子供の頃の観月もこんな感じだったなー。とにかく人懐っこい子だった。


「へぇ、あんた子供好きなの?」


 俺とあめりちゃんの様子を見ていたリナに声をかけられたので、立ち上がってリナの方を向く。…と、なんだねその微笑ましそうな顔は。


「そりゃ子供は可愛いからな。…何だよ変な意味じゃないぞ。うちにも妹がいるんだけど子供の頃の妹を思い出してた」


 そんな俺の言葉に、あはは!あんたもお兄ちゃんなんだと笑うリナ。


「それじゃ俺は帰るわ。りな、また明日学校でな。あめりちゃんもばいばい!」


「ばいばい、くろうおにいちゃん。またきてね!」


 リナに抱き上げられ、手をぶんぶんふるあめりちゃんをとリナに向かって手を振りながら、俺は少し明るくなった気持ちで家へと帰ったのだった。


 次の日教室に入ると先に着いていたリナに声をかけられた。


「おはよう、九郎!」


 そう言ってにこっと笑って挨拶してくるリナ、まるでそこに明るい花が咲いたようだ。


「おはよう、インバース」


「黄昏よりも昏きもの…じゃないでしょ!り・な、でしょ」


 ネタが通じたみたいでよかった。そうやってきちんとのってくれるところはポイント高いぞ!


「合ってるじゃん…ってそう睨むなよ。おはよう、リナ」


「ん!よしよし」


 満足そうなリナ。よくわからんがまぁご機嫌みたいなので…ヨシッ!そんな様子を見てた近くのクラスメートが、


「大垣さんってあんな風に笑うんだ」


「え、可愛い…俺も話かけてみよっかな」


 なんて話しているのが漏れきこえた。うんまあ俺もリナとこんな風に話をするようになるなんて思わなかったからその驚きはわかる…。

 人は見かけによらないし、見た目だけで判断しちゃダメなんだなやっぱり。


 その日も授業はつつがなく進んでいき、昼休みになった。

 連休最終日にあった男同士の勝負の話のことや昨日のテレビの事なんかでクラスメートは盛り上がっている。俺はといえば近くの席のクラスメートと世間話をしたり、さっきの授業どうだったとか取り止めのない話をしつつ、そういえば今日は弁当用意してなかったし購買行かなきゃなーなんて考えてたりした。ちなみに俺はあまりものでいいので人が空いた頃に購買に行く派。


 まだちょっと早い時間だよなー、と教室を見回しているとリナと目があい、小さく手を振ってくれた。せっかくなので同じように振り返すとにへへ、と笑っていた。

 俺に何かを言おうかとしつつ、鞄に手を入れてもしょもしょとしている。何だろうね?


「なぁ大垣さん、昼俺たちと一緒に飯食べない?」


 そんな事をしているとクラスの中でも陽キャな、佳織の周りによくいる男子がリナに話しかけてきた。小島くんっていったかな?必要以上に声が大きいのは何かのアピールだろうか?


「え?嫌だけど」


 そしてばっさり一刀両断するリナ。し、辛辣ぅ…。


「そんなこと言わないでさ、ほら、かおりんも一緒に食べたがってるんだぜ?」


 なおもめげずに食い下がろうとする小島くんが、かおりん―――佳織を親指でさすと、佳織がリナににっこり笑いながら手を振る。


「ほら、いいっしょ?かおりんも呼んでるし行くよね?」


 そう言って腕を掴もうとする小島。だが…


―――パシンッ、と音を立てて、小島その手がはたき落とされた。


「嫌だって言ってるでしょ。しつこいのって嫌われるよ」


 そう言って取り尽くしまも与えず、小島とついでに佳織を一瞥するリナ。


 鞄から少し大きめの包みを出して歩き去ろうと…いや、俺の方に歩いてくるリナ。


「ね、九郎。今日のお昼って予定ある?」


「おぉ?いや、購買が空いたら何か買いに行くつもりだけど」


「良かった。それじゃ一緒にお弁当食べに行かない?」


 そう、少しだけもじっ…としながら恐る恐ると言った様子で伺うように聞いてくるリナ。あ、その仕草あめりちゃんと似てるなさすが姉妹なんて思ったり。


そして、ざわっ…ざわっ…とする教室。誰か麻雀でもうってるのかな?


「え、大垣さんと九番が?」


「っていうかかおりんの誘いを蹴った?」


 …そんな声が佳織のグループから聞こえる。


「いいのか?あっちのグループに誘われてただろ」


 そう言うと、


「いーの!!」


 と言って俺の腕をとり…というか腕を組み、立たせるリナ。


「アッバーブ?」


「はいはいアニメじゃないアニメじゃない」


 そういいながらぐいぐいと俺を引っ張っていくリナ。

 いいのかなぁ、とチラッと見ると、取り残された小島くんは呆然としているし、クラスメート達は俺たちの方を見ていた。めちゃくちゃ目立ってるよねそらそうだ。


―――そしてそんな中で他のクラスメートは気づいていないが―――佳織が射殺さんばかりの怒りをこめた視線で俺と―――リナを睨んでいた。



 教室を後にして、リナと一緒にテラスに移動した。

 ちょうど空いていた席があったのでリナはテキパキとお弁当を広げ始めたが、2段のお弁当箱は一人前にしてはちょっと多い。


「これさ、昨日のお礼も兼ねて作ってきたんだけど…」


 そう言って机の上に広げられたのは、色とりどり見た目も素敵なお弁当だ。

肉巻きパラガ…じゃなかったアスパラやだしまき卵、ひとくちメンチカツにポテトサラダ。

ウインナーはタコさんになっているがゴマで目もついていて可愛い。


「すごいなこれ!」


「…へへっ、一応全部手作りだから、口にあうといいんだけど」


 それは見ればわかる、俺も料理するし週に何回かは自分と妹の分の弁当を作るからね。

 お弁当箱に詰まっているのはどれもレンジでチンの冷凍食品とは違って一品一個ずつ手が込んだ作りだ。


「でもいいのか?こんな素敵な弁当わけてもらって」


 そういうと、ん、と笑いながら頷くリナ。


「それだけ私は嬉しかった…ってコト」


「わァッ…!」


「それなんか使い方違くない?」


 そう言って2人で笑いながら、リナがいれてくれたお茶を受け取る。まずはだしまきを一つ、と…


「ンまァ〜〜い!!」


 美味しさに声をあげてしまった。リナは凄く照れているが嬉しそうだ。


「凄いよおいしい、リナっていい奥さんやお母さんになりそうだよな」


「何いってんのよ九郎、もう…!」


 でも満更でもなさそうじゃん。そんな事を言ったり盛り上がりながら2人で食べた弁当はどれも美味しかったゾ〜いいゾ〜これ。


 2段の弁当をたべ終わった後にデザートにこれも、と別のタッパーを出してきた。


「はいこれ、リンゴ。ガムダンアレックス型にしてみた。男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」


「うおおおおおおおおおお何これ今日一凄いよこれ!!2足で立ってポージングできるじゃん」


「増加装甲は取れるよ」


「すげええええええええええ!」


 割と細かいところまでディテールの入った人型ロボット風に切られたリンゴに大興奮してしまう。

 お盆にSNSでバズってるキュウリやナスで乗り物作るあれみたな凄さに感動した。すごいよこれ装甲取れるし…あ、きちんとツノが片方折れた状態にできるように切れ目入ってた!!

 手先器用すぎんリナさんや…!!そう子供のようにきゃっきゃと喜ぶ俺。


「ふふっ…九郎も可愛いところあるよね」


 そう言って優しい瞳で俺を見るリナ。


「ぐうっ…そういわれると何か恥ずかしいな」


「でもそうやって喜んでくれて作った甲斐があったよ。それじゃ、その、おほん。…あーん」


 そういって取り外した増加装甲部分をビーム剣型のピックにさし、こちらに向かって差し出すリナ。


「ほらはやく、落ちちゃうじゃない」


 そんな風に急かされるので、観念していただく。


「美味しい?」


「バラバラに吹っ飛んじまってる。ミンチより美味ぇや」


 そんなしょうもないことを言いながら食べたりんごも大変美味しゅうございました!!


 午後はクラス合同のサッカーだったっけ?

 食べすぎたかなーと思ったが、腹ごなしには丁度良いかもしれないな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る