第11話
「とは言っても、運搬する食糧と物資の準備もあるからね! 出発は1週間後だからよろしく!――それじゃ、朝礼はお終いだよ! これから各自戦闘訓練の教室に向かって!」
カーラがそう言って教室を出て行くと、各々が訓練所へ向かう。
「何時まで抱きついているの!?」
「――おわっ!?」
ニーナに突き飛ばされ、俺は尻餅をつく。そういえば、ずっと抱きついたままだった。
勉強机やデスクで寝落ちしたみたいな感触だったから、気が付かなかった。
「こ、これでも私はウェルテクス王国貴族の家柄なんだからッ! い、いくら救世主候補だからって、気安く近づかないで!」
なんかツンデレっぽいけど、これは違う。
俺の身体――というか、〈ギフテック〉目当てで一緒にいてくれているだけだ。
愛とかデレとか、そういうのは一切感じない。
というか、純粋に迫力が凄くて怖い。
野生動物みたいだ。
「ご、ごめん……。取り敢えず、これからよろしく御願いします!」
「……まぁ、いいわ! よろしくしてあげる」
腕組みをしながら主張しない胸を張り、そっぽを向いてニーナは言葉だけで返答してきた。
貴族から見た平民なんて、こういう適当な扱いでいいもんなんだろうなぁ。
返答するときに目も合わせなくて良い程度のさ。
……いいよなぁ、上級国民。
俺なんか頭下げてばっかりで、もう背中が曲がりそうだし。
普通の姿勢なんか忘れつつあるよ。
目を合わせながら作り笑いばっかしてて、本当の笑顔なんか忘れかけていたのに。
あれ、涙が勝手に……。
いかん、綺麗な外の風景でも見て癒やされよう――。
「――校舎って言うか、建物の造りから想像はしていたけど……。この世界は元いた世界基準だと中世よりの近世レベルの文明みたいだな」
……鑑定機みたいな一部例外のオーバーテクノロジーを除けばだけど。
魔法とか便利な物がある上に、崩壊寸前まで攻められていれば研究どころじゃあないだろうしな。科学の発展もそりゃ遅れるよな。
「……あの、それで――剣士とかの訓練ってどこに行けば良いのでしょうか?」
建物を出るまでは一緒の道なようで。
上級国民様に俺みたいなのが気安く聞いてすいませんとか思いつつ――ニーナに尋ねる。
「なら、あいつに着いていけばいいんじゃない? 腰に剣を下げてるし、多分剣士でしょ」
「成る程」
確かに制服の腰の辺りから、如何にも剣士ですという剣を下げている男がいる。
「ニーナ……さんは剣士とは違うのですか?」
ニーナと呼び捨てしそうになったら音を発しそうな眼力で殺気を飛ばされた。
メンチを切るとか言うんだっけ?
……マジで怖いのですが。ちょっとちびりそう。赤髪の狼と一緒の牢屋に入れられた気分だ。
「私は剣士と同じ前衛でも、盾職よ! 武器もランスだから、普段は持ち歩けない。別の場所よッ!」
ニーナは言い捨てると――ふんっと身を翻し、己の武器庫へ向かったようだ。
彼女の後ろには、強い女性に憧れの眼差しを向ける同級生が何人も付いていっていた。
「ありがとうございます! では、また共同プロジェクト――いえ、課外授業の時にゆっくりと!」
聞こえているかは解らないが、俺は礼を通す男。ニーナの背にそう告げた。
……別に、貴族令嬢に取り入って安全に過ごせる可能性を少しでも上げようとか、教室での地位向上を狙ってるとかじゃないよ?
あれだね。ニーナはバレンタインデーに女性から本命チョコを沢山貰うタイプだ。
憧れの人の後ろって付いて行きたくなるしね。
俺はニーナが教えてくれた腰から剣を下げる男を見失わないよう、彼の後ろを付いていった。
……あれ、さっきの理論だと俺って――腰から剣を下げた彼に憧れてチョコを――。
いや、考えないようにしよう。
とにかく、人生から懲戒解雇されない為に訓練だ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます