第25話
「なんで!? ボクが何したって言うの!?」
「普通に考えてよ――あんな『屈強な男』だらけ、『女に飢えた狼の群れ』にさ! 男への免疫がないピュアピュア清純清楚な性格で、恋愛レベル1っ! それなのに女性らしい体付きの子を放り込んだらどうなるか、わかんねぇかなっ? もうさ、あのOFF―JT――職場外研修はマリエにとって鬼畜の所業だと思うんだよっ!」
「――……゙え。もしかして、マリエ――襲われちゃったの?」
「嘘っ!? マリエ、男に穢されちゃったの!? 大丈夫!?」
カーラは顔から汗をダラダラ流し、ハンネは真っ青な顔でマリエの全身を見る。
「大丈夫だよ、ハンネ。――『富と女性の守護を司る神、エミュレッタ様』が護ってくれたの」
「誰それ!? あんだけ敬虔なフレイア様信徒だったのに!?」
天に祈りを捧げる幼女姿のマリエを見て、ハンネが愕然としている。
「ハンネ。私、改宗したの。――どう?」
「そんな『私、髪切ったの』みたいなノリで言わないで!? 聞いた事もない神様なんだけど!?」
「ふふ。血走った目で昼夜問わずにわらわら寄ってくる筋肉の塊、下心の塊達。――そんな怖い思いをしている時、ふとエミュレッタ様の声が聞こえたの。――『心の壁を創りなさい』って。おかげで私の純血は護られたのよ。……あぁ、ハンネの香り……柔らかさ。心地良い……」
変わり果てたマリエの姿にもはや言葉も出ないのか、ハンネは唖然としている。
瞬きすらしていない。……可哀想に。
「ねぇ!? どういう事なの!? ぼ、ボク、大切なフレイア様信者を改宗させちゃったんだけど!?」
「……まぁ、確かに。カーラが1クリック奇跡で創り出した信者が1人、消えたなぁ」
「1クリック詐欺みたいに言わないでくれるかな!?」
教室には、カーラとハンネの叫びが響いていた。
「誰なの『エミュレッタ様』って!? ウチは聞いた事もない神様なのに、確かにマリエから神の力を感じるのはなんで!?」
「……スゲぇな。――自分で神様を創造したのか。さすがは天才」
改めて学年主席の凄さを感じた。
さすがは1年生にして前線の正規兵より天啓レベルが高いだけの超逸材だったってことか。
――まぁ、危険極まりなく救いのない状況がそうさせたってのもあるか。
「24時間、昼夜問わずギラギラした屈強な男が助けを求めて寄ってきた結果――彼女は男が怖くなったらしい。必死にフレイア様へ祈りを捧げて助けを請うも、助けは無かった。……どこかの管理代行は願いを見てもいないだろ?――お前、ヴァルハラでこの世界の管理業務、引き継ぎしてこなかったな?」
「あ……」
今更ながら気が付いたらしい。
今現在、フレイア様に代わるこの世界の管理代行者のカーラは地上に降りていて、神への願いというメッセージは誰も見ない。対応できない。
「いつ飢えた男に襲われるかわからない不安、恐怖に怯えながら助けを求めるも、助けてくれない神様――。そして、いよいよ謎の『エミュレッタ様』とかいう謎の神様の名前を叫んだと思ったらさ、なんか幻想、重力、結界魔法とか色々使えるようになってたらしいんだよ」
「「「え」」」
カーラやハンネ、ニーナだけではない。居合わせた全員の愕然とした声がハモる。
「あの結界をくぐれるのは心を許した相手だけなんだってさ。……まぁ、俺も城壁守ったり戦ったりに夢中でさ。マリエがそんな事になってたなんて、帰る日に知ったんだけどさぁ……」
心から信じている者が助けてくれなかった時ほど――世の中の不条理を知り、人の絶望は増すということだよな。
生前の救いもない人生体験から、少しだけ気持ちが解る。
「あ、でもショタと百合が大好きらしいぞ。ちなみにさっきは視界に男が映ったから任意で魔法を発動したけど――」
重力に負けじとショタ同士が絡んでいる絵を懐から取り出すと――マリエが飛んできた。
「――あうちっ!」
同時にマリエを守る結界も近づいて来るわけで――俺は再び結界に弾き飛ばされ痺れた。
「ああ……っ! ショタ可愛い、半ズボン尊い……っ!」
「……この通り、普段は自動発動で――そもそも男は近づけなくなった」
「返して! 綺麗だったマリエを返してよぉおおおッ!」
「――ねぇ、どうしようどうしよう!? 本気でフレイア様に怒られるんだけど! ボク、もう皆の前でボロボロに説教されたくないよ!? あんなパワハラはもう嫌なんだよぉ!!」
「知るかボケっ! お前こそ、俺が好きだった綺麗でミステリアスなマリエを返せよ! あんな腐ったロリ、嫌だわッ!」
十人十色で、この場に居る誰1人として落ち着いていない。
個性強すぎだろ。
まぁ、これがカオスって奴だよなぁ。
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