第21話
「だってだって! あんな超格好良いシーンを見たら真似したくなるじゃん!? そこに丁度良く願いがポンって送られてきて……。ボクだってさ、この世界を護らなきゃと思ったんだよ!」
「お前は本当に1回、ヘル様とやらに根性を叩き直されるべきだと思う。管理者の怠慢から就労者が馬鹿を見るとか、本当ふざけてる。1クリック神の力とやら使って『ブラックな環境に陥らせてごめんなさい』って全世界に向かって土下座映像でも流せよ」
「なんで!? そりゃ、ちょっと珍しいかけ声もしたし、通常与えられている以上の神力を使ったからさ……。ボクだってその後、ごっそり神力を使われたフレイア様に絞られたんだよ!?」
「人間である俺が戦乙女に言うのは違うかもだが、お前は『戦い』と『神の奇跡』を舐めてんのか」
「うぅ……。昔、フレイア様に同じ事を言われたよ。知ってる……? フレイア様ってさ、『生と死』とか『愛情と戦い』を司る神様なんだよ?――そんなお方の本気の説教を受けたんだから、もう許してよぉっ!」
カーラはフレイア様に怒られた時を思い出したのか、涙目で震え出し寮内へ逃げ帰った。
なんていうかさ、戦乙女の採用にも面接とか適性検査とかなかったの?
せめて研修とかしないと、人の命がかかってる訳じゃん?
「マリエ……。せめて君の今後は、幸運に恵まれますように」
そんなたかが一人の人間が考えても意味が無い事を考えながら、俺は熱心に祈り続けるマリエに心から同情し――手を合わせて彼女が報われる事を祈った。
それから暫く、この世界の学問を学びつつ鍛錬を積む日々を繰り返し、いよいよ課外授業へと赴く日が来た。
「来てしまった……」
学園長も先日のニーナの一件があるからか、今回は学生だけで課外授業へ向かわせる事はなかった。
敵に攻められながらの城壁修復作業など、危険極まりない。
回復役であるプリーストと、救世主の可能性がある『企業戦士』のみで派剣するのは危険だと理解しているのだろう。
もしかしたらカーラも、俺がマリエの過去の件で責めた事によって『せめてもの罪滅ぼしに』と多少なり学園長に掛け合ったのかもしれないが。
王都の治安維持や守衛に当たっている正規兵の中から、家庭や恋人を持たず、敵と戦い散っても後悔しない雄々しい者を募集した結果――なんと30名もの漢が名乗りをあげた。
「我らには護る人がいない!」
「故に! 国へ身を捧げ、24時間戦い、散る覚悟もできている!」
「うわぁ、暑苦しい……。なんか、24時間働きますみたいな社畜精神を感じるんだが」
「いいじゃないか。昔の暁みたいで親しみやすいでしょう?」
カーラの言葉に言い返せない。確かに、端から見たらこんな感じだったのかも……。
望んでいた訳ではないが、生前の俺も24時間働く覚悟――というより、借金と逃げ場のなさから、戦う道を選んでいたからな。
「皆さん、心強いです……っ。本当にありがとうございます、よろしく御願いします!」
心配そうに見守るハンネを後ろに引き連れたマリエが1人1人に感謝の言葉と握手をしている。
「……おい、24時間戦うって覚悟を決めた戦士達が、みんな骨抜きにされていくぞ」
家庭もなく仕事――戦闘訓練に明け暮れていると言うことは、女性にも免疫がないのだろう。
頬を染めながら、ニヤけそうになっている顔を必死に引き締めている。
「マリエは、あれだね。無自覚に男を骨抜きにしちゃう魔性の女タイプだね」
確かに、それは感じる。
マリエは神に仕えるプリーストとして廉潔で、常に正しく生きようとしてきただろうからな。
どういう事をすれば男の琴線に触れちゃうのか、理解していないんだろうなぁ。
本人としてはただ、協力をしてくれる方々に御礼をしたいだけなのだろうから。
「……あの子、恋愛レベルは1だな」
「まぁ、いいんじゃないかな? ちょっと骨抜きにされちゃったぐらいの方が、より献身的に戦ってくれるってもんでしょう!」
献身的で言いなりの奴隷か、社畜を養成してる気がするんですけど。
まぁ恋とか憧れの感情なら、プラスか。いいよな、うん。
「まぁ、それもそっか」
恋する者の為なら死すらいとわないってのも、なんだか狂気的だよなぁと思いつつ――俺達は馬車に乗り課外授業先である城砦の城壁修理へと向かった――。
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