第40話 逆襲の佳織①
「ウェイウェーイ!調子はどうだいかおりちゃーん。俺がデザインした~チョーイケてるVのモデルゥ、気に入ってくれたかい?」
そう言うグラサンのチャラい男は『おしゃぶり脇の下カイザー太郎』…本名山本さとし。今は大学生という事らしいけど、ふざけたペンネームとは裏腹にネットでの知名度も高い大人気のイラストレーターだ。
「ありがとうございます。素敵なキャラクターのおかげで視聴者数もチャンネル登録もうなぎ上りですよ~」
顔もいいし知名度もあるさとしには媚びをしっかり売る。
こういう自分のステップアップに役立ちそうな男にはどんどん媚びて唾をつけないと!
「フフフッ、伸び具合をみてるけど順調そうだね?新規の個人Vとしてはトップクラスといっていいんじゃないかな。収益化も通ったしスパチャで荒稼ぎも期待できる。あぁ、スパチャの収益は佳織ちゃんのものにしていいからね」
そういう胡散臭いイケメンは多羅篠…私に協力している女たらしの下種野郎だ。この男は自分の楽しみのために私を使っているっぽいけど、私はこの多羅篠のコネクションを便利に使わせてもらえるのでギブアンドテイクみたいなものだろう。…好きか嫌いかはさておき。
「ヨッシーから特急でVのモデル依頼が来た時は驚いたけど、こ~んなカワイイJKのお願いなら俺大歓迎だよ~?」
そう言いながら肩を抱いてくるさとし。随分慣れ慣れしく、そしていやらしい触り方をするが金も立場もあっておまけに顔もいいから甘んじて受け入れる。
「でもいいのヨッシー?こんなかわいい子を俺に紹介しちゃって。ヨッシーなら自分のコレクションにするレベルじゃないの?」
「ははは、佳織ちゃんはコレクションに加えるよりもサポートして暴れまわらせた方がずっと面白いからね。それじゃ、俺は忙しいからあとは君たち2人でうまいことやってよ。スタッフが必要な時は言って貰えれば手配するからさ」
そんな事を言って去っていく多羅篠。言い方はムカつくが、実際ほぼ見返り無しで私に協力してもらっているのでここは黙って聞いておく。
「佳織ちゃん幼馴染が振られた腹いせに土下座を強要してきて晒し者にされたんだよね?可哀想…。
酷い事するクズ幼馴染だったんだね、可哀想に…俺だったらそんな目に合わせないのになぁ」
そう言いながら私の身体をじっとりと見てくるさとし。
そんな回りくどいことしなくても、イケメンだし金も地位もあるから別に“そういう”関係になる事は全然やぶさかじゃないんだけどね。
まぁそれはそういう雰囲気になったらその時はその時。キープしておく価値はありそうだし。
「そうなんですよ~、それで多羅篠君が、それじゃあ個人Vで有名になってざまぁしてやったらいいんじゃないって言ってくれてぇ~。それに、学校でつらい思いをしても、Vの世界なら新しい自分、楽しい時間をみつけられるかもって言われて、私、頑張ろうって思ったんですぅ~」
そんな私の言葉に、
「それは辛かったね…でも大丈夫、このカイザー太郎がついてるからね、いずれお着換えの新衣装とかも実装してV活動をどんどん盛り上げちゃうよ☆」
とグラサン越しにウインクをしてくる。態度がナルシストっぽい一歩間違うとキモいけれど顔がいいから許す(本名はさとし)。
――――そう、私は多羅篠のプロデュースでVtuber『三毛羽ころん』として活動を始めたのだ。
多羅篠の手腕で企業Vと変わらぬクオリティの3Dモデルを用意してもらい、注目の新人個人Vとしての鮮烈なデビューは大成功だった。
現実で恋愛が出来ないオタクを搾取するなんて簡単だ。
可愛らしい見た目のガワで、それなりにアニメ声も出せる私の声色を使って甘い言葉をかけて、弱さを見せて、『この子は俺がいないと駄目なんだ』と思わせる。恋に落ちるように誘導し、そして他のファンと競い合わせることで深みに嵌めていく。
当然、スパチャを頑張ってくれているファンには個人的にお礼のDMやメッセージを送って関係に依存してもらう。
そして話題になればなるほど視聴者は増え、ネズミ算式に増えていく。
――――みろ!人がゴミのようだ!!
そうしてちやほやされていると、傷つけられた自尊心が癒えていくのを感じる。
あの屈辱の土下座から一か月足らずでここまで復活できたのはひとえに私が神に恵まれた美少女だ。
そう、私は現実の学校で追放されてしまったようなものだ。ネット小説で読んだけど追放されたら追放先ですごいパワーに目覚めて、追放した奴らをざまぁして見返して、もう遅いするのだ。
大垣―――あの金髪クソビッチには必ず復讐してやる。…あとあの幼馴染にも。私に土下座させておいて、そのくせ私が出ていこうとしたらあの頃みたいに優しい言葉をかけてきて。あれだけの事をしたのに、まだ…。…ううっ、何なのよあいつ、あいつ。きらい、きらい、きらい!…そうよ、私は―――あいつが、大っ嫌い…、なんだから!
そうだ、私は三毛羽ころんとして君臨し、視聴者…いや信者を手に入れたら――――あいつらに『ざまぁ』をするのだ。その時が楽しみで仕方がない。私がしたように怒りと屈辱に震えながら土下座するあいつらの顔、楽しみすぎる。
それからしばらくたった日の事。
多羅篠がVのスタジオとして借りているマンションの部屋。全裸のさとしがPCのモニタを見ていた。
「―――あれ、なんか凄い伸びてるVがいるねぇ」
今日は両親がいないのと妹は隣の家にお泊りに行くとか言っていたので、それなら家に帰らなくてもいいかとこの部屋に泊まり込んでいたらV作業に来たさとしと遭遇、なんやかんやでイチャイチャしたので。明日は先輩ともデートなんだけど…ま、いっか。
「へぇ、どんな奴なの?」
対して興味はないが、勢いがあるVはチョックして、私の邪魔になるようなら芽が出る前に叩き潰しておかなければいけない。私は絶対なのだ!!
「この子、海月月ジュエルっていうんだって。へぇ…いい声してるじゃん。兄妹でのVって珍しいね」
そこには水色の髪の毛をした個人のVがいた。
何よ、さとしのデザインしたイラストと比べたら大したことないじゃない。中坊が頑張って書いたって感じのクソダッサいイラストじゃないの?こんな絵でVやろうなんて恥ずかしくないのかしら。
「う~ん、そうだねぇ。絵は確かに粗削りだしパッと見微妙かも知れないけど、デザインのセンスそのものはいいし、中身の兄妹のキャラクターが面白いからウケてる感じだね」
そう言いながらさとしは動画を見ている。チャラいくせに仕事はキッチりやろうとするあたり便利で使える男だ。…大事なところはショボいけど。
「え~、さとしさんのキャラデザの方がずっとよくないですかぁ~?こんなの私たちの敵じゃないでしょ~」
そういいながらうしろからさとしに抱き着くと、さとしはムヒョォ!と鼻の下をのばしていたが、画面を見直して何とも言えない表情をしていた。
「いや…俺も精魂込めてデザインしたし別衣装をすすめたりしているからこの子に限らず他のVにも負けない自信はあるけど…トーク力、視聴者を盛り上げるのが上手いVっていうのはどこで人気がハネるかわからないよ」
何それ。じゃあそんなカスが相手にならないような可愛いモデルつくればいいじゃん、さとし(ポークビッツくらいのサイズ)。
「ほらこれ、佳織ちゃんのファンもこのVみてるっぽいし」
そこには、見知った名前―――私が個人的にDMをいれているスパチャ常連たちがいた。
『ころんちゃんの放送よりもこっちの方が面白いw』
『わかるwこっちにスパチャしたい』
『ころん様からジュエルちゃんに推し変しよ』
そんなコメントが見えて、一瞬で頭に血が上った。
―――はぁ?ふざけたこといってんじゃないわよこいつら
海月月ジュエル。覚えたわよ。
私の邪魔する奴は…どんな手を使ってでもぶっ潰してやるんだから!!
俺の幼馴染が部長に。 サドガワイツキ @sadogawa_ituki
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