第23話
「坊主……疲れてんのか? まぁ、お前さんは殆ど休まず働いてるかんな」
「不破暁です。もうここに来て3週間になるんだし、そろそろ名前ぐらいは覚えてください」
「ああ、わりぃわりぃ。――お前にちょっと頼みがあってな」
「頼み……ですか?」
「ああ、俺は職務上、この城砦を離れられない。――だからお前に、王都への届け物を頼みたい」
「王都への……?」
「城壁が直れば、一先ずお前は王都へ帰れるんだろ?――これは、1年くらい前に王都からここに派遣された奴が残した形見――剣だ。何でも、娘が買ってくれた宝物らしい」
腰に下げていた剣を鞘ごとぶっきらぼうに投げつけてきた。
「これを、俺が王都の家族に届けろってことですか?」
「そう言うことだ」
「成る程……。わかりました。――それで、この遺品の持ち主だった方のお名前は?」
俺が聞くと、左官のオッサンは顔をサッと横に背けた。
「……知らねぇ」
「いや、名前ぐらい覚えてろよ」
脳味噌まで筋肉かよ、体毛で記憶に靄でもかかってんのかこのオッサン。記憶力悪すぎだろ。
「あ゙?」
「なんでもありません、失礼しました」
90度に腰を折って頭を下げる。血の気が多い人ばっかりで怖い。
「……しかし、王都には人が何10万人といるので……。せめて特徴ぐらいわからないと」
「ああ、確か……。帰ったら、娘の結婚式に出るって言ってたな。必ず帰って花嫁姿を見ると約束していたそうだ」
死亡フラグ立ててくるなよ。いや、この世界にそんなもんあるか知らないけど。
「男の見た目は……ヒョロッとした金髪で、髪をオールバックにしてたな。こんぐらいしか俺も覚えてねぇ。――んじゃ、俺は聖女様に治療を御願いして寝るわ。頼んだぞ」
結局、殆どヒント無かったじゃねぇかよ。
それにしても、マリエも大変だな。
こんな夜中にも治療依頼か。
俺もマリエに負けていられない。
そう思い、かがり火の光を使いながら修復作業、壁材が乾くまでは剣の修練に励み、隙をついては眠った。
あれ。なんか自らブラック労働をしている気が――と思いつつ、坑がい難い睡魔に飲み込まれ、意識を失っていった――。
「――夜襲だ!」
一際大きな叫び声で目が覚めた。
「大規模な軍勢が押し寄せてくる! 全員、武器を取れ! ここまで修復した城壁に近づけさせるな!」
それは監視役の見張りの声だった。
俺も直ちに武器を――。
「……そういや、形見の剣しかないわ」
修練で使っているのは鉄心が入った重い木剣。
普段敵襲時に用いていた剣や鎧は今、倉庫にしまっていて手元に無い。
「うおっ!? 弓っ!?」
雨の如き弓矢が放たれ、城壁や左官達に命中する。
俺は自分より遙かに巨躯な左官に隠れ――代わりに矢を受けてくれたおかげで無傷です。
こういう時は、身体が細く小さくて良かったと想うよね。
「くそっ、負傷者が多い! 敵が次の矢を番えるまでに突っ込め! 負傷者の治療には聖女様をお呼びしろ!」
「おうよ!」
指揮官の命令に従い、剣や槍、斧を手に迎撃する者が大多数。
1人が聖女――マリエを呼びに行った。
深い眠りについている時刻だろうと、仕方がない。
「ちっくしょおおおッ! 夜間もオンコールで働くとか聞いてねぇぞッ! 夜間手当とか出せよなぁあああッ!」
俺はどう考えても人間にしか見えない奴、人型をしつつも肌が鱗で覆われていたり、明らかにトカゲの目をしていたりと、種族に統一性のない魔神軍集団との乱戦に巻き込まれていった。
名前も知らぬ人が持っていた形見の剣の切れ味は中々にいい。
だが、不慣れな戦闘で調子にのって討ち死になんて冗談じゃない。
俺は暗闇の中、左官や兵士達と多対一となるように行動し、順調に魔神軍を撃退していった――。
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