第20話 段取り八分の仕事二分っていうよね
代表女子コンテストの申込みを済ませたその日の放課後、俺とリナ、それに藤堂、福田、あと声をかけたら稲架上も一緒に来てくれたのでケーキ屋でテーブルを囲んでいた。
「…ということで代表女子コンテストは今週末に締め切り、来週末の午後に全校一斉で体育館に集まって各自のアピールと投票かぁ」
そんな俺の言葉に、コンテスト申込の際に渡された要項を読み込んでいる稲架上。
「何々、シンプルにそれぞれが持ち時間で自分をアピール、と。本当にシンプルなルールなんだな」
「アピール…何でアピールすればいいのかしら」
「お化粧は私にまかせるにぃ」
「衣装合わせは私が協力するよ。コスプ…家で裁縫したりとかしてるし」
リナの言葉に福田と藤堂がそれに続いて言う。おー、何とかなりそうじゃないか!
「でも藤堂も福田も良かったの?…眞知田に何か言われない?」
そんなリナの言葉に、揃ってグッとサムズアップをする2人。
「何言ってんの大垣…いや、リナ。私達友達でしょ!」
「リナちんの傍の方が面白いにぃ」
そんな2人の言葉にウルッとしているリナ。女子同士の友情って…いいものですね!
一方の俺はと言うと、声をかけて巻き込んで今更なんだがなぜ一緒に来てくれたのかと稲架上に聞いてみた。
「…嘘をついているのが眞知田だったからな」
顎に手を当てて思案するようにしながらそう言う稲架上。
「何でそう思う?」
「何となくな。まぁ勘という事にしておけ」
あと一緒にサッカーに出てた男子の大半はお前たち側だと思うぞ、と続ける稲架上。いまの状況で眞知田側についてる男子は、彼女や好きな女子が眞知田側にいる連中ぐらいだけど本心では眞知田を疑ったりしてると思う、とも。
た…頼りになる男すぎんか稲架上ェ!!
「そういえばお前の彼女―――か?この間一緒にいた金髪ストレートの女子は出ないのかよ」
そういうと、ブフッとむせていた。
「ゴホッ、ゴホッ、お前みていたのか?…あれは違う、付きまとわれているだけだ」
おお、なんだ。隅に置けないじゃないか稲架上。
「あんなかわいい子なのに?勿体ないなぁ」
そう言ってちゃかすが、遠い目をする稲架上。
「よせよ。…俺もお前と似たようなものってことだ。…振られて心の傷になった幼馴染がいるんだよ」
「…なんだお前もか」
「だからお前にシンパシーを感じた…だからウマがあったのかもな」
「そうか。…ちなみにお前の幼馴染は?」
「マザコンとロリコン併発した年上の社長に寝取られたよ」
「それは…なんというか…」
女子3人がにぎやかにしている横で、俺と稲架上はそんな――幼馴染を寝取られた者同士故の共感を分かち合いながらグラスを鳴らした。
それじゃあ、と解散した後でリナを家に送るべく2人で歩く。
「今日は―――すまなかった、俺のトラブルにリナを巻き込んだみたいで」
そう言うと、ううん、と首を振るリナ。
「いいの。私ずっと眞知田にムカついてたし…九郎の事馬鹿にされ続けて、嫌だったし」
「そっか…なんかごめんな。アイツも中学まではあんなんじゃなかったんだけどなぁ」
そう言ってため息を零す。
「…でもさ、眞知田がああなったから、今こうして私は九郎の隣を歩いてるし、藤堂や福田とも仲良くなったんだよね。禍福は糾える縄の如し…塞翁が馬だっけ?どっちでもいいや。人のつながりって不思議だよね」
「そうか、言われてみればそうだなぁ」
リナの言葉に、ぼんやりと空を見上げながらそう思う。佳織が浮気して…寝取られたことがきっかけでバイト先では仁奈さんにあったし、リナと仲良くなるきっかけにもなったし、佳織がああなってしまったからこそ藤堂や福田とも親しくなった。
「そう考えたら悪い事ばっかりじゃなかったかもな。いざ浮気だ寝取られだって思ったときはショックだったけど、今はもう前みたいに気にならなくなったしな」
そんな俺の言葉に、「それは何よりでござる」と、にこっと笑うリナ。…なんだろう、リナが笑うとドキドキする。
リナは鼻歌交じりに俺の少し先を歩く。後ろ手に手を組みながら、ご機嫌な様子の歩調。あ、今更だけどリナの鞄は俺が持ってるのでリナは手ぶらなのだ。
「あー、失敗した!!!」
俺の数歩先を歩いていたリナが、空を見上げながらそんな事を言った。
「んん、どうした?!」
「―――私、眞知田との勝負で勢いで全裸土下座でもしてやらぁ!できらぁ!とかいっちゃったけど、眞知田にも全裸土下座させてやればよかったぁ!!」
そう言って振り返って笑うリナの言葉に、俺は、それは容赦ないなと笑顔を浮かべるのであった。
それから衣装の準備をするといって福田の家にリナや藤堂が泊まり込んで女子会を兼ねて採寸をしたりしたようだ。
俺はと言うと衣装周りとかの事前準備で出来る事がないので、稲架上と手分けしながら仲良くなった男子のツテを頼って去年までの代表女子コンテストがどんなものだったのか情報を集めてたりした。意外な事に甲府が去年の代表女子コンテストを録画したD・V・D!D・V・D!を入手してきてくれたのでそれを皆で観たりした。ちなみにどこから入手したんだ?と聞けば「野暮な事を聞くんじゃねぇよ」と言って笑ってた。後日刷屋から聞いた話ではその直後に年上の幼馴染にそれがバレて医務室送りになってたらしいが。…甲府は犠牲になったのだ。
「なるほど、基本的には水着が多いのね」
「皆バインバインだにぃ」
そう言って福田の家に集まりDVDをみる。稲架上はそういうのを気にする連れがいるからいけないとの事で、結局いつも通りの俺、リナ、藤堂、福田の4人でいる。…稲架上はあの金髪ストレートの女の子といい感じなのかな?聞くのは野暮だから聞かないけど。
「わ、あの黒?紫の髪が綺麗な人すごくきれい。…凄いセクシーなビキニ」
「花の髪飾りも綺麗だな。須笠先輩、ああこの人が甲府の幼馴染の先輩か。甲府にとっては師匠でもあるらしいけど去年の優勝者らしいぞ」
「ううっ、こんな凄い美人の先輩がいるなんて不安になってきた…」
そう言うリナに、「俺はリナが可愛いと思うけどな」というと「九郎はすぐそう言うこと言う!」と叱られてしまった。…なんでぇ?!
そんなこんなである程度衣装の方向性も決まり、ホルターネックにパレオの水着をイメージして作るそうだ。既製品を買おうか、という事になったが女子3人のイメージに合うものが見つからないらしい。うーん、いろいろあるんだなぁ。
そんな風に一週間はあわただしく過ぎていき藤堂曰く衣装づくりは順調でリナみたいなスタイルがいい女子の衣装を作れるなんて燃える…との事らしい。よくわからないけど。
リナはと言えば毎日家でヨガしたり身体を鍛えてスタイルを少しでも良くする、との事だが元々充分スタイルいいと思うけどなと言ったな「もうバカ、えっち!」とぷんすこぷんすこと叱られた。…お、俺が悪いのかぁ?
そして迎えた土曜日、街に古くからある複合レジャー施設の入り口にある時計の下に俺はいる。
「お待たせ、九郎君、待った?」
「いえ、俺も今来たところです」
そう、今日は仁奈さんと約束していたデートの日。待ち合わせ時刻ぴったりに表れた仁奈さんに手を振り迎える。
―――今日は色々なお礼を兼ねた仁奈さんとのデートの日、なのである。
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