第26話
「……なぁカーラ」
「何だよぉ!?」
「――お前さ、普段からこうやって優秀な人材を壊してない? 実はお前が人類破滅の手伝けをしてると思うんだよね。――っつか、いつもこういう失敗やらかしてるから、出世競争に負けて後輩に抜かれるんじゃねぇの!?」
「――……うぅわぁあああああッ!! 暁、君は言っちゃいけない事ぐらいわかってよぉおおおッ!? ボクだって頑張ってるのに、それでも空回りしちゃうんだから仕方ないじゃないかぁあああッ!」
カーラが俺の肩を掴み揺さぶろうとするも、ゴキリと鈍い音が響く。
重力まで付与された俺の身体が予想以上に重かったのか――カーラは腰を抑えて蹲った。
ぎっくり腰にでもなったか。
……あれって、持った物が予想と違う重さだとなりやすいらしいからなぁ。
そうして学年主席マリエは謎の神様の力を得て――とてつもない力を手に入れました。
「……ってかさ。今後の課外授業とか、俺どうすればいいの?」
俺の言葉に、腰を押さえ蹲っていたカーラの顔からブワッと冷や汗が出てきた。
「……課外授業というか、実技試験のノルマは大丈夫だよ。2回も成功してるしね。――でもね、テスト後は実際にパーティーを組んでの民間依頼冒険任務を達成する必修ノルマがあるんだけど……。パーティーを組むには、原則4人以上が必要なんだよねぇ」
「おい、既に2人ぶっ壊れてるんだけど!?」
「その1人って、もしかして私のことかしら!?」
口臭を気にしてか、窓から外に向けて叫ぶニーナ。
可哀想に……。どう見ても壊れてるだろう。
「大丈夫! 暁の〈ギフテック〉は『女性パーティーの強化』、誰もがパーティー入りを望むはずだよ!――さぁみんな、暁とパーティーを組める人はあと1人、これはチャンスだよ!」
カーラのチャンスを強調した言葉だが――みんなが目を逸らした。
そりゃあそうだろう。
実際の犠牲者2人の惨状を目の前で見ていて、立候補する訳がないじゃん。
「――どうすんだよ! 俺、成績が3位以下になったりノルマをこなせなかったら最前線送りなんだぞ!?」
「仕方がないじゃないか! 君が彼女達を護れなかったのも悪い! 全部ボクのせいにするのは間違いだよ!」
「てめえ、責任転嫁しやがったな!? 内容も知らない課外授業を持って来たのもカーラだろうが、人のせいにすんな! 俺は一生懸命やったわ!」
俺達が這いずりながら掴み合いの言い争いをしていると――ハンネがおずおずと手を上げた。
「……その冒険任務って、マリエが行くのは確定なんですか?」
「そうだよ。もう暁とのパーティーメンバーに登録してあるし。ニーナもだけどね」
おい。初めて聞いたぞ。
嫌なんですが。
身体中からシュールストレミングの臭いがして、状態デコイで敵を誘き寄せる盾職のニーナ。
更にはプリーストなのに近寄ることすらできない――もはやプリーストなのか魔法使いなのかすらもよく分からない謎の人物マリエ。
そんな2人と冒険とか、無事に帰ってこれる気がしない。
安全第一はどうした。
……労災適用になるんだろうな?
「マリエは……ウチと同じ修道院の出身です。暁さんと行動を共にとか、カーラ教官の指示は本気のマジで不安ですが……。ウチもマリエを助けるために参加します。力は弱いながらに、ウチもプリーストだから簡単な回復ぐらいはできますし」
「俺が言うのも難だけど、人のために自分を犠牲にするのはどうかと思うぞ?」
「暁、あんたは黙ってて!……確か、ハンネさんの成績は中の上だけど、その心意気は立派だね! よし、決定だよ! 内定、もう辞退はできないからね!」
こいつ、自分の保身の為に人の人生をめちゃくちゃにする気満々じゃあねぇか。
本当、こんな奴が出世して上司にならなくて良かったな、派剣会社ヴァルハラの皆さん。
ショタ同士が絡み合っている絵を見て興奮しているマリエを、ニーナは不安そうな瞳でかなり遠くから見つめている。
近づくと臭いで迷惑をかけるから、気を遣っているんだろうな。
「優しいのにぼっちになったから、他にパーティーが組めない可哀想なニーナ。そして天才から変態に変体したマリエ。そのマリエを見捨てられない、ハンネ。これが俺のパーティーメンバーか。――人同士の絆を素材に使った、裏切れない鎖。……ブラックだわぁ」
俺はそんな事を考えながら、出だし最悪、先行きの見えない自分の派剣人生を嘆いた――。
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