第21話 その心の傷にはまだ触れない

スキニーパンツで下半身のラインを強調しつつも上半身はオシャレなシャツで可愛さをアピールする仁奈さん、今日も瀟洒だった。そんな気合の入った仁奈さんにしっかりと応えなければ!

「というわけで仁奈さんの好きな絶叫アトラクションめぐりでーす」

「わー!楽しー!!」

「予めファストパスで時間を計算してあるから並び時間0でどんどんいけまーす」

「きゃきゃっ」

「お次は企画展でちいさな動物たちとの触れ合い広場もあります」

「もこもこー!うさぎもモルモットもかわいー♡!!」

「お昼はこのレストランでランチを予約済みです」

「すっごーい、オシャレで映える~♡!料理も美味しい!」

「午後は併設の水着着用屋内温泉スパで疲れが取れます」

「ふぁ~~~~いい気持ち~~~♡」


「―――というわけで楽しんでいただけましたか?」

「うん♡すっごく楽しかった!!!!!」

仁奈さんが満足してくれたようで何より。レジャー施設で遊び終わり、今はナイチンゲールに向かっての帰り道を2人で歩いている。

「時間があっという間だったよぉ……ハッ?!か、完璧にエスコートされてた?!」

「そうだったら嬉しいですね」

「は~?!何、この、九郎君、君本当に高校一年生??!滅茶苦茶一日満喫しちゃったじゃない!!むしろ1日が数行で終わったぐらいあっという間!カ、カルチャーショックだわ」

「ありがとうございます、そう言っていただけて俺も嬉しいです」

「いやいやいや…こんな完璧に女の子をエスコートするなんて恐ろしい子。…こんな彼氏探しても滅多にいないわよ…」

地面に膝をつきショックを受けた様子の仁奈さん。

「ははは、そこまで言ってもらえると準備した甲斐がありました。日頃のお礼もあったし俺も張り切らせてもらいました」

「か、完敗だわ…年上の包容力とみりき…魅力でドキドキさせるつもりだったのに私がドキドキさせられてしまっている…!」

そう言いながら立ち上がる仁奈さん。

「…やっぱりすごいなぁ、九郎君。失恋からもすっかり立ち直ってるじゃない」

そう言いながら屈託なく笑う仁奈さん。

「それは仁奈さんや、みんなのおかげですよ。自分一人だったら鬱屈としてたでしょうし」

「あぁ、そうそう。そのことで私ね、九郎君に謝らなきゃいけない事があるんだ…」

そう言って、古びた公園を指さす仁奈さん。


並びながら公園に行くと朽ちるままにボロボロになったベンチがあり、仁奈さんに促されるままそこに2人で並んで座った。

「実はね、私…九郎君が幼馴染に振られたとき、たまたまみてたんだ」

「え、そうなんですか?」

そう言って内緒にしていてごめんね、と言う仁奈さん。恥ずかしさはあるけどそれはなんとも、あんな道端で別れ話した俺たちが原因なので誤ってもらう必要はないと思う、仁奈さんからしたらもらい事故みたいなものだろうし―――とそんな旨を伝えると、そうやって優しくできるのは君のいいところだよね、と笑っている。

「―――それに九郎君がお店に来たとき、彼女を寝取られた子か、なんて随分茶化した物言いかたしたでしょ?ごめんなさい。…私も、グイグイいかなきゃって結構テンパってたんだ」

「ははは、そんなことありましたね。…仕事で頭がいっぱいだった直後であまり気にしてませんでした」

「…九郎君のお父さんとうちのお父さんがお店で話しているのを私、…たまたま聞いちゃってたの。ごめんね」

そういえばそもそもバイトはじめたきっかけはうちの父さん経由だもんな。

「うちのお父さんと九郎君のお父さん、学生時代からの付き合いらしくて…私もあまり詳しくは聞いたことがないみたいなんだけど、2人とも学生時代に幼馴染の女の子と色々あったみたい。それで、色々とそんな話の流れで、うちも人手が足りていないしうちで働いてもらいながら気を紛らわせていってもらったらって話になってたの」

そうなんだ、意外だなぁ。…そしてうちの父さんとあの雅東さんにもそんな過去が…人はわからないものだなぁ。いつの時代もやっぱり幼馴染って寝取られたり色々あるのかな。

「だから最初に会った時の事ずっと謝ろう、謝ろうと思ってたの、ごめんね」

「…わかりました。俺、気にしてませんし、大丈夫ですよ」

そう言ってニッコリと、笑ってみる。

バタバタしてる中だったし俺も結構聞き流しちゃってたけど、仁奈さんそんな事をずっと気にしてたんだ…というかそんなそぶりもみせなかったよなぁ。

「私ね、昔ちょっと…色々あって。だから君が幼馴染の恋人を寝取られた、ってきいてどうしても放っておけなかったんだ。どんな子が来るんだろう、って思ってたら、何日か前にみた子だったじゃない。だからその時、グイグイいかなきゃ、って焦ってかなり強引に君に絡みに行ったんだ。神様が私に今度は間違えるなよって言った気がして、さ…。」

「今度?」

そういって、遠く何かを思い出すように、寂しそうに言う仁奈さんの意味深な言葉に、つい聞き返してしまう。

「…あっ、うん。そう、ね。私は昔、自分の大切な人が、幼馴染を寝取られて深く傷ついていたのに…間違えることが怖くて、何もできなかったんだ。だからかな。どうしても君を放っておけなかったの。…誰かの代わりにするなんて、最低だよね」

そう言って自嘲するように笑う仁奈さん。その姿はいつもの明るくて元気でパワフルな仁奈さんの姿とは違って、泣いている子供のように見えた。

「…そうだったんですね。でも理由はどうあれ、俺は仁奈さんに助けられました。色々な事を教えてもらったし、仁奈さんのおかげでモテ力…ってのはずっと上がったと思います。だから感謝してます」

ははは、と笑うと、

「…強いね、九郎君。君は本当に素敵な子だよ。」

そう言って笑って、目尻をぬぐう仁奈さん。

「…私の方が、全然だめだなぁ。立ち直れてないのは、私の方だったんだ…」

ぽろり、と仁奈さんの頬を滴が流れていく。

仁奈さんに何があったのか、それは軽々しく聞いてはいけないような気がした。いつか、仁奈さんの口から聞かせてもらえることがあるんだろうか?

そんな事を想いながら、俺はすすりなく仁奈さんの肩を抱きながら、空を見上げるのであった。


泣き止んだ仁奈さんは、「私の方がお姉さんなのに、恥ずかしいなぁ…」と恥ずかしがっていた。

「でも今日は俺がエスコートする日なので」

なんていいながらウインクで返すと、耳まで真っ赤になりながら、ぎゅう、と手を握ってきた。今日の仁奈さんは、年上のお姉さんじゃなくて同じ目線の女の子って感じがして、なんだかいつもと違うドキドキがある。

仁奈さんと手をつなぎながら歩く帰り道の中で学校の事をきかれたので、そういえば、と代表女子コンテストの話をしたら懐かしそうに仁奈さんが笑った。

「代表女子コンテスト?懐かしいなぁあぁ、今もやってるんだアレ」

聞けば仁奈さんも同じ高校に通っていて、その時に女子同士で一悶着あってはじまったイベントらしい。それが好評だったのでズルズルと今も続いているようなのだ。…人に歴史あり、じゃないけど人の繋がりって本当に面白いなぁ。

「ちなみに今も水着でアピールしてるの?」

「みたいですね、去年のコンテストの記録を見せてもらいましたが皆さん水着でした」

「アハハハハハ!ウケる、それその流れ作ったの私なのよね」

なんでも第一回のアピール大会で皆がそれぞれに自己アピールする中、ビキニでモデルみたいにキャットウォークして票を集めて優勝を決めたらしい。で、次の歳からは皆水着姿、と。

「なんか…やっぱり仁奈さんってすごいですね」

「ふふん、見直した?」

「最初から一目置いてます」

そう言うと、「もう、この、君はすぐそういう事を言う…!」とテレテレしている仁奈さん。

でもそっか、この人と俺って3歳ぐらいしか離れてないんだよな。

「で、出場する友達もアピールって何やればいいんだろう?って悩んでるみたいなんですよ」

「ふむー?ふむふむ。そうねぇ、それじゃお姉さんから一つアドバイス。代表女子コンテストに出て本当にやりたい事、アピールしたい事って何かを一度自分の心に聞いてみなさい」

「本当にやりたい事、ですか…」

「後はきっと心のままにすれば…悪い結果にはならないんじゃないかな」

そう言う仁奈さんとの別れ際、チョイチョイと手招きされたので近寄る。

ちゅう、と頬にキスをされた。

「今日はありがとう、楽しかったよ…それとごめんね」

そういって手を振りながら、足早にナイチンゲールに入っていく仁奈さん。

頬に少し残った温かい感触に、俺は暫くぼうっしていた。

…年上の女のひと、かぁ。


それからの一週間は慌ただしく過ぎていき、俺も朝の鍛錬、昼は図書当番、放課後はリナの手伝いやバイトとあっという間に日々が過ぎていった。

あれから佳織が静か…というかこちらに関わってこないのが不気味だけど、気づけば代表女子コンテストの前日になっていた。

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