俺の幼馴染が部長に。
サドガワイツキ
1章:NTRるものあれば出会う者あり
第1話 幼馴染を寝取られた
――――眞知田佳織(まちだかおり)とは幼馴染の関係だった。
家が隣同士だったこともあり、幼稚園、小学校、中学校、そして高校と俺は佳織とはずっと一緒で、お互いの好意を感じ合うほどには良好な関係だったと思う。
中学になってからはお互いの誕生日になると2人で出かけていたし、バレンタインやホワイトデーにはチョコとお返しを渡し合っていた。
そんな年相応の清い交際をする、お互いの両親公認の恋人―――だったのではないだろうか。
学校が終わって、一緒に帰ったり、一緒に宿題をやったり。
夏休みには一緒にプールに出かけたし、冬はお互いの家族も含めてスノボーにいったりもした。俺の妹で1歳年下の観月も佳織を姉のように慕っていたし、同じく1歳年下の佳織の妹、早織ちゃんと観月も仲が良く、早織ちゃんからもお兄ちゃん、と随分と懐かれていた。
中学3年の佳織の誕生日には、2人でプラネタリウムを見に行って、その帰りにキスもした。…子供みたいな、唇が触れ合うだけの軽い口づけ。
「私、九郎くんが好き」
そう言ってはにかむように笑う佳織の笑顔にドキドキして、俺も同じように、
「佳織が好きだ。ずっと一緒にいよう」
と返したんだっけ。
それ以上は大人になってからね、という佳織に頷き、大人になるまでお互いを想い合いながら一緒にいようと約束をした。
ゆびきりげんまん、うそついたら針千本のます、と―――その瞬間は、間違いなく。…世界の半分を手に入れたくらいに、最高に幸せだった。
そうして俺たちは同じ高校に進学した。
そこで佳織は所謂高校デビューと言う形で、地元では有名な美容院で髪形を変えた。ストレートに伸ばしていただけだった黒髪をショートボブにしてかるくパーマをかけ薄茶色に染めたことで、見違えて明るい雰囲気になった。
元々佳織は控えめな性格で、校則を守った地味な恰好や髪形をしていたが、顔立ちそのものが整っているのは知っていた。
俺達が進学した高校は身だしなみについてはかなり寛容なので、改めてオシャレをしだしたようだ。
そんな理由で高校になってからは佳織は、今まで接点のなかったタイプの明るい、クラスの中心にいるような女子グループと行動するようになり、同じような立ち位置の人気者の男子が佳織の周りをいつも囲っていた。
じゃあ俺は?と言えば、中肉中背の平凡な図書委員をしていた。
部活をしてもよかったのだが、将来の事を考えてしっかり勉強して大学に行って公務員になりたい、という目標があったので図書委員に立候補して、図書館で勉強をすることを選んだ。
陰キャ扱いされるかと言われればそうでもなく、人並み以上に運動が出来たのと両親譲りでそれなりに整っている容姿のおかげで、クラスの陽キャ達とも体育系の男子ともそつなく接することが出来た。
席が近くになったオタクなクラスメートから勧められたソーシャルゲームも一緒にやるし、クラス中の男子には誰相手でもうまく交友関係を築くことが出来て、特徴がないのが特徴という立ち位置に収まることが出来た。
九番目の九郎君。
クラスの男子20人の中で9番目にかっこいいというのが俺、判官九郎(ほうがんくろう)につけられたあだ名だった。
クラスの、いや学年でも上位に数えられる美少女と、クラスで9番目の男子、それが高校になってからのそれぞれの立ち位置だ。佳織はテニス部に入り、部活動を頑張っていたがお互いの時間が合う時には放課後に一緒に帰ったり、デートもした。
だから俺は2人の関係が今まで通りに続いていくものだと思っていた。ゴールデンウィ-ク目前、佳織の誕生日の5月1日まであと数日、と迫ったその日までは。
「九郎くん、今日って一緒に帰れる?」
帰り際、そう佳織に呼び止められて俺は佳織と一緒に帰る事になった。
ここ1週間程、ずっと部活だったり、佳織の用事だったりで一緒にいる時間がなかったが、こうして一緒に還れるとやっぱりうれしい。
見た目は変わったが、いつも穏やかで優しい佳織と一緒にいる時間は、やっぱり何にも代えがたい楽しい時間だから。
2人でそうして並んで歩いていると、間近に迫った佳織の誕生日の事になった。一応、佳織の好みの食べ物や好きな場所からデートコースは考えているけれど、どこか行きたいスポットとかがあれば希望があればコースにいれるよ、と話をしていると、佳織が何かを言おうとしては、言いよどむのを繰り返している様子をみせた。
「…どうしたんだ?何か、言いたいことがあるのか?」
そう言って声をかけると、しばらく迷っていた様子だったが、佳織は俺に向かってこういった。
「九郎君、ごめん。私、テニス部の部長―――羽目田先輩っていうんだけど…付き合う事になったんだ」
部長と、付き合いだした?…そう、言ったのか?
「…え?」
呆けたように返す俺の言葉に、言いにくそうに佳織が続ける。
「だから、もう今年からは、九郎くんとは出かけられない」
突然言われたことに頭が追いつかず、何と言えばいいのかがわからなかった。
「…どういう事だよ、俺達、付き合ってたんじゃないのか?」
そう言うと、バツが悪そうに顔を背けて、だんまりを決め込む佳織。
「急に何だよそれ。俺達、10年以上も一緒にいた幼馴染で、恋人じゃないか」
そう言う俺の言葉にも、気まずい顔をする佳織。
「なぁ、佳織―――」
「―――九郎くんには悪いと思ってるよ」
俺の言葉を遮りそう言う沙織。何だよその言い草。
ふてくされたように、嫌々と言う佳織。
「去年の誕生日に、キス、したよな。あの時言った言葉は何だったんだよ」
膝から下の力が抜け落ちそうな感覚と眩暈に耐え、震える声でなんとかそう絞り出す。
だが、そんな俺の様子に煩わしそうにチッ、と舌打ちをすると、俺に向かって声を上げた。
「―――九郎くんよりも、部長の方が女子に人気あるし、カッコいいし」
…そんな理由で、10年以上一緒にいた俺よりも、家族同士で関わりがあった俺よりも、部長を選んだのか?
佳織が言う言葉が理解できなくて固まっている俺に、佳織がトドメの一言を続けた。
「それにもう私―――部長とエッチしたから」
放心した俺を置いて、佳織は先に帰ってしまった。
それから家に帰った俺は項垂れて、両親が帰ってくるまでリビングのソファーに座ってボーッとしていた。
両親が帰ってきた後、事のあらましを両親に告げた。
考えるのを放棄した頭で、佳織に振られて、佳織が部長とやらと付き合いだした事、部長とエッチしたと吐き捨ててきたことまで洗いざらいを喋った。
父さんも母さんも言葉を失っていたが、俺の様子にそれが真実だと信じてくれたようだった。
俺と佳織の間の関係については、お互いの意志もあるしそれは仕方がない事で、お前と佳織ちゃんが疎遠になっても仕方がない事だ、と言ってくれた。
ただ、家が隣同士なこともあって近所づきあいや家同士の関係を簡単に絶ち切ったりすることはできない、とも言われた。大人には大人の付き合いがある、とも。
俺はそんな両親の言葉に、わかってるよと頷き、部屋に戻った。
着替えもせず布団にもぐったところで、涙が零れた。そこからは止まらず、俺はわんわんと泣いた。
泣き疲れて眠ろうかと思ったところで、扉の外から観月が
「お兄ちゃん、大丈夫?」
と声をかけてきたので、心配かけてごめんな、と返すと観月はお休み、と言って自分の部屋へと戻っていった。
―――こうして俺は幼馴染を寝取られて、失恋したのだ。
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