第50話
「女女女ってうるせぇんだよ男ッ! 豚ッ!」
「な、救世主……きさま!?」
「そいつにはハンネっていう立派な名前があんだよ!――ハンネッ、名前も覚えてねぇコイツが口約束なんか守る訳がねぇ! 社員を大切にしない上司より、友達を大切にしろ!」
「でも、でも……っ。私には夫とローンが……っ」
「そんなもん、こいつをここで消せば良いんだよ! 録音も録画データもねぇんだ。発覚も流出もさせない! こいつとの契約を守ったフリを続けていればいい!――協力してくれるよな、こいつに酷い目に遭わされ続けてきた研究員のみなさんっ!?」
俺は目の下に隈を作った――恐らくキメラさんやハンネのような境遇であろう側近研究員達へと目を向けた。
「……私達は、何もみていません」
「例えここで何か起きても、それは局長の管理不足です」
「――ききき、貴様等っ!?」
信じられない者を見る目でシムラクルムが目を剥いている。
先程まで繰り広げていた俺とキメラさんによる『労働者の権利』について聞いていたことも奏効したんだろう。
あとは、自分もいつかキメラさんのようにされるかもと日夜怯えていたんだろうな。
労働契約はしても、奴隷契約をした記憶なんて無いはずなのに。
研究員達はハッキリと、俺に協力してくれると意思表示をしてくれた。
「契約で縛り付けようとしたってなぁ、社員の心がついてこなきゃ無意味なんだよ!――ハンネ、やっちまえ!」
「――う、ぅわぁあああああッ!」
ハンネは持っていたナイフを――シムラクルムへ投げつけた。
怒りと混乱のせいか――ナイフを勢いよく振りかぶった時にカーラの薄皮を切り裂きつつ、ナイフはシムラクルム目がけ飛んでいく。
「――くっ。幹部の力、舐めるでないわぁッ!」
シムラクルムは投げられたナイフを機敏に避けた。
研究担当とは言え、さすがは魔神軍幹部といったところか。
「――よし、よく決断したな。――偉いぞハンネ!」
「暁……っ。ウチ、あんたを、皆をずっと騙して……っ。騙してて御免ね……っ」
「ねぇ、危うくボクも死ぬところだったんだけど!? ちょっと血が出てるんだけど!」
「く……っ! 裏切り者の一族は子孫も所詮裏切り者という事かっ。遺伝子は正直だな。貴様なぞはもう要らん!――おいっ! 貴様の子孫がしでかしたことだ、始末をつけろ!」
シムラクルムは、無理な姿勢で避けた拍子に腰を抜かしたのか――座りながらキメラさんへ顔を向けて命令し、ポケットから変な装置を取り出した。
そして培養液が怪しげに光ったかと思うと――。
「うぁあああああ……ッ!」
「――え?」
キメラさんが苦しみだした。
いや、シムラクルムはキメラを産み出した張本人だ。
その命令に抗おうとして苦しんでいるのは理解出来る。
だが、唯一理解できないのが――。
「貴様の子孫……って。ハンネは、キメラさんの子孫……っ?」
「ぇ……、え……?」
ハンネも理解出来ないようだった。
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