第28話
「そんなブラックな学園にさ、実戦未経験の俺を放り出した張本人が横暴とか言うなよ……。カーラが俺にした事ってさ、例えるなら営業しかした事も無い人材に、明日から介護現場で働けって人事異動強要したようなもんだぞ? 研修もなしにさ。――普通なら、離職してるよ?」
「うぅ……っ。暁までボクを責めないでよ―ッ!」
カーラは泣きながらどこかへ走り去っていってしまった。
言い過ぎたかな。まぁ、自業自得だよな……。
俺はとにかく、頑張るしかない――。
――改めて学園長から最前線送り(カーラ付属で)を告げられた日から約1週間が経過した。
「――畜生ダメだッ……!」
俺は寮の自室にて、蝋燭の光が揺れる机に肘を付き頭を抱えていた。
「ああ、頭から離れない……ッ。もうダメだ、耐えられん……っ」
既に時刻は夜中、ここ数日は殆ど眠れていない。
考えれば考えるほど、答えは出ない。
「やっぱり、行くしかない……。俺には、どうしてもあいつが必要だ!」
夜中だろうと関係ない。
朝でも昼でも夜でも、時間は俺の葛藤や苦しみに関係なく流れていく。
時間が待ってくれないのと同様に、俺だってもう一時も待てないんだ。
「――マリエ、マリエ、マリエ……ッ」
血走った目をしている自覚はある。
俺は誰にも見つからないように真夜中の女子寮――、それもマリエの部屋に忍び込む為に自室を出た。
当然、男子が夜の女子寮に入り込む事は禁止だ。
――だが、そんなものはなんの障害にもならない。
俺はマリエに会いに行くんだ!
頭にはもう、マリエの事しかない!
ここ数日、徹夜で考え抜いたが故の行動だ。
俺の〈ギフテック〉『過労耐性』のお陰か、連日の徹夜にも関わらず身体は絶好調だ。
邪魔が入ろうと、想いの前には関係ない。
だが、一応誰にも見つからないようにと迷彩服に身を包んでいる。
「――待っていてくれよ、マリエ……っ」
周回する警備員に見つからないよう音も無く庭を匍匐前進し――予め知り得ていたマリエの部屋へ向かう。
幸いな事に、1年生の部屋は1階だ。
2年、3年と学年が上がる毎に階数も上がるらしい。
通常ならばマリエの部屋を見つけるのは容易ではない。
男女比率が同じだとして、退学や留年などがないとすれば――75分の1の確率だ。
だが、マリエの部屋は下調べ済みだ。
勘違いが起きないよう、念のためだが――自主的に調べたわけではない。
なんせ、噂になっているからな。嫌でも耳に入ってくるんだ。
窓にショタやロリが絡みつくような絵が貼ってあり、折角の窓なのに外の景色が全く見えない。
そして、外からも中に誰がいて何をしているかが全く見えないと。
陽光が差せば薄く絡みつくショタ達が見えるらしく、ある意味で天候を知る指標らしい。
「――あった」
窓一面が紙で覆い尽くされている部屋。
俺は静かにその窓に近づく。
「――まずは粘着テープを貼って、破片が飛び散らないように。……よし、あとは静かに鍵の部分を壊せば――……。開いたぜぇ……っ」
何処かの泥棒が行う技のように、音も無く窓を開けることに成功した。
静かに鍵を外した窓を空け、中へ入ると――。
「いた……っ。マリエ、マリエ……っ」
中央に置かれたベッドの上で寝転ぶマリエの姿が目に入る。
抱いているのは、手作りのショタ人形だろうか?
半ズボンを履いた無垢な男の子のぬいぐるみだ。
ベッドには他にも可愛い洋服を着た幼い女の子のぬいぐるみなどもある。
机の上には自作したのか、百合や幼い男同士が無邪気に絡み合う本が大量にある。
ショタもロリも――どことなく俺やハンネ、ニーナなどクラスメイト達の面影がある。
オリジナルというより二次創作ってやつか。
「――……っ」
俺は思い違いをしていた。
この部屋の内装、壁紙そのものが――ロリとショタの楽園なのだ。
ベッドの位置や机も含めて、ロリやショタが居るのが当然、むしろ一体感を出している。
海の中に珊瑚礁があり、イソギンチャクやクマノミといった小魚が居ることを疑問に思い不快に思うだろうか?
いや、それらは違和感なく一体感のある芸術だ。
それと同じ――全く違和感がない。ここにロリやショタがいるのは当然と思わせる不思議な世界を――マリエは創造していた。
末恐ろしい。これは――狂気的な芸術だ。
普段なら、この光景に突っ込みの1つでも入れただろう。
だが、今の俺にとってそれは些末な事だ。どうでもいいとすら言える。
マリエに一刻も早く会いたかった俺としては、喜びでもう衝動が抑えきれない。
「マリエッ!――うお……っ!?」
マリエを起こそうと近づくと、結界が自動で発動した。
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