第56話

「だって、報告しようにも伝書鳩に書ける文字数とかあるじゃん! それに情報流出のリスク管理とかで暗喩だの比喩だのを使えって、注文が多いうえに難しいのよ!」

「それをやりきるのが密偵の仕事だろうが!?」


 ハンネとシムラクルムが言い争いをしている間に、俺はマリエの瞳を真剣に見つめる。

 グレーの瞳、見る角度によってはブルーやグリーンも混じって見える――吸い込まれそうな神秘的な瞳と見つめ合う。


「――わかりました」


 アイコンタクトだ。

 きちんと俺の意図が伝わったらしく、マリエは深く頷いている。


「――ふっ」


 暗喩だの比喩だのと……小さい争いだ。

 俺とマリエは、目だけでわかり合える仲間、チームだ。

 絆があれば、目だけで簡単なコミュニケーションは十分でき――。


「読心魔法を覚えておいて良かったです!」

「――男の夢を壊すなよっ!」


 とにかく、意思伝達ができた俺達は、それぞれ目的を成すべく行動に移った――。


「エミュレッタ様……っ。その尊き御力を私に、導きと『せい』なる護りをここへ――結界魔法っ! ハンネとカーラ教官は私の結界内から炎魔法と支援魔法を! ニーナはそのまま、豚さんの幹部を機動力と盾で追い込んでいってください!――これが暁さんの意思ですのでっ!」


 周囲の空気毎取り込んだ大きな結界の中から、マリエが呼びかけた。


「解ったわ!」

「え、暁の……? ん、解った。ボク、本当にいるかな……? ねぇ、要らない子じゃないよね?」

「機動力で追い込むのね! 解ったわ!」

「――くっ、そんなに動き回られると臭いが拡散して……。何なのだ、貴様のその悪臭は――」

「みんなして私の事を臭い臭いって……っ。――いい加減にしなさいよ!――私だって、傷つくのよ……っ」


 乱されるな。

 ちょっとニーナをヨシヨシとしてあげたくなったが、俺は俺に求められることを成せ。


「――凄いよ、異常な力の発現をニーナから感じたから、ちょっと鑑定して見たんだけど――」

「え、なんですか教官!? 私に新たな力が?……そう言えば、さっきより圧倒してる感じが――」

「――新たな〈ギフテック〉、『哀愁漂う者』を獲得してるよ! ボク、こんな能力初めてみたけど、ものすっごい強力だよ! 範囲内にいる相手の能力全般と意識レベルを凄く下げるんだって!」

「なぁんだとぉおおおおおお!? 哀愁と悪臭が漂うをかけたとでも言うのかっ。臭いだけでなく、親父ギャグだと……、何処までも馬鹿にしてくれるな神々めが……っ」

「――私もう、嫌……っ。なんで私ばっかりこんな目にあうの……?」


 突っ込みを入れたい発言の数々なんか気にするな――。

 目を閉じて集中しろ。

 気配を消せ。

 己の精神を研ぎ澄ませ。

 呼吸を整えろ。

 余分な力は一切入れるな。

 大丈夫、対象がいつここに来るかは解る。

 なにせ――。


「――……シっ」


 カッと眼を開き――抜刀。

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