第11話 綻び 歪み a dissonance①

そうして午後の授業も終わった放課後、俺はリナと並んで駅前に向かって歩いていた。

「それにしても駅前のカラオケ、ね…」

何か思う所の在るような、奥歯に物が挟まったような物言いをするリナ。

「ん、何か曰く付きの場所ところだったりするとか?

全身灰色の男の子が出てきて入居者が全員死んだりするような」

「トシオくん?!…っていやそう言うのじゃないけど…。

駅前のカラオケっていうとセダックスだと思うんだけど、あそこなんか店員がこうチャラいというかマイルドヤンキーというかそういう奴ばっかりなのよね」

あー、そういう。

「だから九郎が一緒じゃなかったら私は近づかなかったかなーって」

そういってあはは、と笑うリナ。

「それは…頼りにしていただいてどうも?」

「いえいえどういたしまして?」

そう言ってお互いの顔を見合わせて、ははは、と笑い合ったり。


そんな風に歩いていると件のカラオケに到着した。

入り口にいるのは試合中はチア姿で彼氏の応援をしていた藤島――今は制服姿だが――と、GKのしょうちゃん…村正で、2人がこっちに向かって手を振っていた。

「こっちこっちー!」

「よう!さっきはやってくれたな判官」

そんな2人にお誘いいただきどうも、と声をかける。

先に着いた何人かはもう中に入っているらしく、今日は人数が多いので4部屋にわかれて自由に部屋の行き来しながら騒ぐらしい。やっぱり結構な人数になったんだな。

「こっちのクラスからは甲府とか刷屋とかも来てるぞ。村雨もお前が来るならと乗り気だったからじきくるだろ。赤井と薔薇崎は不参加だけどな」

「そうか。俺のクラスも結構大所帯になりそうだ。佳織―――ああ、うちのクラスまとめてる女子がグループで来ると思う。花味や田草も遅れて来ると言ってたな。稲架上も来ると言ってたが…」

「ここにいるぞぉ!」

村正と話していると後ろから声をかけられた。

「うわびっくりした!稲架上か…」

反乱を阻止したどこぞの武将みたいな登場をするんじゃない心臓に悪い。

「ははは、悪い。ほんのいたずらごころだ」

「優先度+1かよ全く…」


入り口の2人の挨拶を済ませ、現れた稲架上とも合流して、俺たちは部屋の一つに入った。

「―――あなたのそのふんふんふんふーん」

丁度黒と黄色のジャージを来た歌手がトラックにはねられるMVのシーンだ。

歌っていたのは…刷屋か、普通に上手い。

その隣には、先についていたであろううちのクラスの女子が2人座っている。

あれ、この2人っていつも佳織といるグループの2人じゃなかったか?

…まぁ四六時中一緒ってわけでもないんだろうけど。


刷屋といえば歌ってる最中なのでマイク片手に歌いつつ、俺達に手を挙げてくれたのでリナと2人で同じように手を挙げて席に座る。稲架上も同じように手を挙げて席に座っていた。刷屋の唄が終わるのを見守っていたが、歌い終わると女子2人は、「刷屋君上手い!施しのヒーローって感じする!!」「びゃあ゛ぁ゛゛ぁ上手い」等と拍手しながら盛り上がってる。

「判官に大垣、稲架上もお疲れ!先にお邪魔してるよー!」

そう言ってこちらに手を振る栗色ストレート髪の子は…藤堂っていったな。

佳織の周りにいても結構意見を言ってる子だったから目立ってる子だ。

「おつおつ~ん。やー今日のQちゃんとマフテ・・・じゃなかった稲架上くんもカッコよかったにぃ~。大垣さんも可愛かったよん!でもあんなコスするならウチも誘ってくれたら一緒にチアしたのにぃ。次は誘ってよにぃ」

Qちゃんて俺の事か…?そんなふわっとしたしゃべりと藤堂よりも明るい茶髪を三つ編みを胸元に垂らしてる糸目の女子は福田だな。割り機を使って作っただし巻き卵を食べたお父さんみたいな反応してたけど、こっちは藤堂よりもマイペースな感じがする子だが、藤堂と仲がいいのかいつも藤堂の隣にいたような覚えがある。

「それじゃあバンバン歌って行こうにぃ、おっと次私だった」

かーきーなーらーせーとかノリノリで歌う福田、アニメかなにかの歌だっけ?こっちも普通に上手いな!ちなみに俺は青い子が好きですね。


刷屋は福田がリクエストしていれていく歌(主にアニソン)を歌い、藤堂はヒットチャートにあるような流行りの曲、リナはぷいきゃーとか特撮とか、休日の朝にやってる様なものの歌が多い。あめりちゃんと姉妹でみてるんでしょわかるよ…俺も子供の頃妹と一緒にセーラーゲッコーとか少女漫画アニメみたり、特撮観てたりしたし。

俺はと言うと福田が色々と曲をリクエストしてくるので、歌える曲なら歌いつつ適度に話に花を咲かせて、楽しい時間を過ごす。

稲架上は福田に逆襲のナントカのEDを歌されてた。びーよんざーふーん。

結構上手だったのもあるが、稲架上がを歌うのは妙にしっくりくるんだよな…不思議ぃ。個人的にはもう一曲稲架上に歌ってほしいのがあるからあとでリクエストしてみようかな。閃い光のガムダンの曲。


「そういえばQちゃんって、お肌きれいだしなんか近くを通るといいニオイするよねー」

何を思ったのか、そういって近づいてきてフンフン、と鼻を鳴らしてニオイを嗅ぎはじめる福田。

こら、女の子がそんな事するんじゃないわよはしたない…と鼻先を手で制止すると、そんな手をぺろぺろと舐める福田。…猫かな?

「ん、いいニオイだにゃあ…」

「な、ちょっ、福田ぁ!?」

バッ、とリナが福田に飛びつきストップさせる。

「にゃはは、ついつい。リナちんの彼ピなのにごめんにぇ?」

「か、彼…!?ち、ちが、私達まだそういうんじゃないし!!友達だし!」

顔を赤くして手をブンブン振るリナ。

「ふーん、今まで喋った事あまりなかったけど大垣ってなんか…おもしろカワイイじゃん!」

そういってカラカラと快活に笑うのは藤堂だ。

「そだにぃ~。Qちゃんとリナちん…推せる!!」

そういってグッ!とサムズアップする福田。

「な、なによもうぅ…」

そんな2人にリナは小さくなってしまっている。

「青春、だな」

グラスでドリンクを飲んでいた稲架上が、カラン、とグラスの氷の音を鳴らしながらが呟いていた。

女子三人が仲良くしてるのって青春て感じするよね、わかるとも!


それからほどなくして、花味や田草、他にも同じクラスの仲間や相手のクラスの人達も回ってきて、労われたり声をかけられたりした。

聞いた話によると遅れてきた村雨は隣の部屋に入ったらしいがリクエストに応えて「うまじゃんぷ♪うまじゃんぷ♪」と振付こみでうまじゃんぷレジェンドを歌ってくれたらしい。

…大盛り上がりだったそうだ。

村雨が、あのイケメン顔で?振付踊って?うわめっちゃ見たかったなそれ。

「俺も他の部屋に顔出してくるかなぁ…」

「んー、私はどうしようかな」

立ち上がって俺を視てそういうリナだが、疲れた様子だったので、ここで休みながら歌ってればいいと声をかけた。

刷屋や稲架上がリナをみていてくれるというのと、リナの腕にコアラみたいにひっついている福田が「リナちんの事は私に任されるにぃ~」とピースサインをしている。

随分仲良くなったみたいでいいことだとほっこりする。

リナはここで休んでてもらえば大丈夫そうだ。


部屋を出て隣の部屋に行こうとしたところで、お手洗いから戻ってきたのか藤堂と鉢合わせをした。

「判官じゃん。どこ行くの?」

「他の部屋にも顔出しておこうかなと思って」

ふーん、マメじゃん。いいとおもうよ、と頷く藤堂。

それじゃ、と通り過ぎようとしたところで藤堂に呼び止められた。

「判官、ちょっとだけ時間、いいかな…?」

そんな藤堂の様子がらしくない気弱な雰囲気だったので、何事だろうと思いつつ促されるままいったん店の外に出た。

「どうしたんだよ一体」

「うん。その…ごめん、判官!」

そう言ってガバッと頭を下げる藤堂。

「私、アンタの事馬鹿にしてた。九番目って言ったり散々アンタを下に見るようなこと言ってた。…だから、ごめん」

あー、なるほど、と思うが大して気にしてなかったのでわざわざ謝られるほどの事でもないと思う。

…けどきちんと謝らなきゃと思う当たり、藤堂は正直なんだろうな。

「いいよ、気にしてなかったし。藤堂もあんま気に病むなよ…っていうかそんな事で気負われると俺も困る」

俺がそう言うと顔をあげる藤堂。

「…うん、ごめんね。ありがとう」

目尻をぬぐっているので、あんま気にするなよ、と笑っておいたが、ちょっと顔が赤くなってる。

「風邪気味か?」

と聞くと

「違うって。…ンンンン、でも大垣がいるしなぁ。…はぁ」

そう言ってため息を零す藤堂。ンンンン?美しき肉食獣かな?女子はよくわからん

「そう言えば今日は佳織とは一緒じゃなかったんだな」

本当にそう言えば、と思い出したので聞くと、微妙に言いにくそうな様子をしたが、一呼吸して意を決したように藤堂が話しかけてきた。

「私…と多分福田もになると思うけど、ちょっと佳織と距離置こうと思ってさ」

「…何だって?」

藤堂の言葉に素直に驚く。

「…はじめはさ、私と佳織、席が近かったから私から佳織に話しかけたんだよね。

で、TVとかYO!チューブの趣味があったからで、仲良くなった…つもりなんだけど。

GWの前あたりぐらいからかな…少しずつ佳織の態度が変わってきて。

人の見た目とか、誰より上とか下とか、人の事悪く言ったり、そんな話ばかりをするようになって。

佳織の周りにいる他の子もだんだんそんな事で盛り上がってばかりいるようになってさ、なんか…佳織の周りの空気が悪くなっちゃった。

私は好きなアイドルとか、昨日見たTVの話とか、なんとかチューバーの話だとか、そんな話を楽しく話せてたらそれでよかったんだけどね」


俯きながらそう言って俺に背中を向ける藤堂。

肩の下がった後ろ姿に寂しさを感じるのは、多分気のせいじゃない。

「瑠璃(るり)―――あ、えっとちがった。違わないけど…瑠璃ってのは福田のことなんだけど…ええい、それはどうでもいいや。

福田とは幼稚園の頃からのお馴染みで、私が佳織と一緒にいたから福田も一緒に佳織達のグループにいたんだけど、あの子もずっと居心地悪そうにしてて、それも気にしてたんだ」

そういいながら、ゆっくり顔を上げて空を見上げている藤堂。

「そこからの、今日の事。

前半あんなに男子の皆が頑張ってたのに、それを悪く言ってる佳織をみたら…さ。

佳織とはちょっと距離を置こうって思ったんだ。

…福田は何も言わずに…いや、にゃあにゃあ言ってるけど、

何も聞かずに私の隣にいてくれるから感謝してるんだ。

こうして佳織たちから離れて私たち2人だけで先にカラオケにいくって言った時も『にゃんにゃん♪』の一言でついてきてくれて。

本当に大切にしないといけない友達って、間違えちゃいけないなってそう思ったから」

そういってゆっくり振り向く藤堂の表情は、何か吹っ切れたようにさわやかだった。

「…ってコト。ごめんね?変な話になっちゃったね」

「いや、俺が聞いたからだし嫌な事言わせてすまん」

そう言って頭を下げると、判官って真面目だねぇと笑う藤堂。

するとひょこん、と座って、頭を下げた俺の下から俺を見上げてくる。

「ね、もしよかったら…多分福田もアンタ達とそうなりたいって思ってると思うんだけど…私たちと友達になってくれないかな」

「それは、こちらこそだが―――よろしく頼む。

俺も藤堂みたいにサッパリした奴…嫌いじゃないわ!」

「ありがと、よろしくね。…ってあんた実はオネエ系の敵幹部だったりするの?」

そう言ってにっこり笑顔であははと笑う藤堂。

「…やっぱクラスメートは助け合いでしょ?」

「仰る通りだわ」

こいつ劇場版みてるのか?と思ったのでネタを振ったがキッチリ返してきたぞ、やるな藤堂!

「あ、でも大垣がいるのはわかってるからそこは安心して?…女子の仁義は通すから。あとで大垣には話をさせてもらって筋は通すし」

安心?女子の仁義?筋?…よくわからん。

わからないが…今言わないといけないことが一つある。


「藤堂、―――パンツ見えてる」

「ちょわーー!?」


バクシンバクシンしそうな悲鳴をあげて飛びずさりスカートを抑える藤堂。




…ピンクのストライプ、か…。


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