第48話
「槍を捨ててください」
「はい、今すぐ捨てます」
言いなりになって素直に武器を捨てるカーラ。
あっという間に無防備になったカーラへ刃を向け、指示を出す人物が――信じられない。
誰もが声を出せずにいたが――マリエが元の修道女の姿になって叫び声をあげた。
「何故……っ。何故こんなことを――ハンネっ!?」
そう、ハンネがシムラクルムの言いなりになっていた。
「はっはっは! 簡単な事よ。そやつは元々、魔神軍の諜報員だ! 裏切ろうにも裏切れぬもの、それは家族の――夫との愛の絆! その女は元々、我が魔神軍で私の配下だ。そうでもなければ、都合良く救世主が我が研究所へ来る依頼など受けるはずがなかろう!?――貴様等はずっと、そこの女に騙されていたのだ!」
シムラクルムが衝撃的な事を言った。
「ハンネが魔神軍の諜報員で――夫がいる!? しかも貴方の配下だなんて……嘘です! だって、ハンネは私と同じ修道院で育ったんです!」
「ごめんね、マリエ……。私、本当は結構な年齢なの。婚約者もいて、祖国には私名義の住宅ローンすらあるぐらい……」
「そんな訳が……っ」
「私が説明してやろうではないかっ!」
余裕そうにカーラ達の周囲をクルクルと歩き周りながら、シムラクルムは全身を大きく使って説明を始めた。
「――その女の祖先は、大罪人だっ! 祖国では友人はおろか、まともに会話する者さえいない迫害される血筋だった。しかし、そんな時に心優しき男が1人っ! そこの女の前に現れたのだ。その男は可哀想に先天的に病弱で働けず切ない孤独感の中にいたが、心根は優しかった。だからこそだろうなぁ、2人が惹かれ合ったのは。そして、2人は無事に仲を深め婚約を交わすも――その女はいつ裏切るやも解らぬ異分子の家系ッ! 祖国で何か罪を犯せば、住宅ローンや様々な負債が、病弱な愛する男の元へ降りかかってしまう! 一刻も早く、ローンを返済せねばならない。――慈悲深き私は、何処でも直ぐに解雇されてしまったその女を、高給で雇用したのだよ。子供同然の肉体にして、諜報員の任を与えウェルテクス王国の修道院へ配属したのだ。――子供の頃から周囲を欺く素振りを見せず真っ当に国の中枢まで入り込めば――警戒はされない。もし無事に諜報任務を達成し王国を滅ぼせば、私の太鼓判付きでこの女は魔神軍の為に働く功労者である。――裏切り者などではないと約束すると言ってな!」
きたねぇ……。
長々と自己正当化しているが、要は夫を人質、住宅ローン組んで労働からも逃げられなくしたって事だろ。
住宅ローン組んで、失職する訳にもいかなくしてから転勤命令とか、最悪だな。
しかも、口約束だ。契約書が有る訳でもない。
「そして、この女は実に役に立ってくれたぞ! 救世主の召喚に成功したという報告から、十分に育つ前に研究、処理をしようとする私の元へ誘き寄せる事にも協力してくれた! 被検体の救世主の身体は予想以上に可能性と不可思議に満ちていた!――この女のおかげで、科学も躍進するというものだ。――ハッハッハ!」
「そんな……ハンネ、本当なの?」
「……本当よ」
実の姉妹のような関係。
マリエとハンネの普段の在り方はそう言うのがふさわ――時々、マリエに下心があったような気がしなくもないけど、姉妹という呼び名が相応しいと思う。
いまだ信じられないといった顔のマリエに、ハンネが自らその通りだと肯定した。
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