第35話 イケボお兄ちゃんハプニング
そんな事もあったが、クレープを食べ終わった後はリナを家まで送ってから家に帰ってきた。観月は先に帰ってきたのかな?父さんと母さんはまだ仕事だろうけど…。
「ただいまー?」
声をかけるが返事は無い。聞こえなかったかな?と思いながら階段を昇っていく。俺の部屋と観月の部屋は2階にあるが、2階にあがったところで観月の部屋のドアは半開きになっていた。
「ただいまー?父さんと母さん帰ってきてないみたいだけどー?いるのかー?」
観月の姿はない…のだが、カーテンは閉められていて電気がついている。加えてパソコンのモニタも付きっぱなしだ。観月も年頃の女の子だし本人不在の部屋に入るのは本来であればよくないが、昨今は電気代も高いしパソコンとか暖房とかをつけっぱなしにしたまま外出するのはけないと思って部屋に入らせてもらう。パソコンの近くに行ってみると、画面にはなんか水色っぽい髪の毛の色をした女の子のキャラクターと、チャット?コメント?がぶわーっと流れている。
「出かけてるのか?なんだこれ、ゲームつけっぱなしにしてたのかな」
パソコンの画面を見ると、オンラインで繋がってるようだ。これ勝手に電源切っちゃダメなやつかな、だからつけっぱなしにしてるのかもしれない。とそんな事を思いながら机に置いた手が何かに当たる。
「…なんだこれ、ヘッドホンかな」
パソコンに繋がったマイクが一緒になったヘッドホン…というかヘッドセットだった。
「ゲームでもやりっぱなしにしてどっかいったのか?まったくしょうがないやつだなぁ…ん?」
ふっと気づくとパソコンの画面のチャットが流れている。
『家フラ?』
『兄?』
『っぽくね?父さんとか母さんとかいってたし』
『ふーん、イケボじゃん』
『お兄様ちょっと「答えは聞いてない」とか言ってください』
なんだこれ、画面では相変わらず女の子のキャラクターがもそもそ動いているが、どうもその隣の流れるチャットは兄とかお兄様とか言ってるから俺の事かな?あ、このヘッドセットが音を拾ってるのか。俺の独り言拾われてたのか、しまった。というか観月、パソコンつけっぱなしにしてどこか行っているのか…?
「えーと、妹がいつもお世話になっています?」
よくわからないが、とりあえず俺の独り言で反応させてしまったようなので、メッセージを返そうかと思ったがキーボードを操作してもチャット入力できなかったので、仕方なく、マイクを使って挨拶しておく。どうやらこっちは音声で通話して、向こうはチャットで通話しているようだ…多分?
『お兄ちゃん降臨』
『いい声で笑う』
『お兄様ちょっと「答えは聞いてない」とか言ってください』
あ、正解っぽい。チャットがなんか反応してる。とりあえず挨拶は通じたようだ。あとなんか同じメッセージを書き込んでる人いるけどあれか、紫色のやつか。電車のやつか。
観月のお友達からネタを振られたならお兄ちゃんとしてはきちんと拾ってあげないとな。…妹の友達の前で滑ったら観月が恥ずかしい思いをするからきちんとしないと、あれは確かこんな感じじゃなかったっけ。
「お前、倒すけどいいよね?答えは聞いてない」
そう言って画面を指さしながら言う。別に画面を指さす必要はないけどなんかこう、同じポーズしたくなるじゃん?なるよね?
『完全に紫色のアレ』
『お兄ちゃんノリ良すぎ』
『いーじゃんいーじゃんすげーじゃん』
『似すぎてずるい、こんなお兄ちゃん欲しい』
『自分もリクエストいいッスか』
おぉ、ウケたみたいだよかったよかった。…ってしまった、パソコンの電源落とすつもりだったのに本題からずれてしまっていた。けど画面の向こうのお友達にウケたみたいだし…ヨシッ。
『運命を是非!キレ気味にまた戦争がしたいのかーってお願いします』
『スネークの呼吸とかいけますか』
『語尾に~でさァとかつけてほしい。あとドS全開で罵ってほしい』
『ドクターやってほしいですぅぅぅぅ消えないでぇぇぇ』
滝のようにリクエストが流れてくる。お、おぉ?どうすりゃいいんだこれ…いや、でもうーん、まぁいいか。観月のお友達みたいだしあとは勉強するだけだ、少しぐらい付き合ってもいいだろう。
「あんたは俺が討つんだ、今日ここで!―――」
「鬼のいない平和な世界で―――」
そんな風にチャット画面で流れてくるメッセージのリクエストに応えながら頑張った!長男だから頑張れた。次男だったら頑張れなかった。けど頑張ったのでチャット欄は凄い速度でメッセージがきていて盛り上がったのではなかろうか?よかったよかった。少しの間そんな風にしていると、階段を上る足音が聞こえた。ドアが開き、観月が入ってきた。
「おぉ、おかえり?なんか電気がついてたから電気切ろうかと部屋に入らせてもらってたわ」
「う、おおおお、オニイチャーン!?!?」
ぴゃあああ、という観月の絶叫が響く。
「あー、勝手に入ってすまん。そうだこれ?お友達?の話相手してた」
俺が手に持ってるヘッドセットを指さしながら震えてたので端的に説明をする。
「いやぁ、滑ったら恥ずかしいなと思ったけど喜んでもらえたみたいだ」
「キェァァァァァッシャベッタァァァァァッ!?」
どうしたんだ、そんなお子様セットのおまけのCMみたいな声出して、と話すも、とりあえず後で説明するからお兄ちゃんの部屋に行ってて!と追い出されてしまった、うっ、やっぱり居ない間に勝手に部屋に入って通話?をしたのはまずかったか…後で謝ろう。
「Vtuber?」
そんな俺の間の抜けた言葉に、静かにうなずく観月。
それからしばらくして部屋に来た妹が、死んだ魚のような目をしながら説明をしてくれた。勝手に部屋に入ったりパソコンの画面見てしまってすまない、と謝ったが部屋に入ったりしたこと自体は気に留めていなかった…というかもっと部屋に遊びに来てほしいよぉもっと部屋に来て♡と言っていたりしていたのでそれはいいのだが(いいのか?)、観月は趣味でVtuberという活動をしているらしい。単語だけは聞いたことはあるが…。と言うと、ユーチューバーみたいなものだけどバーチャルで作った画像やモデルでゲームをプレイしたり歌を歌ったりするのを放送してみてもらうという事のようだ。
「成程、さっきの水色の髪の女の子はゲームのキャラクターじゃなくて観月のVtuberのモデルということか!凄いじゃないか!」
そう言うと死んだ魚の目から一転、顔を真っ赤にして恥ずかしがる観月。なんだそんなに恥ずかしがって、あのクラゲっぽいキャラ可愛かったじゃないか!と褒めると喜んでいた。
「えへへ…あれ実は早織ちゃんが描いてくれたんだぁ」
「へぇ、早織ちゃんが、そんな事も出来るなんてすごいな」
早織ちゃんがデザインしたキャラクターで、観月が喋る。そうやって2人でVtuberをしているらしい。金銭的なものは発生せず、趣味として2人でキャラクターづくりを楽しんでいるとの事。
「いいじゃん、楽しそうで。そういうのいいよな友達と協力して~…とかさ」
そう言うとパァァァッ!と笑顔になり、でしょでしょ?と喰い気味に迫ってきた。
「よ、よかったぁ。お兄ちゃんに言ったら叱られたり、引かれちゃうかなと思ってたんだぁ」
「そんなわけないだろ。悪いことしてれば怒るけど、観月が早織ちゃんと一緒に楽しんでやってる趣味なんだろ?それを俺がどうこう言うわけない。応援こそすれ貶すことなんか絶対にしないよ」
そう言うと、うるっと目を潤ませてから「お兄ちゃんしゅき!」と抱き着いてくる観月。ははは、いつまでたっても甘え癖が抜けない妹だなぁと笑ってしまう。それから早織ちゃんがデザインしたキャラクターのここがかわいいとか、最近3桁の人に見てもらえるようになったとか、そんなVtuber活動の楽しい事をたくさん聞かせてくれた。観月がにこにこと楽しそうにしているとお兄ちゃんも嬉しいので、とてもほっこりしながらそんな観月の話を聞くのだった。今度、早織ちゃんに会ったらお礼を言っておこうかな。
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