第12話 綻び 歪み a dissonance②
そうだ、メッセージ交換しようよ」と言ってスマホを出す藤堂。
「おー、いいぜ…あっ」
スマホを取り出したところでそう言えばリナとメッセージ交換してないなと思った。
「どうしたの?」
「いや、そう言えば俺リナのメッセージも知らないなと思ってな」
そう言うと「はっぁぁ~~~~~?」と呆れる藤堂。
「何やってんのよ判官。あんたバカァ?」
どこぞの2号機パイロットみたいな事言うなよ…と言うと、「これだから男子って…」と頭をかきながら唸っている。
「いい、あんたはまず、大垣とメッセージ交換すること。それが済んだら、私とも交換して」
「お、おぉ?」
「いい!?今日!このカラオケ終わったら!大垣を家まで送って!その帰り道で!メッセージ交換するの。わかった?」
人差し指で鼻先を指さし、ずいずい詰め寄ってくる藤堂。
「お、おう、わかった」
コクコクと頷く。
「絶対だからね?!」
藤堂派はそう言うと、はー…大垣も大変そうだなぁ…とぼやいていた。
「いや、別にリナに聞かれれば普通に教えていたんだけど…」
「違う、そうじゃない」
人差し指を伸ばした右手を左肩に、左手を右脇腹にあてたポーズでキッ!!と俺を睨む藤堂。
「たわけ。いいから今日の帰り道でメッセージ交換するようにアンタからいいなさい、いいわね?この…たわけ!」
た、たわけたわけってどこぞの女帝さんみたいに言わないでほしいッピ。女子って…わ、わかんないッピ…。そんな藤堂との話も終わり、藤堂は部屋に帰るため、俺は他の部屋に顔を出して回るために店内に戻った。
―――――バリーン
手近な一室から、そんな、何かが割れる音が聞こえた。
「ちょっと佳織ぃ!」
そんな女子の声も聞こえた。今佳織って聞こえたよなぁ…?と、藤堂と顔を見合わせた後で扉を開け、その中に入った。
「どうした、何かあったのか?」
そう言って扉を開くと、ソファーから立ち上がっている佳織と、佳織の周りにいつもいる男女―――今日のサッカーでも前半出ていた運動部組達含む―――が皆怯えたように佳織を見ていた。
「…何よ九郎。別になんでもないわよ」
「何でもないって雰囲気じゃないだろコレ。…っていうかそれ」
佳織の足元に、割れたコップが散らばっていた。
「別に。私がコップ落としただけだし。そこのアンタ、ホウキと塵取り持ってきて片付けといてよ」
「お、俺ぇ?!」
手近にいたサッカー部の男子にそういう佳織。
…なんだかよくわからないがご機嫌斜めらしい。
とはいえこういうのって客がやっちゃいけないんだよな、お店の人に任せないと。
「やめなよ。コップが割れたなら店の人に連絡して片付けてもらった方がいいよ。
私も飲食でバイトしてるからわかるけど、お客が自分たちで片付けようとして怪我でもされたら店の人もかえって困るから」
俺と同じことを思っていたのか、藤堂がそう言った。
やめなよに定評があるな藤堂…!
あと飲食店でバイトしてるんだな。
「藤堂あんた…私たち置いて勝手に先に行ったわよね」
藤堂を見てギリッ、と歯ぎしりしながら睨む佳織。
「メッセージで連絡いれといたよ?既読もついてたから見てる筈だけど」
藤堂のそんな言葉に、「…謝りなさいよ」と言う佳織。
なんでこいつそんな事でムキになってるんだ?
別に連絡して先に行ったならそれで終わりの話だと思うし藤堂が謝る事でもないと思うが…。
「…先に行ってゴメンネ。これでいい?」
藤堂の方が大人なのかそう言って謝る。…あまり申し訳なさそうには見えないが。
「くっ…あんたねぇ…」
だが佳織もそれ以上は追及しなかった。
「…それじゃあ店員に連絡するか…いや、俺が店員呼んで来た方が早いか」
話がひと段落したみたいなので、そう言って扉を開けて部屋を出ていこうとしたところで佳織が声を荒げた。
「いいって!余計なことしないで!」
そんな声に足を止めて振り返る。顔を真っ赤にした佳織がこちらをにらみつけていて、部屋にいる皆は佳織の剣幕にびっくりしていた。
急に大声出すから皆びっくりしてるし、何事みたいな顔してるぞ。
…それでいいのかよ佳織、
「何なのアンタ。私に振られたくせに…私より出来るヤツみたいな態度でさ!すました顔してぇ!」
フーッ、フーッと荒い呼吸で唸る佳織。
おいおい興奮のあまりトミノ節みたいなことになってるぞ・・・なんて思う位に心の余裕があるのは、俺が失恋からそれだけ立ち直ったって事なんだろう。
「いや、そんなつもりないけど。まぁ俺が佳織に振られたのは事実だけど…困ってる人を放ったままにおくのも気が悪いだろ」
「困ってないし、助けてとも言ってないでしょ。余計なお世話よ!」
「そりゃすまん。余計なお世話はヒーローの本質なんで」
そう言って肩をすくめると、「この…っ!」と拳を握ってグギギとしている。
「大体今日の事だってそう。向こうのクラスからはなんかアンタがやけに高く評価されてるみたいじゃない。後半取り返したのは事実だけど、それが自分の手柄だとでもいうつもり?」
「それはクラスの皆で力を合わせた結果だから誰の手柄とか誰の失敗とかじゃないと思うぞ。それに、こうやってクラス間で仲良くなる機会ができるくらい盛り上がったんだから、それでいいんじゃないのか」
「はぁ?何それ。そもそも前半組の運動部の男子がだらしないから悪いんじゃない!」
そういって男子達を睨む佳織。
隣の藤堂が何かを言おうとしているのを察したが、手で制止させて俺が言う。
「―――そこまでにしておけよ佳織」
静かに佳織を睨むと、「な、何よ…」と小さく呟いて怯んでいる。
「相手のクラスは凄い奴らばっかりだった。前半のメンバーらが5点で抑えたのもすごい事なんだぞ?
それに前半組がフルタイム頑張ってくれたおかげで、後半から出た俺たちは体力が減ってない状態で有利に立ち回れた。それに対して向こうのクラスはこまめに選手が入れ替わっていたから、後半の時点で体力が減ってるメンバーばかりだったっていうのも、俺たちがあれだけ点を取り返せたのもあるんだ。皆で頑張ったからの結果なんだ」
「は、はぁ…!?後半なんて、私がたまたまメンバーから外した花味が本当は滅茶苦茶サッカーが上手かっただけじゃない。アンタは実はそれ知ってて黙ってたんじゃないの?!」
「それは違う。花味のアレは試合の中で、可能性の獣というか目覚めちゃいけない何か的なものが目覚めてしまった事故みたいなラッキーでしかない」
―――というか花味のマグナムはあれサッカーじゃなくて殺意を込めた限界突破の馬鹿力でボール蹴ってるだけだから、サッカーとは似て非なるものだと思う。説明が面倒くさいし、ややこしくなるから黙っておくけど。
「わけわかんない事言わないでよ。あんな風に後半で劇的に巻き返したら私の采配が悪かったみたいに見えるじゃない!もしかして私を陥れるつもりだったんじゃないの?!」
「繰り返すけどそんなつもりはないって。俺はただ、前半頑張ってた皆の頑張りを無駄にしたくなかったし、…折角だから勝ちたかっただけだ。そこにいる佐藤なんて前半後半フルで出てくれてたんだぞ?それってすげーよ。前半組って褒められこそすれ誹りを受ける筋合いはない、と俺は思うぞ」
あの超人メンバー相手に五体満足で20分持たせて5点で耐えたのってうちのクラスのサッカー部相当優秀だと思うから褒めちぎりたい位だよ。
「「「ほ、判官…」」」「しゅき…」
なんか運動部の男子達が妙に熱い目で俺をみながら声を上げている。
よせやい、照れる。
あと佐藤お前最後になんか変な事口走ってなかったか?気のせいだろうけど。
「まぁそんな事だ。別に佳織がどうこう言うつもりはないし、運動部のメンバーで前半をしのぐって佳織のチーム分けがあったから後半に俺達が点を取り返すことが出来た。だから結果でいえばお前の采配があったから同点で引き分けることが出来たんだ。そう胸を張ればいいだろ」
そんな俺の言葉に、佳織は言い返す言葉が無くなったのか、黙り込んだ。
運動部の男子達はなんかキラキラした目で俺をみてるし、なんか女子も熱のこもった目を向けてくる。…なんだこの空気。
「あー…まぁそう言う事だ。店員呼んでくるからガラスで怪我しないようにしろよ。…なんか変な空気にしちゃったみたいで皆ごめん」
そう言うと、「全然そんなことないって、ありがとう!」「そうそう!今度飯奢らせてくれよな!!」「え~ウチらも判官君とご飯行きたいし」「そーだそーだその時は私たちも呼べよ男子ぃ」「とりま歌入れるか!」「そうだね、あそこにもガラス飛んでるから気をつけて」
そんな風に、賑やかで明るい雰囲気に戻った部屋に安心し、扉を開け部屋を出た。
藤堂も俺にについて部屋を出たので並んで歩いていく。
丁度部屋に戻る途中の通路に店員がみえたので、コップが割れた事と部屋の番号を伝えると「わかりました、すぐいきます」と言ってにっこり笑って走り去っていった。
リナからはヤンキーだとかチャラいと聞いていたが、なんかイケメンの店員だったな。
藤堂をねっとりと見ていたのは気になるが…。
「どうした藤堂?」
「いや、なんかあの店員の視線に怖気が。…今のってモデルの多羅篠…?いやこんな所にいる筈ないかぁ…」
なんだかぶつぶつと言っていたが、有名人だったのかな?あまりタレントやアイドルは興味ないんだよなぁ…。
「あーあっ、大垣が羨ましくなっちゃった」
そう言って並んで空きながら背伸びをする藤堂。
「突然どうした」
突然リナの名前がでて驚いたので何故かと聞いてしまう。
「べっつに~?…あー、もっと早ければなぁ、タッチの差かなぁ…おのれ運命…コスト3000…」
「よくわからんが…元気出せ?」
「おまいうおまいう」
よくわからないな。そんな事を言いながら俺たちは部屋に戻るのであった。
…そう言えば佳織、俺を振ったとか皆の前で言ってたけどいいのか?
俺は気にしないけど…自分で口走ったんだし…まぁいいか。
「お前、僕に釣られてみる?」
部屋に戻ってまず見えたのは、ステージの上でそんな決め台詞を言って小道具の眼鏡をクイッとしながらポーズをとる刷屋。曲が流れてきたけどこれ特撮の挿入歌だ知ってる。青くてロッドなバージョンだよね。そういえば刷屋と声もそっくりじゃん!
「おかえりー?」
「にゃしぃー」
そう言って声をかけてくれるリナと福田だが、リナは俺と藤堂を交互に見て「むむむ?」と首をかしげてる。どうしたんだろう。
「あー…丁度良かった。大垣、ちょっといい?」
そう言ってリナを呼んだ藤堂が部屋の外に出ていった。
なんでも女子だけの話があるらしい。…女子って色々あるんだな。
一方の俺はと言うと、刷屋がセリフありバージョンの歌を熱唱してるのを福田ときゃっきゃしながら聞き入る。稲架上はタンバリン叩いてくれてた。いい奴ゥ!
「歌ってみて感じるのだがなぜだろう…この歌は俺にすごく馴染む…」
本当そうだね。まるで青い亀の人そのまんまみたいにそっくりな声の熱唱だったよ。
「良く知らないがぶっつけ本番でやったのだがこれで合ってたか?」
「完璧すぎでしたね」
そうしていると閃いた光的な曲の前奏が流れだした。劇場版2話目も楽しみな奴だ。
「あ、これは稲架上君に歌ってほしい奴だにゃぁ」
そう言った福田から、稲架上君にまわしてとマイクを渡される。
「やってみせろよ稲架上」
そう言ってマイクを渡すと、ため息をつきながらもマイクを受け取ってくれる稲架上。
「なんとでもなるはずだって?」
そんな事をいいながらもノってくれるところイエス、だね!
「まんま本人だにぃー」
福田はにゃあにゃあしていた。
そして歌い始める稲架上。
「鳴らないワードをもう一度ライティング~♪」
これはつまり…閃いた光の稲架上‼
…あ、他の部屋に顔出してくるの忘れてた。
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