ヴァルハラからの派遣社員は異世界でも働きます！

第42話

「ニーナ、カーラを囮に使っちまえ！　そいつに群がってる所を一網打尽だ！」

「――な、なんて事をいうのかな、君は……っ！」

「暁、さすがに私もそれは……っ。――それはクズの発言だと思うわ！」

　うるせぇ。いい加減に自覚してきたよ。

　この世界に来てから、どんどん性格が歪んでいく事にさ。

「朱に交われば赤くなるって奴だよ！　俺の性格が歪んだのもカーラのせいだ！」

「ボクのせいにしないでよ!?　清く正しい私が何をしたって言うんだ!?」

　カーラは胸に手を当てて、自分のこれまでの行いをしっかり思い出せ。

　直前の出来事でもいい、思い出せ！

「――暁さん、毒が癒えました！」

「傷も大丈夫っ！――ほら、行くのよ！」

　弓矢とか(主に結界で)で負った傷の治癒が終わったらしい。

「――よし！」

　足踏みしても、膝を曲げても痛くない！

「一先ず、全員集合だ、もう一度隊列を整えるぞ！」

「どうやって集合するの!?」

「それぞれの得意な方法でだニーナ、カーラを連れて来てくれ。毎朝特訓してきたお前の得意技――信じてるぞ！」

「――……わかったわ！」

　そう、ここ最近毎朝特訓していて互いの得意とする技や範囲は解った。

　ニーナは、盾とランスでの直進方向へ突き進む力が以上に強い。

　きっとと伝わっている。――ニーナは、必ず突き進んで来てくれる。荷物を抱えていても！

「――俺達は」

　そこでマリエの瞳を見つめる。

　男嫌いのマリエは一瞬びくりと震えたが――

「あ……。わかりましたっ」

「え、何？」

　読心魔法を使えるニーナは、俺の思考を読める。

　何が何だか解っていないハンネには悪いが――。

　俺はマリエとハンネから後方、坑道の奥へさがって――叫ぶ！

「いけぇえええ！」

「はぁあああああッ！」

「ぶぇえええええっ……っ。身体が、臭……っ」

　遠くから金属や鈍い物が弾き飛ばされる音と共に

「――ハンネ、走るから付いてきて！」

「え、あ……うん！」

　マリエはハンネの手を引きながらニーナやカーラの声がした方に向かい走り出す。

「グェエ……っ」

「グギャ……ッ」

　結界に弾かれ、ゴブリン達は弾き飛ばされるか壁に押しつけられ、窒息している。

　そんな中、毒々しいスライムを両腕に持ち――マリエの結界内に投げ入れようと走っているゴブリンを見つけた。

「――させねぇよ……ッ！」

　俺は殺気を放ちながら、『男と物理、魔法攻撃を防御する結界』内にいる２人への攻撃を阻止するべく――左腰に下げた剣へ手を伸ばす。

「――そ、その輝かしい剣は……」

　ハンネが後ろを――俺を見ながら、驚愕の声をあげる。

「――マリエの討ち漏らしは、俺が始末する……」

　あまりの美しさと、鞘から抜いた瞬間に吹き出す炎が灯火となり――俺の陰影を坑道内の壁へ映し出す。その巨大な影は幻影ではあるが――１人の大きな化け物のように見えた。

　満を持して、学園長から渡された『聖剣』――名付けて『レーヴァテイン』を鞘から抜き放った。

「――いくぞ、レーヴァテインッ！　はぁあああッ！」

　俺はレーヴァテインを片手に鉱床を疾駆し――１番近くにいたゴブリン部隊へ剣を振りかぶる。

「――邪魔だぁあああッ！……ぁ？」

　そして見事ゴブリンの首筋にレーヴァテインの刃があたったかと思うと――。

「レーヴァテインがぁあああ折れたぁあああッ!?」

　坑道内に俺の魂の叫びがビリビリと響き渡った。

「何々!?　レーヴァテインって何!?　ボクにも解るように説明してよ！」

　僅かに見える土煙の奥から、俺にレーヴァテインを送ったであろう主の声が聞こえてきた。

「何だも何もあるか！　お前が学園長室に寄越した剣、ゴブリンに対して斬撃入れたら一発で折れたぞ!?」

「はぁ!?　君、あの魔剣を折ったの!?」

「何が魔剣だ！　ゴブリンにも負けてんだよ、ふざけんな！　どうせ類似品のパチもん押しつけやがったんだろ!?」

「ふざけないでよ、正真正銘の本物だよ！」

「じゃあなんで簡単にポッキリいったんだよ！　耐用回数１回とかかよ!?」

「――その魔剣はね、持つ者の信仰の厚さに応じて切れ味も強度も無限になるんだよ！　どんな人でも何かしら信仰してる筈なのに……。ゴブリンにも勝てない信仰心とか君は何なの!?」

「日本は葬式と結婚式で違う神に祈るかと思えば、正月には違う神にも祈る。そうかと思えば正月の１週間ぐらい前には別の宗教の始祖が生誕した日な事を祝うような国民だぞ。そんな信仰の厚さとか言われても……」

「ボクやっぱり日本嫌いだ。君の国は神々を舐めてんのか！」

　激しい憤りの声をあげるカーラの声が聞こえてきた。

　仕方ないじゃん。そういう文化なんだし。