第36話 リナとあまあまカップルタイム

次の日の放課後、リナにせがまれていつものケーキ屋に行くことになった。なんでもすごく安いらしいくケーキ3つとドリンクで100円だとかなんとか。藤堂や福田にも「行け!行ってこい判官!」「行けにゃぁ」と執拗にプッシュされたので、何のこっちゃと思いながらも2人で歩いていく。

「えへっ、えへへへっ、た、たーのしみだねー」

「何で棒読みなんだリナ、らしくないぞ」

「そ、そんなことないよー?いつもどーりだよー?」

何か挙動不審というか明らかに変なんだが…本人がいいというならそうなんだろう。いつものようにしょうもない話をしたり、あめりちゃんが九郎ロスになっているからまた遊びに来てほしいとかそんな話に花を咲かせながらケーキ屋までくると…いつもと随分雰囲気が違った。いつもなら大学生や女の人、あとは学生でいっぱいのケーキ屋だが、今日は…

「カップルサービスデー?カップル限定100円…」

…そう、あまあまにイチャイチャしまくるカップルばかりだったのだ。店全体に甘いスイーツみたいなオーラが漂っている。

「え、えへへ、そ、そっかー!きょうはかっぷるさーびすでーだったんだあ、しらなかったなー」

…そう言う事か、成程。完全に理解したぞ、リナ。お前の言いたいことが!

「…そっか、わかった。いいよ、リナ。一緒に入ろう」

「えっ?九郎…それって…!!」

俺の言葉に目をキラキラ輝かせて頬を紅潮させるリナ。…大丈夫、お前の思いは伝わったよ!とにっこり笑顔で頷く。

「折角ケーキがお得に食べれるチャンスだから来たかったんだろ?普通に食べに来てると出費がかさむしな、100円とかめっちゃお値打ちだもんな!わかるとも!」

そうリナの心中を完全にマインドスキャンしてドヤ顔してやる。俺は理解のある男友達くんなんだ!!

「ソウダヨー、ソウナンダヨ。…ソウイウトオモッテタヨー」

ほらな?俺の言ったとおりだったじゃん?ユーの心はお見通しデース。


なぜか疲れ切った表情になってしまったリナと一緒にケーキ屋に入ると、丁度カウンターにいた店長さんが「いらっしゃぁい」と出迎えてくれる。

「あら、九郎君にリナちゃん。―――あら、あららら?」

俺とリナの姿を見て店長さんが声をかけてきた。まぁ!と目を輝かせて―――疲れ切っているリナを見て何かを察した様子を見せ、哀しい目でリナを見た後に俺を半目で見てきた。

「九郎君…」

「え、なんなんすか店長その目」

何か言いたげな店長さんに視線で叱責されつつ、な、何でそんな目で見られるんだと汗を流しながらもケーキを買って席に着いた。ドリンクは後で持っていくと店長さんがリナにウインクしていたがなんだったんだろうね。

「わぁ~、おいしそうなケーキ!!」

さっきまで落ち込んでいた様子のリナだったが、ケーキを前にするとまたご機嫌に戻っている。よくわからんがそう言う事だな?!女の子はよくわからないッピ。

「リナのケーキはどんなのなんだ?俺はチェリーのやつ、ピーチのやつ、レモンプリンにしたんだけど」

「私はザクロ、ドラゴンフルーツ、ブラッドオレンジだよ!新作って食べるの楽しみすぎる~!」

いただきます、と手を合わせた後2人でケーキを食べながら歓談する。うん、リナが楽しそうにしていると俺も楽しくなるなぁ。

「ほいリナ、俺のやつも一口ずつどうぞ」

そう言って皿をリナの方にズズッとよせると、リナが「ありがとう~」といいながらつまんでいく。

「そうだ九郎、それじゃ私からも、これ。…あ、あーん」

そう言ってスプーンにとったケーキを出してくるリナ。む、む、あーんは初めてじゃないけどなんというか毎度ながら気恥しい…んだが。周りに人もいるし…と周囲を見ると周りはカップルだらけで普通にやってるわ。リア充爆発しろ。

「ほら、ケーキ落ちちゃう!―――きょうはかっぷるだからふつうでしょ!やくめでしょ」

周囲を見るとどのカップルも普通に食べさせ合いっことかしてるしな…これは、郷に入れば郷に従えというやつかッ…!というわけで、はぐっ、と差し出されたケーキを食べる。やっぱり美味いよなぁここのケーキ。

リナがさしだしてくれるケーキを順番に食べていく。うまい!うまい!うまい!うまい!とうまいを一杯言っちゃうもんね。

「ちょっと、…列車に乗ってかっこよく死なないでね」

「400憶の男です」

その後リナも残りのケーキを食べていたが、俺に食べさせた後になぜか頬を赤くしながらケーキを食べていた。「かんせつ…かんせつ…」と呟いていたが関節が痛いんだろうか。

そんな事を言いながら笑い合ってると、にこにこした店長さんが歩いてきた。

「お・ま・た・せ♪カップルの日限定スペシャルドリンクサービスよ」

そこには1つのドリンクにハートの形を描きながら2股に別れたカップルストローが突き立てられていた。

「こ…これは伝説の『カップルストロー』?!」

そんな俺のノリに、ゴゴゴゴ…という擬音ならしてそうな雰囲気で店長さんが返す。

「今日は『このストロー』しか用意をしていないわッ!『このストロー』を使う事でしかスペシャルドリンクを飲むことはできないわよッ!!」

「クッ…『これ』で飲むしかないのかッ!リ、リナは…リナはッ?!」

「だ、だいじょび!だいじょび!だよ!ぴーす!」

店長さんのノリに合わせて劇画風のリアクションにノりながらリナに振ったが、リナはストローを凝視しながらすごく緊張してカタコトになっていた。

「ちなみにそのスペシャルドリンク飲むまで退店は許さないわよ…お残しはゆるさないわよぉ~?ウフフフ」

そう言って圧力をかけてくる店長さん。え、何、なんか店長さん今日俺に対してプレッシャーかけすぎじゃない?俺が一体何をしたっていうんだ…。


なんだかすごく緊張しているリナと2人でストローに口をつける。鼻先が触れ合いそうな距離にリナの顔がある。ははは、リナ真っ赤な顔じゃん

「九郎も真っ赤だよ」

そ、そうか…。いやそりゃこれ恥ずかしいよ!っていうか他のテーブルこんなにストローの先短くなくない?なんかこのストローの先だけすっげえ短くない??

ズズズ、とスペシャルドリンクをのんでいくが正直リナのいい匂いとか呼吸音とかでくらくらしてドリンクの味なんてわかんねえ…。ストローでドリンクを飲み進めながら、時折口を離してしゃべる。

「…九郎ってまつげ長いじゃん」

少し上目づかいに俺を見上げるリナ。何だか照れるので俺もリナを見つめ返す。。

「そういうリナも綺麗な瞳してるよな」

「も、もう、恥ずかしいこと言わないでよ…九郎のばかっ」

耳の先まで真っ赤っかなリナがなんだかおかしくて、はははと笑うとつられてリナも笑った。

「んっ…」

そう言いながら耳にかかった髪を手でさらりと流す。そんな仕草がなんだか妙に色っぽくてどぎまぎしてしまう。…くっ、これが…アオハルってやつか…!!恥ずかしい思いをしつつもドリンクを飲み終えると、視線を感じたのでその方向を向くと、店長さんが腕を組みながらうんうん、と満足そうに頷いていた。…なんか今日は店長さんにしてやられてしまった感があるぞ…!それから順番待ちの人が見えたので席を立ち会計を済ませる。

「うふふっ、2人とも頑張ってね?あ、そうだ。今日はカップルサービスデーよ!手をつないだりしないのかしら?…今日はカップルサービスデーなんだからっ」

そう言ってウインクをする店長さん。手、手、かぁ。まぁそういう日だっていうならそうするものなんだろうな。リナの手をゆっくり軽く握ると、顔を真っ赤にしてぷいっと横を向きながらも手をきゅと握り返してきた。

「うふふふ、いいわぁ~、青春って感じがして私もドキドキしちゃう!またいらっしゃい、来月もカップルサービスデーに待ってるわよぉ~」

そう言ってクネクネしながら喜んでいる店長さんに見送られながら俺たちはケーキ屋を後にした。

「それじゃ、家まで送るわ」

「…うん」

今日のリナは顔が赤くなりっぱなしだなー、なんて思いながら2人で帰り道を歩いた。なんだか今日はお互いに気恥しくて言葉数が少なかったが、リナの家の前まで来たら庭にいたあめりちゃんがダッシュでかけよってきて飛びついてきた。

「わぁーい!くろうおにいちゃーん!あそびにきてくれたのぉー?」

両手両足でわしっとしがみついてくるあめりちゃんを抱き留める。

「おっと、ははは、今日はリナを家まで送りに来たんだ」

「えー、あめり、くろうおにいちゃんとあそびたいよう」

とても不満げなあめりちゃんを地面に下ろしながら、腰を落として目線を合わせながら頭を撫でる。

「ははは、それじゃまた今度遊びに来るよ」

「ほんとう?!やくそく?!」

そんな元気いっぱいなあめりちゃんに和やかな気持ちになっていると、リナが苦笑していた。

「ごめんね九郎」

「謝る事じゃないさ。ねー、あめりちゃん」

「?…うん!」

よくわからなくてもとりあえず元気いっぱいに返事をする六歳児スタイル、いいと思います。


そんなリナとあめりちゃんに手を振りながら、なんだか色々あったけど今日も賑やかで楽しかったなーと思いながら家に帰った。父さんと母さんはいなかったが、玄関に見慣れない靴があった。誰か来てるのかな?と思いながら2階に上がって行ったら、俺の足音に気づいたのかドアを開けて観月が自分の部屋から顔を出してきた。

「観月おかえり?誰か来てるのか」

そう言うと、観月に続いてひょこっと顔を出したのは早織ちゃんだ。

「お邪魔してます、九郎お兄ちゃん」

「あぁ、早織ちゃん。いらっしゃい、ゆっくりしていってね…あ、饅頭頭の事じゃないよ?」

そんな俺の話に観月がなんだか慌てた様子で割って入る。なんだ珍しいな、と思っているが、観月は驚いているのか慌てているのか混乱しているのか何とも言えない様子で口速くまくしたてた。

「昨日のお兄ちゃんの放送、録画してた人がいたみたいで切り抜き動画がアップされてなんかバズってる!!」

そんな観月の言葉に、うんうん、と頷く早織ちゃん。


…バズる?何それ。

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