第35話

「成績上位者のパーティーって事で、優先的に与えられた依頼を決められる権利を持ってきたよ!」

「――お前さ、職権乱用とかしてない?」

「してない」

「本当は勝手な判断で依頼書を持ってき」

「してない」


 笑顔で否定するカーラに、俺も諦めた。

 1人でも多い方がより安全だろうとカーラを連れて行く事を学園長に提案した。

 ――だが、自分の身に危険が襲い来ると思えばそりゃあカーラは職権を活用するよな。

 そんな事は先日の筆記試験で解っていたはずだったのに……っ。


「えっと……。どんな依頼があるんですか?」

「私はどんな依頼でもいいわ!」


 広い教室を一杯に使って、5人はミーティングをしていた。

 中央には依頼書一覧を持った俺とカーラ、そしてハンネ。

 何時でも逃亡できる廊下側にマリエ。

 そして、自主的に窓際を陣取ったニーナ。

 ……もう最近だと、ニーナは自ら窓際で窓を開けるようになっていてさ。

 風に靡く攻撃的な美しさを持つ赤髪がさ、最近だと血の涙に見えるのよ。

 なんか俺、もうニーナを見てるだけで泣きそうなんだよ。

 彼女、報われ無さすぎだろ。


「もう、さてはみんな、ボクが1番に持って来た理由を理解していないね?」

「理由……ですか? どんな理由なんですか?」

「――雑魚しか出なさそうで、いっちばん安全な依頼をもぎ取るためだよ!」


 ドンと言い切るカーラに、俺は『こういう楽そうな案件先にもぎとる先輩いたなぁ』と思い出しながら――。


「お前、人間としてクズだな。その分、『人にヤバい依頼を押しつけます』って宣言と同義だぞ」


 ただの人間にだったらここまでは言わないが――カーラは『戦乙女』で『教官』なんだ。

 これぐらい言ってもまだ足りないぐらいだ。


「人生はね、楽なポジションを巡る競争なんだよ!」


 カーラは『戦乙女』の癖に人生について語りだした。

 もうみんなカーラに対して諦め――慣れたのか、依頼の吟味を始める。


「――これなんかどう? ウチが思うに1番安全そうだし」

「どれどれ……。『廃坑に巣くうゴブリンやモンスター退治と、近隣の村々から奪われた金品の奪還』か。うん、これはいいじゃないか、雑魚モンスターしか出なさそう! 廃坑なんて狭いし、大型モンスターも絶対いないしね!」

「この廃坑は、ウェルテクス王国と他国の国境近くね! 今は魔神軍に支配されてるけど、昔は貴重な鉱石が大量に出ていた要地だったって家庭教師から聞いたわ!」


 地図を眺めながら、ニーナが言う。

 貴族として土地や国交に関する勉強もしているのか、ニーナはさすがに博識だ。

 ――だが、知識や情報は受け手次第で活用や受け取り方も変わる――。


「そうなの!? なら、あわよくば貴重な鉱石も……」

「そのような要地が奪われたなら、鉱山に勤める方や家族は職も失い、困ったでしょうね……」

「傷ついた人も、沢山いそうね。……今でも周囲の村はモンスターの略奪にあってるみたいだし」

「なんなら、鉱山を取り戻せれば他国との国交回復まで望めるかもしれないわ!」


 嘘みたいだろ?

 1番俗っぽい意見を言った奴が、1番神々と近い位置にいたんだぜ?

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