ヴァルハラからの派遣社員は異世界でも働きます!
長久
第1話
「――ん……? なんだ、あれ……」
高さも
自分の目を疑い、思わず何度見かしてしまう。
そうせずにはいられない、目を疑う光景だ。
パーテンション同士の
驚くのは――翼だ。
彼女達の背には、天使のような翼が生えていた。
「……天使?」
しかもそんな
どう考えても、ここはオフィスだ。かなり特殊な制服だが、真剣に業務に
「ここは……? え、もしかして――営業中に居眠りをしてしまったのか?」
さっと血の気が引く。
俺はどこかの会社の応接用スペースにいるらしい。
居眠りなど許されない。
「パイプイス?……いつものオフィスと違う。……俺、どこかへ営業に来たんだっけ?……飛び込み?」
応接室ではなく、オフィスの一角にあるパーテンションに通されているという事は、アポイントメントを取ったわけでもないはずだ。
飛び込み営業で
お相手も忙しい中で急に場所と時間を確保してくれたんだ。
誰よりも『真剣かつ必死にあらねば失礼だ』と、姿勢を正すため身を起こすと――。
「――ああ、もう来てたの? ごめんごめん遅れちゃったよ」
俺がいるパーテーションで仕切られたスペース内へ、翼を生やした1人の女性が入ってきた。
そこに純白の翼だ。
あまりの美しさに思わず見とれてしまったが、直ぐに業務モードへと脳を切り替える。
「……え? あ、失礼しました。本日は貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。私は
営業職を続けるうちに染みついた呪いかも知れない。
「――ぷ……っ。何してるの? 君、もう死んだんだよ? ボクに名乗りなんていらないって」
「死……。はは、また何をおっしゃい――俺の身体、
手振りで突っ込みを入れようとすると――スーツの下にある自分の手が
嘘、何これ!?
「そう、
女性はどかりと音をたてながらパイプイスに座り、行儀悪く脚を組み、机に片肘を突いた。
……この人、無礼な人だなぁ。
第一印象が大事だって研修で習わなかったのか。いや、それよりも――。
「……戦士、剣士? ていやいや、何それ!――っつか俺、本当に死んだのか!?」
「そう、君は勇敢に戦い、死んだんだよ。ここは『ヴァルハラ』。勇敢に戦った戦士や剣士の魂のみが入ることを許される天上の地。――そして更なる強さと戦場を求める罪深い殺人者の皆さんを、お望み通り再び戦地へと派遣する『
「――……人材、派剣会社?」
「そう、派遣と剣をかけたらしいよ。……まあ、会社名は主神の趣味だからね。ちょっとボクとは感性も違うし、よく解らないけど。そして、ボクは派剣エージェント戦乙女のカーラ。貴方の担当エージェントだよ。さて、あなたの派剣先だけど――」
「待て待て!」
面倒くさそうにカーラが溜息をついた。
……なんだろう、この人の態度には凄く腹が立つ。
美人だから何をしても許されるって思ってそうだからか?
いや――人生を舐めてそうだからだな。
あと、人の話を聞く姿勢が出来てないからだ!
「何だい?――あ、報酬が知りたいのか。そんな焦らなくても、順番に教えるって。最大報酬はね、労働がなくホワイトに暮らせる『天界』に住む権利が与えられるんだよ。でもねぇ、そこに行き着くにはかなり――」
「そうじゃあなくてっ!――俺は戦士でも剣士でも、殺人者でもない!」
一瞬、カーラとか名乗った目の前の戦乙女がビシリと固まる。
――だが、『ああ、はいはい』と言いながら苦笑した。
「君、殺人者としての自分の経歴を恥じているタイプだね?……うん。いるね、そういう人も。でもね、いいんだよ。ヴァルハラは戦士の集い、かえって――」
「いや、本当に。俺は人なんて殺したこともないし、戦争した事もないって」
「……え? マジで?」
「マジで」
「……魂の履歴」
カーラは一言だけ言葉を発すると、履歴書のような紙が彼女の手に現れた。
「……ほら、職業欄に『
「『企業戦士』は兵士でも殺人者でもない。カーラさんのように企業で
「え」
「え?」
「……『
「それさ、
「……職務経歴に、『営業職として沢山の人をあやめる人にした』って」
「え、嘘? ちょっと見せてもらっていい?」
「うん、ほら、ここ」
「……これ、『なやめる人』って書いてあるじゃん」
「は?」
「……もしかして、日本語よく解らないのか?」
履歴書を持っていたカーラの手が次第に揺れていき――瞳から涙がぶわっと
「やばいやばいやばいって! 人も殺したことない最弱の魂を持って来ちゃったよ! こんな超特大アクシデントが上にバレちゃったら、ボクまた出世から遠のく事になるよッ! ねぇ、ボクどうしたらいい!?」
「いや、そんな事を部外者の俺に言われても――うおっ!?」
机を挟んで身を乗り出し、カーラが俺の肩をガッと掴んで揺する。
机がガタガタと音を鳴らして悲鳴をあげていた。
前のめりになった谷間が気になるのは許して!
まだギリギリ10代で可愛い思春期な俺の理性も悲鳴をあげてるの!
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