第10話 超!エキサイティン!!サッカー(後)

取り返した1点で盛り上がる観客席を横目に相手のカウンターに備えて自陣に戻る。花味の強力なマグナムなゴールのインパクトが強かったのか、再度攻めあがった花味が続けざまに2点目をいれてまた観客席は盛り上がった。この試合のMVPは間違いなく花味だろうな、感謝しかない。

ちなみにどさくさに紛れて赤井と薔薇崎は選手交代でフィールドからいなくなった。…逃げたな。

そして流れが来ている間に稲架上が妙に綺麗に曲がるシュートを決めて3点。敵も味方も観客席は興奮しっぱなしの様子だ。


そんな観客席をみながら自陣に戻る途中だった。

「―――将はお前だな」

ズァッ、と一気に冷や汗が出た。いつのまに近づかれたのか至近距離を長身銀髪細マッチョの男子が並走していたのだ。

刷屋すりやカルマ、向こうのストライカーの片割れだ。真っ赤な瞳が俺を逃がすまいとしっかりとみている。真の英雄は眼で殺す…ってコト?

「お前を俺の相手と見定める。仲間のために戦う誇りある男と見た…仕留めさせてもらおう」

「おいおい俺たちがしてるのはサッカーだろ?クールに見えて随分燃えてるみたいだが、サッカーで仕留めるってなんだよ」

「?…ボールで相手を撃墜するということだが」

ソウダヨネー、花味が散々大暴れしたモンネー!ひ、否定できねえ…!!

並走しながら静かに語り続ける刷屋。

「それと俺が燃えているとお前は言ったが、どんなものであれ戦士にとっての戦いは好ましいもの。それが今日ここに居ない親友に後を任されたものであれば尚更だ」

そういえば向こうのクラス1人今日休んでるんだっけ、そいつが親友なのね。

「随分饒舌だなぁカルマ。―――俺も忘れんなよ判官」

「甲府か、こうして話すのは久しぶりだな」

走りながらの会話に割って入ってきたのは―――甲府倫太郎こうふりんたろう、

向こうのクラスの要注意人物の一人で前半暴れていたうちの1人だ。

中学の時同じクラスだったこともあるから知己の関係なのだが、にやり、と獰猛な笑みを浮かべながら甲府が話しかけてくる。

「後半も残り半分、体力も戻ったしこっからは俺と刷屋も攻めさせてもらうぜ…この、青い槍兵ランサーと言われるこの俺ガフゥゥゥゥーッ?!?!」

認識外からの衝撃に派手に吹っ飛んだあとに地面転がってって崩れ落ちる甲府。


「ごめん、判官君。ボールカットしたんだけどそっちに吹っ飛んでった」


そんな花味の声が聞こえた。お、おぉ…花味、ボールカットもマグナムでしたのか。流れ弾が抜群にいい感じに直撃したようで、甲府はヤ○チャのポーズでピクピクしている。

ランサーが死んだ、この人でなし!…死んでないけど。

棚ぼたラッキーで警戒しないといけない奴が1人減ったけど、掠めただけで医務室送りになるマグナム食らってた○ムチャのポーズですんでる甲府は頑丈だと思う。一応甲府の心配をしたが、刷屋曰く甲府はは歳上の幼馴染に毎日失言しては医務室送りの流れをやってるから問題ないとの事、…問題ないのそれぇ?!


そんなやり取りをしつつ、カウンターで攻めあがった俺のシュートは弾かれたものの稲架上がアシストしてくれたので4点目。

「サンキュな」「ああ」

そう言って稲架上とハイタッチしながら自陣に戻る。

「やったー!」「ナイス判官、稲架上ー!!」「2人ともかっこいいよー!」観客席からはそんな声も聞こえる。へへっ、やったぜ…やったぜフランとは言わないけどな!しかしリナがまだいない。

今のは俺かっこいいところ魅せれたと思ったけど残念。


返す刃で攻めあがってきて、そのまま鋭く猛攻を繰り返してくる刷屋。他の相手チームメンバーのサポートもあるが押し込まれて、俺たちの陣地でのせめぎあいになってしまった。MFの皆の体力は限界に近いようで、かなり頑張っていた花味に至っては疲労のあまりさっきフィールド外でバケツに吐いていた。だがそんな花味を笑う奴も引くやつもいなかった。それに吐き終えてから、とうに限界を越えているだろうにフィールドに戻ってきたのだ。男子も女子も、そんな花味に頑張れ、凄いと声援を送っている。

花味が全力で頑張ってた姿は、ゲロ吐いたくらいじゃ霞まないのだ。

「―――これでは決め手に欠けるか」

ゴールから離れたところで回されたパスを受け取りながらこちらを睥睨する刷屋。

「どうやら、判官おまえを仕留めるには絶対破壊の一撃が必要なようだ」

やめろ刷屋、俺を破壊しようとするんじゃない!

「この戦いにおいて俺の前に立ったお前に、最上最高の敬意を以てこの一撃を捧げよう」

「焼き尽くせ…ヴァサビィ…シュート!!」

わぁい刷屋はランチャーなのかな?思い切り足を挙げて乾坤一擲の力を込めたシュート。

「撃ち落とす!…しかないよなぁ…!!」

花味のマグナムのそれをしのぐ、熱風のような熱い一撃。果たして俺が頑張って止めれるかはわからないが、これをなんとかしないと6点目をいれられて勝負が決まってしまい、田草の決死の行動も花味の頑張りも全部無駄になってしまう。

このままじゃ俺たちは詰みだ…と腹を括って腰を落とし、蹴り返すべく身構える。爆速で刷屋のシュートが迫るってくる、が、


「身構えている時には死神は来ないもの、…らしいぞ!」


ボールを蹴り返そうとする俺の半歩先に足を出し稲架上がボールを蹴り返そうとしていた。

「稲架上?!」

「1対1の勝負じゃない、これはチーム戦だ…!」

そういいながらボールを蹴る稲架上。おかげでボールもかなり減速している。わぁい超次元なサッカーだ笑っちゃう。

「―――ここでお前が落ちても俺たちは詰みなんだろ」

俺の考えを呼んでいるのか、吹き飛ばされる前にそう小さく呟く稲架上。見抜かれてたか。…やっぱりウマが合うなお前とは!

ボールを止める、ゴールも決める。両方やらなくちゃいけないのが言い出しっぺのツラいところだな。覚悟はいいか?俺はできてる。

「うおおおおおおおっ!」

勇気を振り絞るために腹から声を出しながらボールを蹴る。確かにボールを受けて蹴り返そうとしているはずなのに、足の方が悲鳴をあげるような重くて熱い一撃。

…押し負ける?!

そんな風に最悪の未来が見えたその瞬間だった。


「頑張れぇえええええええええええ、九郎ーっ!!負けるなぁー!!」


そんな声がフィールドに響いた。声のする方を見ると、向こうのクラスの女子たちのようにチア姿になったリナがいた。露出が多いチア姿だとプロポーションのよさが際立ち、観客席だけでなくフィールドの皆の視線がリナに集まっていた。それでも羞恥心をおして、ポンポンを振りながら声を上げるリナ。

「フレー、フレー、九郎ー!頑張れ、頑張れ、九郎ー!!」

顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしながらそう言って声援を飛ばしてくれる。なんだよお前、俺のかっこいいところみたいとか煽ってきたのに…観客席に居ないと思ったら応援するために着替えてきてくれたのか。

「ファイト―!負けるな九郎、やっっちゃえぇー!!」


―――女の子にエール贈られて負けるなんてできないよなぁ!


「うおおおおおおああああああああっ!!」

「何っ?!」

刷屋の一刺しを、返し切った。――――そしてその弾道は刷屋の鳩尾に。

「一手、足りなかったか…」

そう言って数歩後退し、膝をつく刷屋。そんな刷屋に俺は声をかける。

「すまない、一人ではお前に勝てなかった…仲間に助けてもらった」

「将を護るのはチームとして当然だ。俺は俺が持てる全力で勝負を挑み、将であるお前は仲間と力を合わせ―――全力で俺を打倒した。良い勝負だった」

そう言って刷屋は倒れた。刷屋も速やかに医務室送りになり、まさか刷屋がと相手クラスにも動揺が走る。点差はもう1点。


仕切り直して攻めたもののボールを相手に獲られてしまう。そこで相手のメンバーが交代し、向こうのチームの総大将の村田氷雨…村雨が出てきた。あの村雨なにがしからボールを奪って攻めないといけない。だがフィールドに戻ってきた村雨は、ボールに片足を置き、腕組みした状態で俺たちが自陣の配置に戻るのを待っていた。

「向こうは随分悠長に待ってくれるな」

さっきのダメージがまだのこってるであろう稲架上が、しんどそうにしながらも話しかけてきた。

「いや、全員纏めて相手してやるって事だと思うぞ」

それはありがたくないな、とぼやく。こちらの迎撃準備が整ったのを確認し、村雨がイケボで叫ぶ。

「甲府と刷屋を討ったか…こちらも全力で仕掛けなければならんようだな。お前達を我が敵として認めよう!行くぞ!」

そう言って向こうのチームメンバーと攻めてくる。

「とめてやる!」「俺だって!」「やってやる、やってやるぞぉ!」

皆が、ボールを持って先陣を切る村雨に当たりに行く。

「無茶するな、あとその島田なにがしさんっぽいやられ兵の台詞は危険だからいけない!」

そう声をかけるが、皆覚悟を決めた様子で突っ込んでいく。

「試合に勝つか負けるかなんだ、やってみる価値、ありますぜ!」

それオーバーロードで爆死してしまうやつだぞ!…そして皆吹き飛ばされ蹴散らされて行く。みんな満身創痍だってのに無茶しやがって…!

そしてゴールに迫った村雨が、必殺の一球をゴールめがけて放った。

「往くぞ!!斬漢蹴(ざんかんしゅう)―――!チェストォォォォォォォ!」

前半戦で見た宙を切り裂くような一刀両断のシュートだ。

だが…


「この瞬間を待っていたんだーっ!」


村雨のシュートに対して、下から斜め上にすくい上げるようなキックをいれる。

「何っ!?」

振り下ろされた一刀のその力の行く先を、蹴って違う方向へと向けた。

「――――貴様、俺の技を…!!」

驚く村雨。そう、前半戦に見ていた中で俺だけはこの村雨のシュートに対して有利が取れると確信していた。村雨のこれは刷屋の爆発するような一撃ではなく、鋭く速いというのがキモになる。だから俺の軽さ器用さを活かしたこの動きで対策が出来ると踏んでいたのだ。

「前半の奴らが頑張ってお前の技を引き出してくれたおかげだよ。見ていたから対策が出来た」

村雨とのすれ違いざまにそう囁く。

角度を変えた村雨のシュートは放物線を描き、村雨の頭上を通り過ぎ相手ゴールの方へと飛んでいく。足元の地面を注視しがちな中、瞬間的に頭上にあがったボールに皆反応が遅れた。村雨は反応はできていたが、シュートを打った直後なので動けない。そして相手チームのメンバーが気づいたとき、俺は上がった前線でボールをキープしながら相手のゴールへと侵攻していた。

「そこー!行け行け九郎ー!かっこいいぞー!!」

勝利の女神(リナ)の声援が心強い。

追いすがってくる相手の選手を、ヒラリと跳び、ボールを浮かし、飛んで交わしていく。

「判官九郎――――義経の八艘飛びか!」

背後に迫ってきている村雨の声が聞こえるが、この距離ならこのまま振り切れる!!

「がんばれー、しょうちゃーん!!負けるなしょうちゃーん!!」

向こうのチアの藤島が村正―――しょうちゃんにエールを送り、しょうちゃんもボールを止めようと構えている。

どっちの、勝利の女神(チア)がほほ笑むか、だな―――――!!

ギリギリまで近づいたところで、シュート!と見せかけてボールを蹴って垂直に―――頭上に浮かせる。

「くぅっ!?」

フェイントに引っかかり、動いてしまったしょうちゃん。

そして浮かせたボールをそのままヘディングしてゴールへと押し込んだ。

これで5点!!その瞬間、試合終了のホイッスルが鳴った。


…なんとか同点まで追いついた。負けはしなかったぞ、と。


「同点だーーーーーー!」「すっげえええええ!」「どっちのクラスもすごかったねー!」

そう言って、どちらのクラスもフィールドに向かっておしみない拍手を贈ってくれた。

「やるじゃん九郎~~~~!かっこよ~~~~~!」

感極まったのか、駆け寄ってきて飛びついたリナを抱き留めて――――自分の行動と薄着のチア服来ていることに気づいたのか即座に離れる。ははは、顔真っ赤になるくらい恥ずかしがってる。昼は俺に可愛いところあるよね!なんて俺に言ってたけど、リナも大概可愛いところあると思うぞ。

「応援ありがとな、リナ。―――あとそのチア姿、似合ってる。可愛いぞ」

「ンッ、可愛ァ!?」

照れてる照れてる。

はははは、と笑いつつ見ると、前半頑張ってたメンバーもフィールドに走ってきて、それぞれに後半組を労ったり、ワッショイしていた。


「―――判官と言ったな。貴様、俺たち相手に5回それをするつもりだったな?」

そう言うのはすぐ背後に迫っていた村雨。あと数秒、ほんのギリギリで振り切って最後のヘディングをいれることができたが…まさに鉄骨渡りの気持ちだった。

「…実際にはできなかっただろうけどな。皆がそれぞれ頑張ってくれたから勝てただけ。いや現実は難しい」

実際、最初は皆に戦線を膠着させてもらいながら八艘飛びを繰り返すってやり方を考えていたがその場合どこかで刷屋に潰されていただろう。俺が村雨に有利をとれたみたいに、刷屋の奥の手は俺に対して特効だ。あの刺すような一撃は俺だけじゃなんともならなかった。

やっぱり一人で出来る事って限られてるし、力を合わせるのって大事だよなぁ、と勉強になった。


「お疲れ、判官」

「おう、稲架上」

「お疲れさま、判官君」

「花味お前はMVPだ。超凄いな」

そうやってフィールドの仲間と声をかけあい、対戦した相手のクラスの選手と健闘をたたえ合ったり、労い合った。


その間、佳織は所在なさげに、もしくはつまらなそうに皆を見ていた。いつもは佳織の周りにいる女子たちも、今はそれぞれに散って花味や他の選手の所にいって興奮しながら話しかけている。おもえば佳織が高校デビューしてから1人になってる姿ってみなかったな…。

佳織自身もどう反応するべきか迷っているのか、困っているのか。

同点になって皆盛り上がったんだから、ここはみんなの輪に入って行けばよいのに…と思うが、俺自身も相手のクラスの選手たちに囲まれて身動きできず、お前も輪に加わればいいだろ、と話しかけに行くことが出来なくなっていた。


かくして超次元エキサイティン!サッカー!!(のようなもの)は、両クラスそれなりの人数の医務室送りはあったものの、大盛り上がりとなり両クラスの交流は、幕を閉じた…ようにみえた。

「ねぇねぇ、折角こんなに盛り上がったんだし今日の放課後、打ち上げになだれ込みしない?」

向こうのクラスの女子、チア姿の藤島がそう言ってリナに話しかけてきていた。

「え?あー、えっとそういうのは誰に言えばいいのかな」

リナは急にそんな話を振られて困っており、同じチア服だから話しかけたのだろうが、自分ではなくリナにはなしかけられたことが気に障ったのか佳織が顔をゆがめていた。とりあえず俺も話を聞くのに加わるかーと思うが、ずんずんと足音の擬音が付きそうな歩調で佳織が藤島さんの前に向かって行った。

「そういう話は私が聞くから」

藤島さんも他意はなかったと思うが、急に話に加わってきて不機嫌な様子の佳織に困った様子だ。

「え、えーと…ごめんなさい?」

「…いーけど。で、打ち上げって何するの?」

「よしくん…じゃなかった、“私の知り合い”に顔が広い人がいて、駅前のカラオケの無料チケットたくさん貰ってるからそれを使って皆でカラオケにいくのとかどうかな?お金はいらないよ」

無料、ということに反応する佳織。

「あら、へーぇ。いーじゃない」

うちのクラスの男子や女子も、無料と聞いて賛成!行く!と乗り気の奴が多い。部活があったり乗り気じゃない奴もいるが、それでもこれは結構な人数になるんじゃないだろうか?

「はーい、それじゃ今日の今日で急だけど、時間は…ちょっと長めにとるから、途中参加や帰るのも自由でカラオケで2クラス合同打ち上げしちゃおーよ!」

賛成ー!と皆が返事する。

「リナはどうする?」

「んー、九郎が行くなら行くつもりだけど、アンタは今日の立役者だし強制参加でしょ。だから私も行くことになるわね」

「おい判官、お前絶対来いよ!」「わー、来て来てぇ~♪」「ねー、九郎くん、ちょっと…いいよねぇ」「そうそう、クラスで九番じゃなくて学年で九番…だったり?」「上手い事いうじゃ~ん」「花味、お前も強制参加だからな!」「あとさ、佳織ってさぁ…」「うん、そうだねぇ…」

なんだか色々な声が飛び交っている。うーん、丁度バイトない日だからいいけどさぁ。ということで今日の放課後は急きょ皆でカラオケにいくことになりました。


…凄い人数になるんじゃないこれ?


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少しだけ毛色の違うギャグ回を書かせていただきました、お付き合いいただきありがとうございます。筆者はネタとかギャグも好きなんです…許してください…。ということで次回からは通常運転に戻りつつのカラオケ打ち上げ会になります。宜しくお願いします。

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