第22話
「――おお、やっと救援か! 待ちに待ったぜ!」
いざ城砦へ辿り着くと、そこかしこに手傷を負った左官達がいた。
「プリーストのねぇちゃんも居るぞ! これで回復魔法をかけてもらえる!」
「助かるぜ! これで作業も捗るってもんだ!」
「姉ちゃん、着いていきなりで悪いが……回復魔法を御願いしてもいいか?」
「は、はい! それでは皆さん、順番にお並びください!」
マリエは馬車での移動で疲れているだろうにも関わらず、すかさず治療に入った。
「……酷いお怪我。こんなになっても、御国の為に頑張って下さったんですね。本当に、有り難うございます。――我らが神よ。傷つきしかの者に癒やしの加護を、我が体内の魔力を媒介に、治癒の奇跡を。キュア!」
詠唱らしきものをマリエが唱えると、傷だらけだった者の傷はみるみる癒え――やがて何事もなかったかのような状態になった。
「おお!? す、すげぇ。動く、動くし痛くねぇ! 嬢ちゃん、凄腕のプリーストなんだな!」
「さすがはマリエ、敬虔なフレイア様信徒にして、学年主席なだけあるな」
「あ、暁さん……っ。からかわないで下さいっ。……頑張る皆様のお役に立てて、私こそ幸せです」
「お、お嬢――いや、マリエさん……っ」
治療を受けた左官が頬を染めている。
また1人、骨抜きにしたな。
「……まぁ、ずっと辛かった傷を癒やして貰った上に、こんな美少女だからな。気持ちは解る」
俺はチラチラとマリエの方を見ながら修復作業に戻っていく左官を見送った。
結局、マリエは数10人という傷を負った左官達を、たった1日で全員治療してしまった。
さしもの彼女も終盤には息を『はぁはぁ……っ』と粗くして懸命になって治療をしていた。
「なんか、凄くえっちです……っ」
背徳感というんだろうか。
体内の魔力を減らして息絶え絶えになっても頑張るプリーストが、エロい!
生前は意識したことはなかったが――背徳感という名のエロスを感じた。
「……大丈夫か?」
「あ、暁さん……。平気です。でも、少しだけ休ませて頂けますか? 魔力切れで……」
「――あ、で、では砦内の個室をお使い下さい、聖女様!」
城砦の守護兵士の声で、マリエは案内されていった。
遂には聖女とまで崇められちゃったよ。フレイア様、御願いですから見てあげて下さい。
マリエは城砦内部の上等な部屋へと案内され、直ぐさま眠ったらしい。
不慣れながらも城壁修理に勤しむ俺に、兵士の1人がそう教えてくれた。
ちなみに、部屋の場所は頑として教えてくれなかった。
「俺、恋のライバルとでも思われてるのかな。……マリエと一緒に来たし、仕方ないか」
そうして俺は時に襲い来る魔神軍と戦いつつ、城壁修理に勤しんだ。
孤立して戦う事は避けたが、腕利きの兵士の傍につき、金魚の糞となって戦うぐらいなら十分に戦えるようになってきた。
「うえ……。剣が肉を貫く感覚、最悪だ……」
未だにこの嫌な感覚には慣れないが。
「よそ見をするな! 死にたいのか!?」
「はい、すいません! 業務に集中します!」
「業務……?」
しまった。怒鳴られると即座に謝罪して反省を口にする癖が抜けていない。
王都から共に来た勇敢そうな兵士が怪訝そうにするが、気にしている余裕は無い。
俺は再び襲い来る魔神軍を阻止しつつ、昼夜問わず城壁修理と戦闘に明け暮れた――。
「……なあ、坊主」
「ここのセルは~ここだっ。ふへ、エクセル作業してるみたいだなぁ……。レンガってセルにそっくりだぁ。ふへへ……。――あ、お前ズレてるぞぉ。そういう悪い子はセル結合しちゃおっかなぁ~……」
「おい、坊主! しっかりしろ!」
「――はっ。……俺は今、一体何を……?」
夜中、かがり火の下で修復作業をしていると、体毛と筋肉に覆われたむさ苦しいオッサン左官に声をかけられた。
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