第23話 コンテスト前夜

今日はもう代表女子コンテストの前日。

「ヒューッ!!バッチリかわいー!!」

そう言いながらイエーイと3人でハイタッチしているのはリナと藤堂と福田。

諸々の準備が出来た、という事で、学校が終わってから福田の家に集まっての最終チェックをしていた。

話に聞いていたホルターネックの水着に足首までの丈のパレオを合わせた水着で、清涼感溢れる白の下地に水色を合わせたちょっとお高そうな生地は福田がどこからともなく手に入れてきたいいものらしい。…これは、いいものだ!とか言ってた。福田の人脈や伝手も不思議だな。

「おぉ、リナ、可愛いじゃん」

素直な感想でそう言うと、「照れるし…」と赤くなっているリナ。

「佳織がどんな手でアピールしてきも、これなら負ける気がしないわ…ふふふ、我ながら良い出来でござる」

そう言うのは目の下にクマを作った眼鏡姿の藤堂。髪はヘアクリップで束ねて、全身からにじみ出る睡眠不足のオーラにいつもと雰囲気が違うものを感じる。…ござる?忍者かな?侍かな?

「藤堂お疲れ、プロみたいで凄いじゃん」

なにはともあれ、その頑張りを労えればと声をかけると…

「フフフ、それは褒めすぎでござるよ判官氏~。プロに比べればまだまだでござる」

…ん?なんかいつもと口調が違わなくない?

「トラちゃん、そっちの顔が出てるよ…」

スッとツッコみをいれる福田。ん?今福田いつもの糸目を開いてなかった?

「ハウあっ?!?!」

そう言いながら何故か慌てだす藤堂。みると福田もいつもの糸目だ。気のせいかな…?

「あ、いやこの…これはっ全然、寝不足で、なんかそういう感じになってただけ!そう、最高にハイッ!ってやつで!!」

「おお、よくわからんがそう言うのってあるよな。俺もたまに拙者とか某とか言っちゃうときあるよ」

「それはわすれて判官九郎ぅぅぅぅぅぅぅっ!」

そういいながら俺の方を掴んでガクガク揺さぶるリナ。やめろ、頭が揺さぶられて気持ち悪い。

「あはははは、賑やかで楽しいにぃ。明日が楽しみだにぃ」

こうして決戦前夜は賑やかに過ぎていった。


そんな風に福田の家で盛り上がった後、連日夜まで作業して寝不足な藤堂はそのまま家に泊めるとの事で、やり切ってスヤァ…と眠っている藤堂を置いてリナを家まで送る事になった。

帰り道、仁奈さんと話した事を話した代表女子コンテストのくだりを話すと、「なんだか変なとこに人脈あるわね九郎…」と驚いていた。あと、

「も、もしかしてその人と付き合ってたり…するの?」

となんだか泣きそうになりながら聞かれたので、バイト先の娘さんで付き合ってるわけじゃないよといったら胸をなでおろしていた。うーん、よくわからないな。

「本当にやりたい事、アピールしたい事、かぁ」

そう言って呟きながら並んで歩く。


「ね、九郎。この間うちに来たじゃない」

そう言われて、あぁ、この間の日曜にお邪魔させてもらったな、と頷く。

「あの時、私すっごく楽しかった。あめりも喜んでたし、うちのお父さんもお母さんも、九郎の事すっごくいい子だって言ってきにいっちゃってさ」

「それは…光栄です?」

そんな事を離しながら、そう言えばそうだったなぁとその時の事を思い出す。

仁奈さんとのデートの後、俺は両親と妹も一緒にリナの家に招待された。ホットケーキパーティ、という予定がお礼も兼ねてのファミリーパーティーとなり、リナのお母さんやリナ、そしてあめりちゃんが頑張ってやいたホットケーキが並ぶ賑やかなパーティーだった。

リナのお母さんはリナが成長したかのようなすごく…グラマラスです…な美女で、明るくて楽しい人だった。

リナのお父さんと言うとシュッとした黒ぶち眼鏡の似合う出来るイケおじ、という人で丁寧にお礼を言われてしまった。何故か、学生時代は清い交際をお願いするよ?と念を押されもした。…はて、清い交際と言われても俺はリナとはクラスの友達の筈…と思いながらもリナのお父さんの眼光に頷くしかなかった。リナはなぜかテレテレしていた。

うちの両親や妹もはじめは社交辞令や挨拶からはじまっていたが、リナのお父さんとうちの父さんが握手をした瞬間お互いが“出来る”男だと感じとり合って意気投合し庭で組手をはじめてしまったものの、それを肴に皆で盛り上がりとても楽しい時間を過ごしたのであった。最終的に相打ちになった父親たちを、母さん達がズルズル引きずって行って物陰で水ぶっかけて目をさまさせて、そこからは父親たちはバカみたいにビールをガブガブ飲んでた。拳を交えればわかり合って友になるって…?いやアンタ達いくつよ。

用意された料理はどれも美味しかったが、あめりちゃんが

「くろうおにいいちゃんにほっとけーきをたべさせてあげゆの!」

と一生懸命アピールしてくれていて、俺はなんだかんだであめりちゃんのホットケーキを一番沢山食べたと思う。あめりちゃんがたくさん食べさせてくれたので、俺もあめりちゃんを膝の上にのせてホットケーキをたべさせてあげると大満足の様子で、満腹になった後は膝の上で花提灯しながら眠ってしまった。

あめりちゃんをベッドに寝かせた後、ビールの飲みすぎで気持ち悪くなっている父親たちや、お互いの夫に呆れながらも片付ける母親たちを横目にみながらリナとのんびりした時間を過ごしたのだ。

「楽しかったね、九郎」

「そうだな、あんな風に騒ぐのって久しぶりだったから凄く楽しかったよ」

そう言う俺の顔をじっと見つめてくるリナ。

「…どうした、俺の顔に何かついてるか?」

リナに問いかけると、んー…というか言うまいか迷った様子を見せるが、興味本位の質問なんだけど、と前置きをして聞いてきた。

「ねぇ、九郎。初めて会ったとき、どうして助けてくれたの?」

なぜ、と言われてもなんかその場のテンションとかで深い理由は無いんじゃないだろうか。

「さあな…そこんとこだがおれにもようわからん」

「あれ、私吸血鬼に操られてた?」

と言いながら笑うリナ

「…じゃあ、あの雨の日に私とあめりを助けてくれたのは?」

「…うーん」

何故だろうか、と考えてみる。

「誰かを助けるのに理由がいるかい?」

「えー、私ラスボスぅ?」

ははは、と言いながら不服そうなリナに、そうだなぁ、と自分が思い至る理由を話す。

佳織に失恋してから自分が感じた、自分の違和感。

「…以前の俺だったら、もっと人は良い事をするべきだ!みたいに燃えていたり、素直に体が勝手に動いただとか、困ってる奴を放っておけなかったって言ってたと思う。でも今の俺はなんとなくその時そう言うテンションになったってだけで理由がないんだ。

…俺さ、人について深く考えたりするのが怖いんだよ。あれだけずっと一緒にいた佳織の事さえ、全然理解できてなかったんだから。だから今はその時の感情だとか、瞬間的な理由で動いて、以前の自分みたいな真似をしてる…んだと思う。だからどこか他人事みたいに物事を受け止めてる所がもあって、自分が無いっていうか、よくわからない様な気がする。…深く考えだすと自分でも言ってることがわかんなくなってきてメンヘラみたいになってきて気持ち悪いなって思うんだけど」

うううむ、意外と難しい質問だな、とうんうん唸る俺の言葉を静かに聞いているリナ。佳織に失恋してから感じた自分の違和感を言語化してみようとおもったがなかなかどうして難しい。

「そっか…」

そう言いながら、うなずくリナ。

「…でもさ九郎の根っこにあるものは変わってないと思うよ」

少し考え込むようなそぶりを見せたが、そう言って俺に笑いかけてくる。

「九郎は…眞知田に失恋して、自分がわかんなくなっちゃたのかもだけど、お節介で変なところでまじめな九郎らしさは中学の頃から変わってないんじゃないかな。普通、今の自分がいいか悪いかだとかなんて気にしないと思うし、…そういう律義で正直なところ、私はいいって思ってるよ」

そう言ってからわたわたとしていたリナが、こほん、と咳払いをして続ける。

「変な事聞いてごめん。ありがとうね、九郎」

そう言って前を向くリナ。

「どういたしまして?…すまんな、上手く言えなかった」

そんな俺の言葉に首を振るリナ。

「なんかわかった気がする。私がしたい事」

そういうリナの横顔は、真っすぐで――――綺麗だな、と思った。

「また明日、九郎。カサレリヤ?」

「ああ、また明日。カサレリヤ!」

そう言って笑いながらリナが家に入っていくのを見送り、俺も家に帰るのだった。

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