第19話
「強引だね。何、こんな隅で内緒話? ごめんだけど、パートナーは正社員が良いんだよね。派遣社員はちょっと……」
「うるせぇ、ちげぇよ。それに、自分が選べる立場だと自惚れるな?……って、違う。信心深いあの子に聞かれたくない内容なんだよ。――なぁ、フレイア様って神はさ、本当にあの子の清き行いを見てるのか?」
「はぁ? 見てるわけ無いでしょ。あんたの世界でもだけど、フレイア様が神として崇められてる世界がどれだけあって、どれだけフレイア様を崇める人が多いと思ってるのかな?」
あっさりと自分の嘘を認めやがった。
さっき『貴方の清き行いは必ずフレイア様がみている』って言ったばっかりなのに!
「お前、さすがに善良な優しい人を解ってて騙すのはどうかと思うぞ!?」
「ブラック企業勤務時代に多くの人を詐欺まがいで騙してきた暁に言われるのは予想外だね」
「う……。詐欺まがいとは知らなかったし。考える余裕無くなるぐらいこき使われたとはいえ、マニュアルに盲目的に従ってたのは俺も反省してるけど……っ」
痛いところを突いて来やがる。
「まぁ、でも今回もグレーだよ。ボクの瞳や報告書、天啓レベルを通して、間接的に行いは伝わるからね。この世界の誕生にフレイア様が関わっているのは間違いない。だからこそ、フレイア様を崇める信徒がいるんだしね。この世界で産まれた生き物全てには、なんらかの神様の加護がある。その加護を高めて、『神に近づいて自立し、平和な世界を維持してね』ってのが天啓レベルなんだよ」
「そんな事、初めて聞いたんだけど。……ねぇ、なんで元の世界の社会もお前等もさ、重要事項を事前に説明しないんだよ。実際に勤務してみないと実情は解らないとか、人生を賭けたギャンブルじゃん?」
「全てを馬鹿正直に開示する義務も時間もないからだよ。話を戻すけど――、沢山の世界で崇められる神様達は、全員の行いや世界を見ている程に時間の余裕はないんだよ。でも、自分への信仰が即ち『神の力』となるから信徒は大切なんだ。滅亡されて失いたくはない。――だからこそ、ヴァルハラみたく邪神や魔神から世界を護る為の派剣会社が創業されたんだよ」
「いや、そりゃ信徒を護る人手不足を補うって意味なら解るけど……。でも、マリエさんの敬虔さが伝わらないのは可哀想じゃねぇか?」
「その為にいるのが、各世界を管理代行する戦乙女だよ。大丈夫、ボクの目を通したり、フレイア様を信仰しながら天啓レベルが大きく上昇すれば、あの子の行いは全てフレイア様へ自動的に伝わるから!」
「……つまり、カーラの業務は派剣だけじゃなくて世界の監視と管理業務全般にわたると。そして管理している世界で特に功績をあげた者は、管理代行が報告書とかを書かなくても、天啓レベルってシステムでその神へ直接伝達されるってこと?」
「そうだよ。神への願いってボク達のオフィスに『お問い合わせ』として届くし、神の力を借りた軽い奇跡だとかを起こす権限はボク達にある。……まぁ超常の神々の力を借りれば、人間から見た軽い奇跡なんてもん、ヴァルハラのオフィスからカチッと1クリックするだけで出来ちゃうんだけどさ」
そんなパソコンゲームの攻撃感覚で超常現象を起こしてんじゃねぇよ。
「起きた事を報告書に纏めたり、神の目ってボク達と繋がってるからさぁ。書類って本当に要るのかなぁって疑問に思うけどね。緊急案件とかはインカムで神界まで伝えるし、特別対処して貰うこともあるしさ。――どう、面倒な事でも真面目にやってたボクって、結構働き者で偉いでしょ?」
「成る程な。システムが有能でも管理者は無能だったから、この世界はここまで魔神軍に押された訳か」
「君さ、言って良い事実と悪い事実があるの知らないのかな!?」
カーラは涙目で胸ぐらを掴み、俺を前後に揺すってくる。
「でも事実だろうが! お前、この世界で犠牲になった魂に謝れよ!? あと、お前の課した無茶な課外授業で消えない臭い……ってか、心に消えない傷を負ったニーナにも謝れよな!」
『ぐぬぬ』と呻りだしたカーラは教室の隅で蹲り、壁にもたれた。
多少は罪の自覚があるようだ。
カーラはそのままに、俺はマリエの前に戻る。
この時の俺の表情は、少し戸惑った表情をしていたと思う。
「――マリエ。君の信仰心は立派だと思うけど、危険な事に変わりは無いよ? 本当にいいのか?」
「いいんです! これもフレイア様のお導きです。私は、お導きの中で精一杯頑張ります!」
だがマリエの意思は既に決まっているようで、意見を変える事は無かった。
「……そっか。でも、俺は君に死んで欲しくない。だから今回もし魔神軍が来たら……さ。雑魚なりに俺が戦うから、君は安全な城内で待ってて欲しい。それで傷ついた人を癒やせば、充分にフレイア様も認めてくれると思うから――」
「……暁さんは、お優しいんですね。解りました! 私は私のできる所で全力を尽くします!」
俺の手をキュッと握りながら、マリエはぺこりと深く頭を下げた。
……言えないなぁ、こんな良い子に、『実はフレイア様に詳細な報告が行くかは、戦乙女が見ているか、報告書を書いてくれるか次第』だなんて――。
ってかさ、今はカーラが地上に降りてきてんじゃん。
この世界の管理とか監視は――誰かに引き継いできてんだろうな?
疑問に思うが、壁に向かって『どうせ私なんて』とか呟いてるカーラに聞ける雰囲気ではなかった――。
――その晩、自主トレーニングという名のサービス残業を終えた俺は、もしかしたらと思い学園内にある聖刻が刻まれた教会にやってきた。
そこで、1人でも一心不乱に祈り続けるマリエを見つけてしまった
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