第27話
「カーラ君、不破暁っ! 君は、君達は貴重で優秀な生徒を2人も壊して……ああ、頭が痛い……っ」
「「すいません」」
「大丈夫ですか、学園長。どうぞ、氷です。……こんなお加減でいかがでしょう」
「ああ、ありがとう。……頭がすっきりして気持ち良い」
それから俺達は学園長室に呼び出され、学園長から優秀な人材をめちゃくちゃにした事に対して叱責を受けていた。
90度のお辞儀で学園長に頭を下げるのが俺とカーラ。そしてぶち切れ過ぎて頭痛に悩まされているのが学園長。氷魔法と風魔法の混合で学園長の頭に冷風をかけているのが秘書さんだ。
「……ねぇ、頭上げちゃダメだよ。笑っちゃ絶対ダメだからね」
「解ってる。……カツラって、冷風で靡かせたらあんなに解りやすいんだな」
「だから、止めてって……っ」
カーラが笑いを耐えきれないとばかりに肩を振るわせていた。
俺だって必死だよ。っつかあの秘書も解ってやってるだろ、ふざけんな。
ちょっとずつカツラがズレてきてるんだよ。
カツラの毛髪、黒くてふさふさしすぎだろ。
もうちょっと年齢相応の色と量にすればわかりにくいものを……。
90度にお辞儀しているのは謝罪の意もあるが、何より学園長の頭を直視しないようにだ。
「――何を笑っているのかね!?」
「「すんません!」」
「我が国は魔神軍に包囲され、他国との協力まで断たれているというのに……。未来の優秀な兵士をめちゃくちゃにしてくれて……。ああ、上にどう説明すれば……」
学園長が頭を抱えている。
あくまで練兵学園の長ってだけだもんなぁ。
上には取締役とか専務――国王や宰相みたいなのもいるよな。
当然、貴重で有望な兵士候補を壊した責は問われる訳で……。
中間管理職って、本当に大変だよな。
「……なぁ、なんか学園長が気の毒なんだけどさ、お前また洗脳とか使って何とかできないの? 確か、ここの教員になるときに洗脳を使ったって言ってただろ?」
「……そんなの、この世界に降りてくる時に使って終わりだよ。ヴァルハラに1回戻ればできるだろうけど、内部からは無理だね」
「それなら1回、ヴァルハラに戻ればいいじゃん?」
「はぁ!? そんな事したらヘル様とフレイア様にダブるで怒られるじゃん!? 管理代行の引き継ぎもしてなかったから、ほぼ間違いなく殺されるし、絶対帰りたくないよ!」
「全部、自業自得だろ」
「だいたい、君が魔神を倒すまでは戻れないよ。本来、ボク達は降りてこれないんだから。今回は特別に責任――許可を貰って奇跡を得ただけなんだからさ」
「……お前、上司に戦士でもない魂を戦場に送った責任とってこいって言われたんだろ」
「記憶にございません」
「都合のいい政治家みたいな事をいうな」
「黙秘します」
この戦乙女、最悪だ。だれだよコイツを採用した奴。
「――小声で何を喋っているんだ! 君達は事の重大さを本当に理解しているのか!」
「「すいません」」
「全く……いたたっ。頭が……。とにかく、不破暁君は以前言ったように実技……はクリアか。筆記試験で学年3位以内を取れなければ即、最前線送り!――カーラ教官も監督責任として、不破暁君が3位以内に入れなければともに最前線送りだ!」
「えぇ!? ボクも!?」
「当然だろう! 君が課外授業場所の指定をしたのだから、引責だ!」
「そんな、ボクこの世界で死んだら終わりなんだけど! 赤ちゃんからやり直しだし、多分もうヴァルハラで再雇用してもらえないんだけど!」
「何を訳の分からない事を……っ。死んだら皆一緒だ! 勇敢に戦い、戦士の楽園ヴァルハラに迎えられるのは名誉だ! 御国の為に動け!」
「何が戦士の名誉で楽園ですか!? ボク達はまだ働ける人を有効活用してるだけですよ!」
「貴様、戦士の名誉を侮辱するか! とにかく、この決定は絶対だ! 君たちと話しているとストレスで抜け――頭が痛くなる。もう出て行けッ!」
学園長はストレスで後退している頭髪前線を曝け出しながら、俺達2人を学園長室から追い出した。
「うわぁあああんっ! こんなの、こんなのあんまりだよ! ブラック学園だぁッ! こんな職務条件、契約書に書いて無いのに横暴だぁあああッ!」
「はぁ……」
学園長室を出るなりカーラはワンワン泣きだして、俺は逆に冷静になった。
隣にギャン泣きしている奴がいるとさ、自分はかえって冷静になるんだよね。
だいたいよく考えれば俺の条件は変わってない。
当初の予定通り、成績3位以内でなければ最前線送りだ。
そこに妙な戦乙女が1名追加されただけだ。
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