第32話 少年たちはかく語る~幼馴染寝取られすぎじゃね??~
佳織が停学になる騒ぎはあったものの、代表女子コンテストが終わってしまえばまたいつもの日常が戻ってきた。その日は図書委員の予定もなく、バイトの予定もなかったので帰りはどこか寄り道しようかと考えながら校門を出たところで甲府達と一緒になった。
「よう判官、お前も帰りか!」
「甲府、お前達も今帰る所か」
そう言ってきたのは甲府、刷屋、村雨、村正の4人ともう一人の見慣れない男子を含めた男5人所帯だった。合同授業以降、このグループとは結構仲良くなったんだよなぁ。学帽を被ってるガタいのいいやつは初めて見る顔なので挨拶をしておこう。挨拶は対人関係の基本、古事記にも書いてある。
「そっちの学帽被ってる奴はこうやって話すのは初めてだよな?俺は判官、よろしくな」
「あぁ、アンタが噂の。合同授業で暴れまわったって聞いてるぜ、俺は富士本だ」
そう言って富士本と名乗った男子と握手をする。
握手をして、不動の山のような重さと力強さを感じた。ずっしりと太い大木が値を生やしたかのような重み。随分鍛えてるようだが…富士本っていうと中学の頃に聞いたことがある名前だな。
「富士本…富士本昴、中学の頃に不良グループを1人で壊滅させたって噂の不死身の富士本か!」
「よせやい…照れるぜ」
そう言って空いた手で鼻の下をこする富士本。ちょっと可愛いじゃん。
「そうだ、これからいつものケーキ屋にいくんだけどお前も来いよ」
そう言って甲府がケーキ屋に誘ってきた。そういえば新作ケーキが今日からだったっけ?せっかくのお誘いだしだし予定もないから行こうかな。
「お!そこを歩いていくのは稲架上っていったな?お前も帰りか!折角だからお前もどうだ」
丁度稲架上も通りかかったので甲府が稲架上にも声をかけていた。稲架上は迷っているようだったが甲府に押し切られて参加にされてしまった。…昔からそうだったけどコミュ力高いよな甲府。
なんやかんやで稲架上も付き合ってくれたので7人の大所帯になり、ケーキ屋の店長さんが8人掛けの大テーブルに通してくれた。各々が買ったケーキと飲み物を置きながら座っる…とはいえ何か目的があったわけではなく、なんとなく集まってだらだら喋るのが目的だったので学校の話やバイト先の話や部活の話と言った雑談で花を咲かせた。
「いやー、でもコンテストの時のお前の彼女の告白凄かったよな!」
ケーキをバクバク食べながら甲府が話を振ってきた。
「あぁ、リナ凄かったよな、皆魅入ってたもんな。…でもリナは俺の彼女じゃないぞ」
そんな俺の言葉に、甲府達のクラスの面子が驚いていた。
「なんだよお前ら付き合ってなかったのか?」
甲府の質問に友達だよ、と説明をする。いやまぁ、リナが好きか嫌いかで言われたら好き…だと思う。けど恋愛ってお互いの気持ちもあるしな。難しいよね。
「そう言うな。判官にも色々あるんだよ」
稲架上が隣で助け舟を出してくれた。そんな稲架上の言葉に、ふむ…と村雨が頷いている。
「その反応、恋人を寝取られた…か?」
緑茶を啜りながらの村雨の言葉に、そんなところ、と首肯する。
「おっと、そりゃすまなかったな。―――なぁに、寝取られたってもっといい女と付き合えばいいんだよ!」
全く慰めにならない慰めだが甲府なりの気づかいを感じるので頷いておく。
「そうだったのか、奇遇だな。俺もだよ」
そういって富士本がケーキを食べながら何でもない事のように言う。言ってることの割にケロッとしてるじゃないか…。
「まぁ俺の場合は付き合ってすぐに浮気されただけだったからそんなにダメージはなかったしな。少し揉めはしたが…」
そういえばGWの最終日になんかあったって言ってたな。色々あるよね、俺たちも年頃の男の子だもの。しかしそうか、俺以外にもいたんだなNTR被害者…。そう思うとなんとなく気が楽になる。いやなっていいものなのかはわからんが、同じ苦しみを味わった奴がいると安心感あるわー。
「いやでも、浮気されたっていってもキツいだろ…俺は幼馴染だったけど、お前もやっぱり幼馴染だったりするのか?」
そんな事を言えるぐらいには俺のメンタルも復活していた…これはリナ達や仁奈さんのおかげだ。まぁ、幼馴染は寝取られるものというし自分もそうだったので富士本も幼馴染を寝取られたのかと聞いてみた。そんな言葉に、「いや…そうだな…」と考えるそぶりを見せる。
「俺の場合は中学の時の話だが、一度目は幼馴染を寝取られた。二度目はクラスメートを寝取られて、でこの間の3度目は後輩に浮気された」
何それ…君NTRの星の下に産まれたの???人生なんでそんなに辛いの?ちょっとあまりに惨くないか。俺のケーキちょっとわけてやるから食えよ…。
「2回目までは毎回うちひしがれてたけどな、3回目となれば慣れる」
いやそれ慣れていいもんじゃないだろ、なんかその…俺も変な事聞いてごめんな、と謝る。
「ふーん、幼馴染ってやっぱり寝取られるものなんだなー。あ、でも村正ァ!の所はそう言う事なさそうだよな」
甲府がしみじみと言うが、思い出したように話を村正にふる。そういえばしょうちゃん…村正は彼女と仲良くやっているようだったな、授業中もチアガールになって応援していたし、仲睦まじいのは良い事だ。
「そうだなぁ、仲良く続くように頑張るよ」
パフェを食べながら言う村正。俺も――富士本もそうだと思うが―――幼馴染を寝取られてしまった身からしたら、仲良く続いている幼馴染の恋人同士というものは憧れる気持ちがある。俺から佳織に対してそういった愛情はもうないが、村正ァ!と藤島には俺が失ってしまったものへの憧憬を感じる。なので村正ァ!と藤島の2人にはぜひともそのまま相思相愛で居てほしいな。
「恋愛というものは色々あるのだな」
そう言って紅茶を飲んでいるのは刷屋だ。聞けばこいつは恋人と同棲しているらしい。すすんでいるなぁ、というが恋人は通信制の高校に通う自宅警備員でゲームばかりしているとかなんとか。普段はゲームではランカーだとかで一日ゲームをしてるそうだ。凄いよなそういうの。あ、もしゲームを一緒にプレイするときとか、チームプレイで人手が足りないときは手伝ってくれると思うから誘ってやってくれとの事。ふーむ、俺もゲームはするけどあくまで人並みくらいだしなぁ、まあそんなきかいがあれば頼らせてもらうかもしれない。…恋人同士の関係といっても色々あるんだろうし、彼女が自宅警備員といっても刷屋はそれに満足しているのでそれでいいんじゃないだろうか。
「稲架上、お前はそう言うのないのかよ」
甲府が稲架上にも話を振る。適度に話に乗ったりしていた稲架上が、俺か?と返している。
「…好きな子はいたよ、幼馴染だ。俺も寝取られたけどな」
そんな言葉に、「あー」と俺を含めた男子の哀しい声が重なる。そういえばそんな事言っていたな。
「俺の場合は相手が大人だった。金髪の社長だったから、大人の男に惹かれたんだろう。ロリコンとマザコン併発してる男だったが」
「そいつ実はいいところの生まれで生き別れの妹が居たりしない?」
「若いころはノースリーブでグラサン来てそうな?」
「金色とか赤い車に乗って3倍の速度出したりする?」
ロリコンとマザコン併発した金髪と聞いて富士本に村正や甲府が稲架上に聞くが、
「凄いな、その通りだ」
と稲架上が驚いていた。合ってるんだ…。うーん、茶色い天パ呼んできて隕石の壁面にめり込ませるといいんじゃないかなその金髪ロリコンマザコン社長。きっと綺麗なオーロラが見えるに違いない。多分天パさんが特効持ちだぞ。
「…幼馴染を寝取られてトラウマになるのはわかるが、なんかこう…環境テロとかあやしい活動には走るなよ」
俺も稲架上が心配で言う。
「…そんな事しない、俺にそんな度胸は無いよ」
そんな稲架上の様子に一抹の不安を感じてしまう。
「折角男の子が集まっているのに、哀しい話ばかりじゃない」
トレーを持った店長さんが俺たちのテーブルにドリアンを使ったケーキを並べていく。
「青春だもの、色々あるけど悪い事ばかりじゃないわ。思い思われ振り振られっていうけど大人になったらそんな事もあったなって思える日が来るわよ。…さ、これはアタシからのサービスよ。食べていってちょうだい」
そういってにっこり笑う店長さんにお礼を言って、俺たちはドリアンのケーキを食べながらあれやこれやと話に花を咲かせるのであった。ドリアンすごく美味しい…うーん、ブラーボ!…あ、ブラボーか!
こうやって男だけで集まって騒いでいると、佳織に失恋したけどそれ以上のものを得たって気がする。リナ達に出会ったのも失恋がきっかけだったしなぁ…禍福は糾える縄の如し、なんて昔の人は上手いこと言ったよねー。梅雨もじき開けて夏がくるなぁ、なんてことを考えながら、俺たちは賑やかに話すのだった。
「胸のデカさなら大垣が一番デカいと思う」
「藤島も結構大きいよな、お前揉んだことないのかよ村正ァ!」
「ねーよ!!俺達は純愛してんだよ…刷屋の彼女はどうなんだ」
「全体的に脂肪を蓄えている。だが人の外見など些事」
…ってさっきまで失恋NTRの話してたのに、なんで俺達女子のおっぱいサイズ談義してんだよ…!いや高校生らしいけど!確かに男子高校生らしいけど!!
「…あ、でも藤堂も結構デカい気がする」
そういえば藤堂ってリナがいたりするから目立たないけど動いたときに結構胸がパツンパツンになってるよな。…それいったら福田も結構…いや、福田はよくわからんな…。
「なんだ判官、お前むっつりか」
「なんだよ稲架上、むむむ、むっつりじゃないわい!健全な男子高校生なら女子の胸にくらい興味湧くんじゃないか?」
「めっちゃ必死じゃん」
「じゃかあしい村正ァ!そういうところだぞ村正ァ!わかるまい、お前みたいな幼馴染とイチャラブしてる奴には、寝取られて失恋した俺と富士本の身体からでる力が…!」
「まて判官俺を巻き込むな。それだと俺もお前も最終回で精神崩壊するだろ」
男7人も集まればそんなエッチな話もするしも騒がしくなるよね、だって思春期だもの。その日は日が暮れるまでそうやって賑やかに談笑しましたとさ、まる。
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