1章:幕間

第29話 to be continue?

代表女子コンテストの当日の朝、九郎や大垣達が賑やかにしているのを横目で見ていた。藤堂がなんかキャラクターが違うというかハイテンションになっていてキモかったけど、大垣の衣装を作ってきた、と言っていたのを私は聞き逃さなかった。

それから移動教室があったのでそのタイミングで体調不良をよそおって、大垣の衣装を盗み見た。生地を一目見てわかったがいい素材を使った一点ものの水着。観客の目を引くのは間違いない。

「いつのまにこんな物を…!!」

代表女子コンテストは、校外の協力者を招いても良い事になっている。私には多羅篠が手配したメイクやプロのスタイリストがついているが、大垣が有利になる点は一つでも潰しておきたい。…かおりん、やるんだな!?今、ここで。勝負は今!ここで決める!!

私は席に戻り、カッターを取り出すと大垣の衣装を切り裂いた。

最高にスカッとする、ザマーみろ、爽快な気分だ!私に歯向かう奴は皆潰されてしまえばいい!!

「――あら、誰かいるの?」

今は授業中、しかもクラスの連中は移動教室だ。誰だ?と声に振り向けば、あの金髪ストレートは案田輝姫だ。私の邪魔になりそうな…顔の良い女だったからグループに引き入れようとしたがあしらって私に恥をかかせた女だ。大垣と言い案田といい、金髪女はどいつもこいつもいけすかない。

まずい、…まだ一瞬振り向いただけで私だとはわからないはず、証拠も無い。

呼び止めようとする声を無視し、私はそのまま教室を走り去った。

目的は果たしたんだ、これで大垣は綺麗な衣装で出ることはできない。せいぜいが学校にある衣装を借りてでるくらいしかできない。私の秘策をもってすれば―――勝ちは揺るがない!!私はウキウキの気分で羽目田先輩の所に行った。私が代表女子コンテストに出て優勝することで俺にも箔がつくと上機嫌な先輩と、“お楽しみ”をした。


午後になり代表女子コンテストの準備が始まると、多羅篠が手配してくれたメイクやスタイリストたちが来て控室では私をばっちり仕上げてくれた。水着に関してはスタイリストがいくつか候補を持ってきてくれていたけど、午前中にみた大垣の水着のクオリティから普通の水着ではインパクトにかけるかもしれない…と思って敢えてホタテ水着を選んだ。スタイリストは「…マジで??」と驚いていたが、獅子はウサギを潰す…倒す?食べる?のにも全力を出すとかいうし、元から可愛い私がプロの手でアイドルかそれ以上に可愛くなったとしても、ダメ押しの一手にこれはきっと有効だろう。メイクもスタイリストも最後まで微妙な返事をしていたが、年頃の男なんてエロい恰好で色仕掛けすればコロッと落ちるに決まってる。


―――なのに負けた。


絶対にありえない、こっちはプロの手を用意した。大垣は、案田と、藤堂の腰巾着…福田にメイクされていただけなのに、プロに仕上げてもらった私と変わらない程に整えられてきた。そして私が潰した衣装もリカバリーされていた。…おかしい、そんなのあるはずないのに。しかもコンテスト中、部長が…羽目田先輩が、大垣に魅入っているのも余計に腹が立った。お前の彼女はこの私なんだぞ!!何他の女にデレデレしてるんだと、今思い出しても腹が立つ。


そしてコンテストの敗北者となった私は、どさくさに紛れて帰宅してしまえばいいと逃げ出そうとしたが案田と福田にあっさりと掴まり、九郎たちに引き渡された。なんとか言い逃れをしようとしたが裏切り者の愚妹が送ったであろう通話の録音と新聞部の女の出した証拠で私のしたことが暴露されてしまったのだ。その上、あろうことかクラスの奴らの前で、土下座をさせられるという屈辱を味あわされた。…上手く言いくるめて逃れようとしたが失敗し、九郎は土下座なんてしなくていいと言っていたが…土下座を渋れば私があとから何を言われるかわからない。あの状況では土下座をするしかなかった。この私が!!九郎なんかに、大垣なんかに!!土下座を!!!そして私は屈辱に耐えながらの土下座を無理やり強要され、痛い子を見るようなクラスの連中の目から逃げるように学校から逃げ出した。息が切れるまで走り続け、走りつかれたところで悔しさを我慢できずに地団太を踏み続ける。私が学校で築き上げてきた地位は失った。

…くやしいくやしいくやしいくやしいくやしい!!


「やぁ、佳織ちゃん」


視線に顔をあげると、そこにいたのは―――多羅篠だった。

「…何?」

「メイクさん達から聞いてるよ。折角僕が手を貸したのに―――メイクさん達のアドバイスも聞かずに負けちゃったんだってね」

君には失望したよ、そう言いながら首を左右に振る多羅篠。なんだよお前おさげのナントカ娘のつもりかよきめえな。

「何よ、アンタも私に詫びをいれさせに来たってワケ?手間をかけさせて無様に負けたから?」

「さぁ、それは君次第かな。…で、今の心境は?これからどうするつもり?」

すうっと、品定めでもするかのように目を細める多羅篠。はぁ?心境?そんなの…そんなの言うまでもないじゃない。―――ほんの一瞬、私が教室を去ろうとした時に見せた九郎の顔が、子供の頃から一緒だった九郎君に重なったが―――首を振り、お前なんか消えろと頭からかき消して叫ぶ。

「覚えてろ九郎…大垣ィ…!!地べたを這い泥水すすってでもこの屈辱は復讐してやる…!!絶対に倍返ししてやる…いや、1000倍返しだッ!!」

そんな私の言葉を聞いて、多羅篠は、ははは!と愉快そうに笑った。


「いいね、ここで折れるようなら落とし前かな…と思っていたけど―――その濁った眼ならまだまだ頑張れそうだ。それじゃあそんな佳織ちゃんに提案だけど―――“Vtuber”って…知ってるかい?」

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