2章:逆襲の佳織…? -beyond the Otaku-

第34話 プールと水着と不穏な予感

中間テストからもう2週間程たった。俺はと言えば、相変わらず早起きして教会で運動して、学校に行って、時々図書委員をして、時々バイトして、それでもって仁奈さんにアドバイスをもらいながら美容に気をつける生活を送っていた。佳織も停学から戻ってきたが、あれだけの騒動を起こしたからか随分と大人しくなったと思う。以前ほど取り巻きに囲まれることは無くなったが、それでも仲の良い友達はいるようで何人かのグループで行動していた。俺に対しても以前のような露骨な敵愾心をむき出しにしてくる事もなくなり、一応は平穏な毎日になったと思う。停学から戻ってきてまたクラスに馴染めるか少し心配だったが、無事クラスに復帰できているようで安心した。これでクラスからハブられたりしていたら、俺も気まずいしな…。


「何黄昏ているんだい、九郎クン!」

そんなイケボで話しかけてきたのは宮野刹那、別のクラスの同級生で、中学からの友人だ。周りに星をキラキラさせてそうなイケメンフェイス、顔良し性格良し頭良しで運動もできておまけに家は大金持ちと恵まれまくったまさに“王子様”なのだが、いい奴なのと人懐っこかったり放っておけないタイプのアホの子なので腐れ縁が続いている。…そういえばなんかGWに甲府達のクラスの富士本と一悶着あったとか聞いたな。その後は普通に仲良いみたいだけど。

「おー、刹那か。いや、ボーッとしてただけだ」

「ふぅん?なるほどわかったよ九郎!―――女の子達の素敵な水着姿をみていたんだネ!!わかるとも!」

顎に手を当てながらうんうんと頷く刹那。いや、違うけど…。

「おっ、面白そうな話してるじゃん」「わっかるぅ、うちのクラスの女子もそっちのクラスの女子も可愛い子多いもんな」「それな」「お前どの子が好み?」「タッパとケツがデカい女がタイプです」

なんて思ってたら、刹那が余計な事を言ったので男子が集まってきた。女の子の話をしてるとなんか男子って集まるよね!お年頃だもんね、仕方ないよね!!

…そう、今は体育の授業中で、男子も女子もプールサイドにいるのである。この学校はスイミングスクールかといわんばかりにアホみたいにデカい室内プールがあり、一度に2クラスずつ合同でプールを使うようになっていた。中央の何本かのコースを境目として空けて、男子が東側、女子が西側のレーンを使って男女合同2クラスでの授業となる。―――なのでいつぞやの超次元蹴球バトルよろしく他のクラスと鉢会う事になるのだが、今日はこの馴染みの友達、刹那のクラスと一緒になったのだ。

「やっぱ代表女子コン準優勝だけあって大垣さんすげぇな…」

1人の男子がリナを見ながらそんな事を言っている。…うん、確かにリナはすごい。スクール水着であっても遠慮なく自己主張する2つのお山、本当に高校一年生かと思うような大人びたプロポーション。代表女子コンテストの時もそうだったが、本当に美人だ。

そうだよなぁ、リナってやっぱり美人なんだよなぁ、とリナの方を見ていると、俺の視線に気づいたリナがにこっと笑顔で小さく手を振ってきたので俺も手を挙げて返す。

「っかぁ、羨ましいなこの、この」

クラスの男子に小突かれるが、そういうのじゃないと押し返したりする。あとそうやって男子同士で絡んでると一部の女子がやけに興奮してこっちを見てくる。…なんだ、何なんだってんだよぉ…!

リナはリナで藤堂に脇をこしょこしょされたり、俺を指さしながら何かを言われていて赤面したりしている。リナも藤堂達と随分仲良くなったよなー、いいことだよなーと、そんな事を思いながら藤堂をみた。隣にいるリナが飛びぬけてプロポーションが良すぎるだけで藤堂もかなりこう…色々と凄いと思う。主に胸とか。藤堂も藤堂でかなり自己主張激しいメロンちゃんだと思うが、グラデーション効果というべきかリナの陰でなりを潜めていて目立たなくなっている気はする。ちなみに福田は見学しているのでジャージ姿だった。この学校は体操着も幾つかあるパターンから選べるが、福田は何故かブルマだった。曰く希少価値!可愛いから!らしい。何で水泳の授業に参加しないかについては本人曰く「猫だから水に浮くようにできてないにぃ」との事…猫も普通に泳げる気はするけどな。…まぁ福田はそういう不思議なところはあるがそこも含めて福田だしそれも個性よ個性。

そんな事を考えながら男子の喧騒を聞き流しながら女子の方をついついみていたので、今度は藤堂と目があった。藤堂は暫くして自分の胸を手で隠して、ゆっくり唇を動かした。

『え・っ・ち!』

言葉を作ってから、べーっと舌を出す仕草をする藤堂。違う違う、誤解だと思ったが今度は刺すような視線を感じるので視線を動かすと、リナが『むううううう!』とご機嫌斜めな様子で視線を飛ばしてきていた。なんで怒ってるんだよ…。別に下心とかねえよ…そんな事を思いながらやれやれとため息を零す。後でなんて説明しよう。なんか謝った方がいい流れかなこれ…。あ、今なんか俺やれやれ系主人公っぽいなハハッ!…はぁ、気が重い。

「今のはお前が悪いな」

傍にいた稲架上が呆れたように言う。

「お、俺かぁ?…えー、助けて稲架上ー」

「自分で何とかしなきゃだめだ」

そう言ってからプールに飛び込んで泳いでいく稲架上。そんな殺生なぁ。


その後ご機嫌斜めなリナを宥めるのは大変だったが、帰り道に学校近くのクレープカーでクレープを奢る事で許していただけることになった。なんか藤堂と福田にも一緒に。いや福田お前プールサイドでちょうちょ追いかけてただろと言うも、ブルマからのぞくお尻を執拗に視姦されて辱めを受けた気分だにゃぁ…よよよ…なんて変なリアクションをするのでなし崩し的に福田にもご馳走することになったのだ…いやまぁいいけどさぁ。なので今日の放課後は4人でクレープカーがいるところに移動して、クレープを食べていた。

「はちみークレープは美味しいにぃ」

はちみーはちみーはちみーとご機嫌になりながらクレープを食べる福田に、そりゃようござんしたと返す。4人でテーブルに腰かけながら舌鼓をうつが、ちょっと高いけどここのクレープは美味しい。

「…ん?」

そんな風に食べながら視線を動かした先、大通りを挟んだ向こう側を佳織が歩いていくのが見えた。隣にいるのはどっかでみた顔がいい奴…あ、カラオケで藤堂といたときにすれ違った人だ。あとはなんか隣にチャラい格好の男の人もいる。

「あれ、佳織…?一人は多羅篠かな、あっちの男は…」

藤堂も同じように気づいたのか、そんな事をひとりごちている。

「なんだ知り合いか、藤堂?」

「んー…佳織と一緒に歩いていった人たちの事?直接の知り合いじゃないよ、一人は多羅篠ってモデルで、もう一人は、同人作家でイラストレーターしてる『おしゃぶり脇の下カイザー太郎』じゃないかな」

「おしゃぶり脇の下カイザー太郎」

すげえネーミングセンス。

「凄く可愛らしい絵柄の反面、キャラクターの脇の下を執拗にクローズアップするマニアックな内容のエロ同人誌でコアなファンから支持されている壁サークルよ。流行りものの版権エロ絵をSNSにあげてジャンルイナゴしていて、それ自体は全然普通にある事なんだけど…旬なジャンルの作品をキャラ愛も何もなくただ上手いだけの絵で、原作のキャラクター性を無視したエロい同人誌を出すのでその作品についているファンからは蛇蝎の如く嫌われるのを繰り返していて好き嫌い両極端な同人作家ね。厄介なのは取り巻きの信者が何でも擁護するのでおしゃぶり脇の下カイザー太郎に触れるとファンネルが飛んできて面倒くさいから放置するしかなくて、良識ある一般的な同人作家は交流とかもしない人よ。あとは売り子さんとかレイヤーにも裏で手を出してるって噂も聞くからあまり近寄りたくない人だわ。最近はVチューバーのデザインもしてるみたいだけど…え、何判官?その狐につままれたような顔」

「いや、藤堂早口で語ってるけどめっちゃ詳しいなって」

「べ、べべべべ別に詳しくないし!一般的な知識だし?ちょっと同人を知識で言ってるだけだし?!」

いや一般的な知識でエロ同人作家の情報そんなに詳しくないよね。というかすごく必死に否定しているけど、普通の人は『おしゃぶり脇の下カイザー太郎』なんてものすごいペンネームの人なんて知らないよ。

「別に隠さなくてもいいよ、藤堂ってオタ――」

「ギャオオオオオオン!」

「俺はそういうの気にしな―――」

「ギャオオオオオン!?」

「いや藤堂―――」

「アーアーアー聞こえない聞こえなーい!」

そういいながらクレープを口で噛んで保持しながら両耳を塞ぐ藤堂。…まぁ深く聞かれたくないならそれでいいけどさ。でも佳織、そんな人たちと何やってるんだ?また変な事しなけりゃいいけど…と思いながら俺はクレープを齧るの。

「…むーっ…やっぱりなんか2人仲良いじゃん。…じゃん!」

「Qちゃんはリナちんだけでは物足りずトラちゃんや私まで狙ってるのにゃぁ…♡」

なんかすごく怖い目でジーッと見てくるリナと、なぜかむふふと笑っている福田。藤堂は違う違う今の話はそういうのじゃないと言っているので俺もそれに同意するがリナはすっかり拗ねてしまい、説明と機嫌をなおしてもらうのに大層な時間がかかりましたとさ。

…え、えぇ~?また俺何かやっちゃいました?

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