第8話 超!エキサイティン!!サッカー(前)

リナの弁当ですっかり満腹になったわけだが、午後は2クラス合同体育のサッカーが待っている。各クラス20人いる男子から11人がフィールドに出て授業時間を使った試合形式でサッカーをするのだが、クラス内で選手の入れ替えは自由。あ、女子はのんびり日陰で観戦ね。男女平等とはいったい…!


「うちのクラスにはサッカー部が3人もいるのよ!これはもう勝ったも同然ね!!」

そう言ってチーム選抜の音頭をとっているのは佳織である。佳織の取り巻きの男子達や、スポーツ系の仲良しグループにサッカー部3人にバスケ部が1人いる。他にも野球部やバレー部といった体育系の部活をしている男子もいて、佳織はそういった生徒の中から試合に出る生徒を決めていった。

「矢島君、あとあんたとあんた、あんたも出て!えっとあんたは…花味(ばなあじ)だっけ、部活はボードゲーム部?陰キャはいらないわ、次!田草(だぐざ)、柔道部?何その角刈り頭だっさあんたもいらない。稲架上(はさうえ)、あんたは地味ね…帰宅部ぅ?アンタもいらない。佐藤君は参加!はじめちゃんも出て!いい皆、絶対勝つのよ!」

クラスの中心である、女王蜂(かおり)の言う事に素直に従う男子達。佳織の有無を言わせない勢いもあるだろうが、こういうところで揉めずに従うことで女子受けにもつながるから、素直に従ってしまうのは男子の哀しい定めだねぇ。知らんけど。


「うわぁ、眞知田が勝手にチーム決めてっている」

隣に立っているリナは、微妙な表情をしながらその光景をみていた。

「佳織の好きにさせるしかないんじゃないかな…。

変に口出して機嫌損ねられると面倒だし、あながち間違いな人選でもないし」

クラス対抗ならスポーツ系の部活をしている生徒を選出するのは常套手段だし、多分に人の好き嫌いは絡んでそうだけどあまり的外れな人選でもないと思うそんな俺の反応に、「む~…」となんだかご機嫌斜めな様子のリナ。

「それじゃ九郎のかっこいい所見れないじゃん」

「それはまたどこかのチャンスで?」

出る必要があれば出るヨ、とだけ言っておく。


俺達は佳織達から少し離れたところにいたが、チームの人選を終えたであろう佳織は満足そうな顔をした後で俺たちの存在を思い出したのかこちらへ歩いてきた。

「あら九郎、こんなところで仲良く乳繰り合ってたのね。相変わらず冴えないんだから。…アンタの存在忘れてたからチームにいれる選択肢すら浮かばなかったわ!悪いけどアンタみたいな使え無い奴の出番無いから。おめーの席ねーから!!」

ンフフ!と嘲るように笑いながらそう言う佳織。


そう言えば佳織とこうして話すのは振られた後以来だが随分な物言いである。それでも振られた時と違ってこうして普通に接することが出来る程度には元気になったのは、周りのみんなのおかげなのを改めて感じた。

「あいよりょーかい、それじゃ俺は観戦してるわ」

そう答えると、カーッと顔を赤くして地団太を踏む佳織。

「ハァ?!何その態度…悔しがりなさいよ!私に存在を忘れられてたのよ?!大体アンタ私にそんなナメた態度とっていいと思ってんの?使えない2軍、いや3軍以下のくせに!!何より言われたとおりに従ってるその態度もムカつく!!!!」

いや普通に接してるだけだろ…。それにお前文句言ったら余計顔真っ赤になったと思うが。佳織ヒートアップしてるけど俺が何言っても気に入らないってなるんだろ?うーん、この。

…なんて俺が困っていると、隣にいたリナが先に反応していた。


「―――人をナメてるのはアンタでしょうが。っていうか顔真っ赤だけど鏡みて来たら?だっさ」


腕組みしながら佳織をにらみつけるリナ。

ちなみにリナはハーフパンツに上はパツンパツンに胸部テントを張った体操着を着て、ジャージーを肩に羽織ってるのですごく…ヤンキーっぽい。そんなリナに「うっ…何よ」と気圧される佳織。

「大垣、アンタさっき私の誘いを断ったわね!ギャルくずれの分際で私の面子を潰すなんて…あんたも何様のつもり?」

「いやそっちが何様よ。九郎に謝って」

「何で私がこんなのに謝らなきゃいけないのよ謝る理由がないし!!」

会話するほどヒートアップする佳織と、明らかに不機嫌な様子で淡々とカウンターをするリナ。

そんな2人の様子に、他の生徒が「かおりんなにしてんだろ?」「あの2人何言い合ってるんだろう?」等と気にし始めたので、とりあえず仲裁する

「2人とも、他のクラスメートも困るからそれぐらいにしとけ。

ほらリナ行こうぜ」


謀らずもリナに護られるようになってしまったので、巻き込んですまないと謝る。

「九郎、あんた眞知田にナメられっぱなしで悔しくないの?」

「いや、悔しいとか以前に…今は正直、佳織に関わりたくねぇ…」

というリアクションすると、成程…と何とも言えない顔をするリナ。

「そ、そう。でも私は悔しいよ、九郎がバカにされるの」

そう言ってぐぬぬ、としているリナ。

「ありがとな。その言葉だけで俺は満足ちゃんだわ。今度特製スパイスのサンド作ってやろうか」

「わっ、頭撫でんなし!…んもう!あと特製サンドは食べるから作って」

あ、食べるんだ・・・今度作ってこよう。

そんな話をしながら俺達は、佳織にはじかれた男子や女子たちが待つエリアへと移動して座る。

「がんばれ♡がんばれ♡」

「それ男のアンタがいうの?…やめなよ」

フィールドに向かうクラスメートに声援を送ったが、隣のリナに即座にクラウドさん風に突っ込まれて止められた。残念。


「さぁ、私の考えたこの最強チームで勝つのよ!!これで負けるなんて絶対に許さないわよ。…私に恥かかせないでよね!!」


―――――試合時間半分過ぎたが0対5で負けてる…ズタボロだ。


「ば~~~~~~~っかじゃねえの!?」

そう言って男子達に文句を言っているのは佳織だ。対して男子達は疲労に加えて心が折れかけて項垂れている。

20分20分の間に5分間休憩を挟むのだが殆どの男子が前半で消耗しきって、反論すらできない有様だ。

「あっちは剣道部とかなんかの委員会のやつとか帰宅部なのよ!?

なのに何でこんな無様晒してるのよも~~信じらんない!しかもあっちは一人がGW最終日の勝負の疲れだかなんだかで1人足りないのよ?そんな相手に1点も取れないなんてぶっちゃけありえな~~~い!!」

そう言ってやるなよ佳織、制服着てても男子はむちゃくちゃタフだし♪ってわけじゃないんだ。

佳織の金切声に、「だっさー」「本当にサッカー部?」「えー、ないよねー」と女子たちが口々に男子に文句を言ってる。


…これはちょっと黙ってられないな


そう思って立ち上がると、リナが俺を見上げている。

「九郎?」

「いや、前半出てたやつらはすげー頑張ってたんだよあれ」

そう、相手のクラスには確かにこのクラスみたいにサッカー部やバスケ部みたいな運動部員は出てきていない。

だが…

「相手のクラス、何人か明らかにヤベー奴がいる。相手が悪すぎたんだ」


同じ中学だった甲府、―――甲府倫太郎(こうふりんたろう)、

あいつはもともと運動も喧嘩も得意なヤンチャ野郎だったから運動部員じゃないとはいえ単純に身体能力が高い。だから普通にサッカーやらせてもうまい。

あと刷屋と言ったか色白長身銀髪?の男子。

あいつもフィジカルの仕上がりが凄く、特に精神力と集中力が凄いので少しの隙でも突破してゴールに突っ込んでくる。まるで燃える槍のようだ。

キーパーしている村田正吉…こっちは村正と呼ばれている方の村田だが、あまり目立たないが的確にゴールを防いでいるのでこっちのサッカー部連中が手繰り寄せたシュートも悉く潰された。

そして多分あっちのクラスで一番やばい奴

―――――村田氷雨。

…2人いる村田のもう1人。村雨、と向こうのクラスで呼ばれてる方のストライカーだ。

『チェストォーーーー!!』という雄たけびと共に蹴り込まれる弾丸シュートは文字通りに弾丸のごとくで、最初にシュートを正面から止めに行ったGKの小島は一撃でダウンして保健室送りになった。そのせいもあって代わりに入ったGKも村雨のシュートにビビってしまっている。それでも村雨に決定的なシュートを打たせないように立ち回っていたうちのクラスのサッカー部達は称賛されてもいいくらいだと思う。

他にも2人、通常の三倍くらいの速さでドリブル進めてくる赤井と、

徹頭徹尾赤井の露払いに徹する薔薇崎の2人も要注意だろう。

運動部はいないけれどフィジカルで言ったら向こうが圧倒的に上…というか相手がフィジカルモンスターばっかりだ。

あいつらはサッカーをしてるんじゃなくて、ボールを蹴りながらフィジカルバトルをしてきてるんだぞあれ。


…そんな面子相手に5点で耐えたうちのクラスマジですげーよ。


負けてるという事実でキーキー唸ってる佳織はそういう事が全然わからないのだろう…。佳織がそれを理解していないのは仕方ないが、あんな怪物達相手に頑張ったクラスの男子達がいたたまれなさすぎる。

そう思い助け舟を出しに行こうとしたところで―――リナに手を握られた。

「行くの?九郎」

「応(お)ー。往く」

「どこの島津だよ黒王軍に捨てがまるのやめれあとはやく新刊発売してほしい」

そういってばっちり突っ込んでくれるリナに笑った。

俺も新刊早く欲しい。

そうやってきちんとネタ回収してくれるところ好きだぞリナー。


「またどこかのチャンス…なんていってたけどすぐ来たじゃん。応援する。私めっちゃいっぱい応援するから!」

「おいおいそれじゃ負けられなくなっちまうじゃないか」

そう言って両手を挙げると、んー、と悩んだ様子のリナ。

「じゃあ…ここからなんとかしたら私からご褒美ってどう?」

「ご褒美、私の好きな言葉です。」

俺がそう言うと、人差し指を唇に当てながらウインクしてリナが言う。

「―――あめりと一緒にうちでホットケーキパーティとかどう?

あの子アンタの事気に入ったみたいで、こんどお兄ちゃんがきたらホットケーキ焼いてあげるんだーって言ってるのよ」

「それは光栄だなぁ、…ちなみにもし負けたらどうなるの?」

「あめりは九郎抜きで寂しくホットケーキを食べることになるわね」


なんだよそれ、―――絶対負けられないじゃん。


「今ならお得、私の膝枕で耳掃除もついてくる!」

「なんだよ大盤振る舞いだな。逃げたら一つだけど進めば2つ手に入るって?」

よし、頑張る気になってきたぞ。まずは…佳織の説得かな。


「あーもう、私の考えたチームでこんな事なるはずないのにどいつもこいつも!なんでこんな事になってるのよ!くやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしい!!!」

皆の輪から少し離れたところで、爪を噛みながら小さくひとりごちっている佳織。後半どうするか悩んでいるようだ。

「お前そういう事、他の奴らに聞こえないところで言えよ?」

「くしゃがらっ?!?!?」

後ろから話しかけると、ぴょんっと飛び上がって驚く佳織。


「なぁ佳織。――――負けないために後半のチームで話があるんだけど、ちょっといいか?」


別に佳織のためじゃない。

リナとあめりちゃんとのご褒美と、あと前半フィールドで頑張った皆のために―――やれることを頑張ってみよう。



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ここからのサッカーのような何かパートは毛色がちょっと変わるギャグ回になります...筆者の趣味です...どうかお許しくださいませ...。長いので前中後と3分割していますが、中は昼、後は夜に投稿予定です、宜しくお願いします...!

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