第18話
「――ニーナ、お帰りなさ……っ」
教室に戻ると、まず仲が良く一番心配してくれて駆け寄った子が1人嘔吐し、その後は距離が近い人から順々に鼻を押さえ蹲っていった。
最後はニーナに憧れつけ回していたファンまで地に伏した。
「距離が近い順に消えていくとか、流行期のインフルエンザかよ……」
ニーナの臭いはたちまち学園中の話題となり、傷ついたニーナは暫く風呂の中で歯を磨き続けたという。
――砦にいた時よりいくらかはマシになったが、それでも臭いは完全に取れなかった。
「――さて、ちょっとだけトラブルがあったから、ニーナは窓際の席で隔離――景色が良い席に移って貰うとして、次の課外授業は主席のマリエだね! 元気出していこうね!」
「わ、私……ですか!? そ、そうですよね」
かなりビビってる。
そりゃあそうだろう。
勇ましく、みんなから頼られていたニーナが今や――窓際族だ。
「……マリエ。貴方は主席として――フレイア様に身を捧げたプリーストとして、苦難を避けるの? 苦難を乗り越え、成長することにやり甲斐を感じない? フレイア様は逃げるマリエを望んでいるのかな?」
「確かに、フレイア様の御意志……解りました! そう考えると、苦難であればある程にやり甲斐があります!――私、頑張ります!」
「……なあ、これってやり甲斐搾取だよな? そのやり方、もと営業職の俺が言うのも難だけど、汚いと思うぞ? 完全にブラックの手法だからな」
俺の突っ込みを聞かなかった事にしたのか、カーラは優しく微笑みながらマリエの頬に優しく手を添えた。
「――安心して。貴方の清き行いは必ずフレイア様が見ているよ。今度の課外授業は、先日『敵の襲撃を受けた城塞の城壁修理』だよ。そこはね、この国を南に行った所にあるんだ。温かくて厚着なんか要らないって噂だよね。そこってちょっと前までは他国と国交をしていた拠点だから、他国も安全性と堅牢さを注視している場所だよ。不定期に敵の襲撃を受けるせいで修復の進捗が悪いみたいで、他国との国交再開も進まないらしい。城壁ってさ、レンガで出来ているから材料も運搬しないとね。あと、これが大切で最後だけど――マリエには無理に敵と戦えなんて言わないよ。味方が城壁を直しながら戦ってるから、治療してあげて」
こいつ、スゲぇ。
安全な後方衛生兵任務と言いつつ、言葉の中には敵と交戦するリスクも交えて説明している。
長い話だと、人は注意散漫になって本来重要な事を聞き流しやすくなる。
興味惹かれない長話で注意散漫になった時に『これが最後』とか『大切な』と強調して言えば、その先の言葉に注意が向いて心に残りやすくなる。
……本当に詐欺師に向いてるんじゃないかな。
「解りました! わ、私なんかでお役に立てるなら……っ」
「マリエ、本当にいいの? ウチ、心配なんだけど……」
「ハンネ、いいの。心配してくれてありがとう」
黒髪ロングヘアーのハンネさんがマリエを心配し寄り添った。
確か祈祷隊にもいた気がするプリーストがマリエを心配して声をかけている。
ハンネさん、貴方のお友達は詐欺師かぼったくり占い師に捕まりそうですよ。
「マリエが言うなら……。絶対、無事に帰ってきてね?」
「うん、大丈夫!……救世主の暁さんもついてるし」
「だからこそ、何て言うか……」
おっと、ハンネさんは俺に何か言いたげですね。
解ってますよ、この人は救世主なんかじゃないって思ってるんですよね。
そうです、貴方は間違ってない。
俺には武力なんてない。天職ただの『企業戦士』ですから。どこで活きるんだこの天職。
まぁ、そんな事言って1人で業務外研修に行かされる展開にでもなったらたまらない。
ノルマ果たす前に死んじゃって、次の世界に派剣されちゃいそうだから黙ってますけどね。
「信じる者は救われる。この教えを私は護りたいの」
「……そっか。わかったよ」
「認めちゃうのかよ」
思わず突っ込んでしまった。
俺はカーラを教室の隅まで連れていく。
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