第31話 藤堂直虎はオタク趣味を隠したい

カーテンの隙間から朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる…もう朝だ。寝不足と反動で熟睡できたのはいいが、昨日の自分の醜態を思い出して布団から出たくなさすぎる。

「シ…テ…コロシテ…」

「はいはい現実を直視するにゃあ。というかオタクなのがバレたところでリナちんもQちゃんも気にしないと思うにぃ」

布団の中で現実逃避をしていた私―――藤堂直虎―――を、瑠璃が引っ張り出す。腐れ縁というか長い付き合いの女友達…親友と言っていいこの福田瑠璃は、勝手知ったるで私の部屋に起こしに来ることがある。…私が学校に行きたくないとメンタルやられてるときは決まって、こうして朝一番から部屋まで来るのだ。

「トラちゃん、起きなきゃだめだにぃ。諦めて学校に行くにゃあ」

有無を言わせず私の服を剥く瑠璃。秒で下着姿にされてしまった。うおおおん、無理無理無理無理!布団の中でナメクジになりたい!貝になりたい!いっそころせぇぇぇぇぇぇっ!代表女子コンテストの日、衣装をほぼ完徹で仕上げた私は徹夜明けハイテンションで完全に壊れていた。おまけに佳織に衣装を台無しにされたのでエナドリドーピングをかけた結果、色々と残念な感じになってしまっていた!…のを1日経ってから思い出して布団で悶えていたのだ。

「うるせー!だにゃぁ。どうせ気にしてるのはトラちゃんだけだから学校に行くにゃ。…あ、トラちんおっぱいサイズおっきくなった?」

「…ワンサイズ」

「おー、D!Dシリーズ!きをつけてー誰かがウォッチふんふん!」

「はいはい上左上。まったく…バリグナーじゃないんだから」

そんな事を言いながらも下着姿は寒いので渋々着替える。

「おお、これは新作のコス?源仏(げんぶつ)の明宮をするんだにぃ」

部屋の隅においてあるトルソーの、作りかけの衣装を見て瑠璃が何かうんうん頷いている。

「トラちゃんなら明宮そっくりだからぴったりだにぃ!衣装の出来もすごいにゃぁ」

「似合うかどうかはさておき、衣装は凝りたいからねー」

制服に着替え終わり、鞄を持ったところで瑠璃に学校に行こうと促す。

「ふーむ、Qちゃんかっこいいから勝利(しょうり)先生とか似合うと思うにぃ。ほら顔つきとかそっくりだにゃあ」

作りかけの衣装を見ながら瑠璃がそんな事をポロッと言った。

勝利先生…私が作ってる衣装のキャラクターと同じゲームにでてくる人気の男キャラで、シュッとした凛々しい顔立ちと浮世離れした雰囲気が特徴的な、ロングコートの美青年だ。判官の勝利先生…あ、ヤバい絶対似合う。判官の顔ってかっこいいとおもってたけど勝利先生にそっくりなんだ!うわ、ヤバい、ヤバイヤバいよとんでもない爆弾に気づいたな瑠璃ィ!!…昔からこの子は人をよく見ているというか、何か妙に鋭いところもある子だった。そしてこうして時々爆弾発言をする。

「むふー、Qちゃんの勝利先生の要素炸裂でトラちゃんもメロメロにされてしまうにぃ」

判官が勝利先生のコスプレをして勝利先生の台詞を言ってくれたら…もう2.5次元じゃんそれ!!うひーっ、観たい、観た過ぎる!!

「頼んでみたらいいと思うにぃ、Qちゃんなら二つ返事で引き受けてくれると思うけにゃあ」

「…ううん、いい。やめとこ」

オタク趣味なんてわざわざオープンにすることじゃない。…それが原因でクラスで孤立したり、いじめられたりすることだってある。オタクってだけでクラスの中で下に見られて、バカにされるのは昔から変わらない。私だけならまだいいが、瑠璃を巻き込んでしまうかもしれない。あんなのは二度とご免だから。だから私はオタクな趣味がある事は高校になってからはひた隠しにして、見た目もイメチェンしたのだ。…でも判官は私がこういう趣味があるって知ったらどうするんだろう?驚くかなぁ、引くのかなぁ…案外気にしない気もする。はぁ、判官のコス…みたいなぁ、絶対かっこいいよね…でも判官にはリナがいるしなぁ…うぅ、出会うのが遅かった運命が恨めしい。思わずはぁ、とため息が零れる。

「残念だにゃあ…」

私のため息に同意してかそう言う瑠璃。…ため息の理由はきっと違うけど、まぁいいのだ。そんな瑠璃を宥めながら2人で学校に向かって歩く。

「あ、リナちんには私が寝坊していつもより遅くに家を出たから朝一緒にいけるかもっていってあるにゃぁ」

「何よそれ、私が布団から出てこなかったって言ってくれてよかったのに」

「んふー、その方が説明楽だからにぃ」

「まったくもう…」

この子は昔から人から自分への評価を気にしない所がある。なので、なんだか放っておけないのだ。そういえば初めて会った時から変わらないよなぁ、と懐かしい出来事を思い出したり。

瑠璃の手を引き―――もしかしたら手を引かれながらかもしれないが、瑠璃と仲良く登校するのだった。

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