第38話

「ってそうじゃなくてな、嫌らしい意味じゃ無くって――大切な仲間で、苦難を分かちあう可愛さって事だ!」

「あ、ああ! 成る程、同志で絆を同じくする可愛さって事ですか! 確かに、嫌らしセンサーに今の言葉は反応しなかったです! 勘違いしてしまい、すいません!」

「そうそう!」


 顔を真っ赤にさせながら紅潮している姿をみると、どうしてこうも『恋愛クソ雑魚』状態のまま拗らせてしまったのだろうという気分になってくる。

 二次創作ばかりで腐ったマリエの芸術部屋を見ているから余計にそう思う。

 本の内容まで読んでないが、絡みつくシーンがあったのに。自分の事になると耐性ないのか。

 ってか嫌らしセンサーって何?


「そうですよね、よく考えたら私『読心魔法』を覚えたから、目が合った男の人の思考の表層を読めるようになっているのに……。勘違いなんて恥ずかしいです」

「ねぇちょっと待って。読心魔法使えるとか初めて聞いたんだけど」


 この子さ、プリーストだよね?

 回復魔法の『キュア』は解るよ。でも結界、重力、読心魔法まで使えるとか……。

 何者を目指してるの?

 もしかしてさっき言ってた『嫌らしい目を向けて来なかった』って言葉――胸とかそういう部分へ視線を向けてるか観察するとかじゃなくて、俺の目を見て深層心理を読み取ってたの?

 こわっ。


「いやぁ、ビックリしました……。てっきり、私が幼い男の子に向ける感情と同じかと思って……」

「ごめん、それと一緒にはしないで。下心の方がまだいいわ」


 俺はマリエがショタに向ける感情は――性犯罪者とほぼ同等だと思ってる。


「と、とりあえず……。暁さんは私を襲ったりしないで、むしろ護ってくれる……って事ですよね?」

「ああ、俺は――それが仕事だからね」


 そもそも、派剣エージェント――ヴァルハラからの任務はこの世界を滅亡から護る』ことだ。

 見返りの詳細は担当の説明がいい加減だったからよく覚えていないけど、地獄行きは避けられるようになる形だった気がする。

 そして、もし俺がこの世界で死んでも――俺は別世界の戦場に派剣されるだけだろう。

 あるいは、やはり戦士の魂ではなかったと元の予定通り地獄行きだ。

 どうせ俺は1度死んでいて、本来なら今頃地獄にいるんだ。

 今こそがイレギュラーなのだ。

 それなら――。


「――俺は、死んでも君を護るよ」

「――……っ」


 マリエは目を丸くして――頬を紅潮させたロリッ子姿に変身した。

 男に免疫もない彼女だ。

 そして俺の背景も知らないから――ロマンチックな口説き文句と勘違いしたのかもしれない。

 命にかえても君を護る、と。


「あ、いや今のは――」

「す、すいません、変身して逃げて! あの、でも、わ……っ。――お、お休みなさい!」


 慌てながらマリエはテントへと戻っていった。

 勘違いされたよなぁとか思っていると――ニュッとテントから顔を覗かせたカーラがすっげぇウザい表情をしている。口パクで『あらあら、お熱いですねぇ』と人をおちょくってきている。

 そんなカーラの姿をみた俺は――。


「――おっと」


 俺は偶々拾ってしまった木の実を、最速のアンダースローで放った。


「――ふがっ……」


 そして偶然にも、木の実が飛んだ先にあったカーラの顔に当たってしまった。


「まさか、テントにいるはずのカーラの顔がそんな場所にあるなんて思いもしなかった」


 偶々、誰も予想できない偶然で、人を小馬鹿にする者の顔に当たってしまった。

 意図せずイジメ根絶に力を尽くしてしまった。

 昔、少年野球では珍しいアンダースロー投手としての経験が成した偶然か。


「目的地は目と鼻の先だ。明日には着くだろうし――見張りと警戒、頑張るか」


 俺は練習用の重い木剣を手に取り、左右の腰に下げた剣はそのままに。

 居合いの型稽古と体捌きの練習を始めた――。

 慣れない西洋剣と刀身の長さ、重さ。

 全てを合わせた木剣での練習だ。

 コツを掴むのも一苦労だった。足裁きをしている途中、カーラらしき顔に足が当たった気がするが。まあ、まさかテントから身を乗り出した人が大地に横たわっているなんて想定も出来ないし、前世で言えば、黒ずくめの服を着た酔っ払いが車道に寝ているぐらい予測も出来ない事故だから仕方が無い――。

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