第39話 初放送と気になるコメント

 お風呂でのハプニングの後俺も風呂に入り、観月と早織ちゃんの待っている部屋にあがって行った。2人にさっきはすまなかったと謝ったが、観月は、


「折角お兄ちゃんとイチャイチャしながらお風呂に入れると思ったのにー…」


 なんて残念がっていてた。兄妹でイチャイイチャはしないだろ…。反面早織ちゃんは


「ひ、貧相な身体を…粗末な…物をお見せしてすいませぇぇぇぇぇん」


 と泣きそうになっていたので、女の子が自分の身体をそんな風に卑下しちゃいけない、早織ちゃんは可愛いよと言ったら頭から湯気を出して静かになってしまった。

 そもそもが年頃の女の子の裸をみた俺が糾弾されるべきところだしごめんねと謝ったが、


「九郎お兄ちゃんに見られるのなら…全然いいっていうか、あの…その…そのぉ…」


 と怒っていなかったので早織ちゃんの優しさに救われた気がする。

 佳織はあんな風になってしまったが、早織ちゃんは昔と変わらず…いや、以前よりしっかりして、そしてなんだか言動が女の子らしくなった気がすよね。

 上手く言葉にできないけど。

 …とりあえずさっきのハプニングは、そう言う事で流してしまう雰囲気だったので俺もそれ以上は触れないようにする。つるつるのヴィジョンは頭から消え去れい!…だめだしっかり焼き付いてるわ…。そっと記憶の底に沈めておこうね。


「放送始まります、いきますよー」


 そんなこんなで早織ちゃんの声に、俺と観月はマイクを前にスタンバイする。


「こんばんはー、今日もネットの波間を漂うくらげちゃん、海月沢ジュエルだよー」

「お伴のくらげ兄です」


 そんな観月と俺の声に、コメント欄に反応が返ってきた。配信を見てくれているひとがきちんといるようで安心した。


「…ということで今日から、なんと!前回の放送の時に兄フラした私のお兄ちゃんが、このゆるい生命体なんですけどー、たまに配信に現れてくれることになりましたーいえーい」


「その節は大変ご迷惑をおかけしました、宜しくお願いします」


 と画面の向こうのリスナーの人達に声をかけ、ゆるいくらげのアバターがうにょうにょ動いている。


『こんだよー』


『こんばんだー』


『なんか増えてる』


『お兄ちゃんがいるw』


 コメントを見ている限りリスナーからには受け入れてもらえているようで安心した。

男は出てくるなと言われるかと思ったけど皆あったかかくて助かるよ…。


『無駄に声がいい』


『見た目と声のギャップよ』


『またネタリクエストやってくださいよ』


「わー、お兄ちゃんも好評みたいで私も嬉しいです。でもお兄ちゃんは私のものなのであげませんですゆえー!」


何を言ってるんだかと苦笑してしまう。いつまでたっても兄離れできないのはいいのか悪いのか。


「というころで今日も皆さん、お仕事、学校おつかれさまでしたぁ!週末ですよ週末!」


そんな風に観月がきゃっきゃとはしゃいでいるので、俺も合の手を入れる。


「そう、週末がきますね。でもねサービス業の方は土日も働かれてるのを忘れちゃだめだぞジュエル。土日祝日に働いてくれる人への感謝は忘れないようにしなきゃ」


 そう、土日祝といった休みに買い物したり遊べるのはその時働いてくれている人がいるからなんだよ!ご苦労様です!!


「そうだよねお兄ちゃん!本当感謝ですありがとー!今聞いてくれている人もお休みの日働かれる人、お疲れ様です、ありがとうございます」


『シミルワァ』

『社畜です慰めてください』

『働きたくないでござる、絶対に働きたくないでござる!』


 コメント欄に社畜の方々のレスポンスが凄い速さできた。お仕事お疲れ様です…。

本当、ありがとうございます。

 それを皮切りに観月と2人でゆるく会話を進めていった。


 意識しすぎると緊張したが、実際はじめてみると観月がリスナーのコメントを見ながら話を広げていくので、俺の役目は適度に合いの手を打っていくだけだ。

 さすが観月、コミュ強と自称するだけあって話の盛り上げ方や俺への相槌を要求するタイミングが抜群に上手い。あとピンク色の魔法少女だったり浅葱色の羽織を着た病弱女剣士だったりなんとかぷいきゃーだったりカエルっぽい女の子だったり、どこかで聞いたことがあるようなキャラクターのネタを織り交ぜながらレスポンスしていく。そういえば観月もアニメ声してるんだよな、毎日聞いてるから忘れがちだけど。


『息ばっちりじゃーん』


『兄妹仲良いの羨ましいー』


 そんなコメントに2人でははは、と笑ったりした。そうね、兄妹仲はいいと思う。


 それから2人でウサギが転がって目指すゲームをしたり、

 物真似のリクエストをする一部のリスナーのネタを拾ったりして頑張った。『I_am_blue_leaf』さんはきゃっきゃしながらコメントやネタのリクエストやコメントをたくさん飛ばしてきていたので名前が目について覚えてしまった。変わった名前の人だなぁと思いつつも、楽しんでもらえているならのならヨシッ!というスタンスで観月と一緒に放送を頑張った。

 リスナーの人達も楽しんでもらえたようで、また次も楽しみにしているという旨のコメントをたくさんもらえたことは嬉しかった。

 放送した時間は一時間少しだったと思うが、終わった時にはやり切った達成感があった。

 放送を終了し、完全にマイクもオフにした後は、観月と早織ちゃんと3人でハイタッチをしてしまったり。沢山の人と同じ時間、楽しい時間を共有する事がこのVtuberの楽しさなんだという事を感じることが出来たのは良い経験ができた思う。

 今後も観月や早織ちゃんに頼まれたら、俺に出来る限りは力になりたいな、とも思った

そんな事を思いながらコメント欄を見ていると、放送終了間際最後の方のコメントに目が留まった。


『ころんちゃんの放送よりもこっちの方が面白いw』


『わかるwこっちにスパチャしたい』


『ころん様からジュエルちゃんに推し変しよ』


 リスナーの一部がそんな発言をしていた。…推し変?その言葉が、虫の知らせというかなんだか心に引っかかった。


「九郎お兄ちゃんもお疲れさまでした、すごく、その…かっこいい声で、妹想いのお兄ちゃんって、なってました!妹の形見の携帯電話をずっともってて留守電聞いていそうな感じの!」


「もう、それじゃ私死んじゃうじゃない」


そう言いながら3人で笑っていたが、さっきのチャット欄のコメントが気になり、どうにもすっきりしないんだよな…。


そんな事を密かに思いながらも2人と別れて部屋に戻り、ベットに座ったところでピコン、とスマホが鳴った。誰かからメッセージがきたなぁ、と思ったら青葉先輩と表示されている。そういえば連絡先好感したもんな。


『お疲れ様です。青葉、みちゃいました!』


…何を?!と思ったけどまた学校で会ったら聞いてみようと思いつつ、今日は疲れたしもうねよう、俺はうとうとと眠りにつくのであった、まる。

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