第11話 第三層『半魚人の沼地』
翌日セイロンさんから地図をもらった俺は、クエストを受けつつダンジョンの第三層『半魚人の沼地』に来ていた。こちらは一層や二層とは違い沼地のようなフィールドである。
「また、ずいぶんと様子が変わりましたね、マスター」
「ああ、そうだな……ここはサハギンやリザードなどの水属性の魔物が多いそうだ。気を付けよう」
「ふふ、お任せください、私の盾があなたをまもり、槍があなたの敵を貫きましょう」
「ありがとう、でも、あんまり張り切りすぎないでくれよ。俺も戦いたいからさ」
ブリュンヒルデが興奮した様子で、槍を構えるのを見て苦笑する。今回も初めての層という事で、彼女には同行してもらっている。
「今回のクエストはサハギンの鱗を10個だ。どうやら沼地の中にこいつらの巣がいくつかあるようだな」
「沼地ですか……相手のフィールドに引き込まれないように気を付けてくださいね。マスター」
「ああ、そうだな……でも、気を付けるのは俺より前線で戦うブリュンヒルデもだよ。というわけでこれを受け取ってくれ」
セイロンさんの地図を見ながら、俺はうなづくと、アイテムボックスから、昨日購入したアクセサリーを彼女に差し出した。
「マスター、これは……?」
「ブリュンヒルデにはいつも守ってもらっているし、特訓とかしてもらってるからさ。そのお礼だよ。守備力が上がるらしいから、きっと役に立つと思う」
「そんな……私はただの召喚物ですよ……?」
驚いている彼女のことばを首を横に振って否定する。
「違うよ、ブリュンヒルデは俺の仲間だ。少なくても俺はそう思っているんだけど……」
「……マスターはお優しいですね。では、お言葉に甘えさせていただきます。これからは仲間として共にダンジョンを攻略していきましょう。ね、リーダー」
「な、なんか恥ずかしいな……俺がリーダーっって……」
「うふふ、マスターもそれと同じくらい恥ずかしい事を言ったんですよ。でも、嬉しかったです。その……似合ってますか?」
はにかんだ笑みを浮かべたブリュンヒルデの首元で赤い宝石がきらりと輝くのが何とも絵になる。翼をもち甲冑でその素顔を隠す彼女の神秘的な美しさが増した気がする。
一瞬その光景に息を飲んで……彼女が何か言ってほしそうなのを察して言葉にする。
「もちろんだよ。すっごい似合ってる」
「ありがとうございます。これからも頑張りますからね。頼りにしてくださいね」
プレゼントは喜んでもらえたようだ。俺達の関係性もより強くなった気がする。
そして、おれ達がサハギンの巣の近くの沼地へと進むと、濁った水の中に鱗に覆われた人型の魔物が数匹泳いでいるのが見えた。
「マスターどうしますか?」
「とりあえず、一匹は俺に戦わせてくれ。あとは任せてもいいかな?」
「もちろんです。マスター!!」
「よし、いくぞ!!」
沼地へ近づくと、こちらに近付いたサハギンたちがモリを手にして、向かってくるのを待つ。こいつらはゴブリンよりも、力が強く水中に引きづりこまれれば、中級冒険者でも苦戦するとセイロンさんのメモには書いてあった。
ブリュンヒルデならば突破できるだろうがわざわざ相手の得意なフィールドで戦う必要はない。一応マイナス召喚で召喚できるアイテムに水の上を歩くアイテムもあったが、それを召喚するほどではないだろう。そもそもまだレベルが足りないしな。
「ギョギョ!! ギョ――!!」
不気味な掛け声とともにサハギンがモリを振るう。ゴブリンよりもはるかに素早く、力強い一撃だがなんなくいなすことができて我ながら驚く。魔狼との戦いは確実に俺を強くしているようだ。
相手の攻撃を受け流してそのまま斬りかかるが、その一撃は硬い鱗に阻まれてかすり傷くらいしか与えられない。流石は三層の魔物と言ったところか……だけどなぁ
「うおおお!!」
「ギョォォォォ……」
俺はそのままの勢いでサハギンの目を鋭く突くと、眼球を貫き、そのまま脳まで届き、ピクピクと呻いた後に息絶えた。鱗は硬くても眼球までは硬いはずがないからな。事前に勉強をしておいた成果が出たようだ。
「ブリュンヒルデの方は…って、そりゃあ楽勝だよな」
俺が一息ついて彼女の方に視線を送ると、三匹いたサハギンはすでに息絶えていた。槍を構えて敵を鋭い目つきでサハギンの死体を見つめている彼女は何とも凛々しくかっこいい。炎系の魔法でも使ったのか、焼かれた魚のような香ばしい匂いが周囲に充満している。
彼女は俺の視線に気づくとにこりと笑った。
「流石、マスター。的確に相手の弱点を突きましたね。この前の特訓がいきているようで嬉しいです」
「ああ、ブリュンヒルデの特訓の成果かな。普通の突きも鋭くなった気がするよ。ありがとう」
「私はマスターの仲間ですからね、お礼は不要ですよ。助けあうのは当たり前です」
先ほど仲間と言われたのが嬉しかったのか、鼻歌まじりに彼女は微笑んだ。そして、サハギンをちらっと見て、一言。
「そう言えばサハギンって美味しいんでしょうか?」
「絶対に食べない方が良いと思うぞ……」
俺が苦笑すると、さっきまでの凛々しさはどこにいったやら顔を真っ赤にしていった。
「今のは冗談ですよ!? 本当にちょっと美味しそうだなー何て思っていませんからね!!」
先ほどまでの戦いの張りつめた空気が消えてゆるやかなものになる。
「ああ、そうだな。ブリュンヒルデはかっこいい戦乙女だもんな」
「うう……マスターの意地悪……」
そんな話をしながら俺達は次のサハギンの巣へと向かって、再び突きをメインにして戦う。そうして、三回ほど繰り返いして頃だろうか。サハギンの鱗も二十個は集まったし、疲労で少し体も鈍くなってきた。
「まあ、二対一でも戦えるようになったし、レベルも大分上がったから今日はそろそろ戻るかな」
自分のレベルが今回の冒険で2から18になったのを確認して満足する。
「うふふ、流石はマスターです。ステータスが上がったからと言って慢心しせずに鍛錬する姿は素敵です。それに私もたくさん戦えて満足です!!」
「ブリュンヒルデの教えが良いからかな。こっちとしても、ブリュンヒルデのレベルが上がれば、俺も強くなるし、一石二鳥だしな」
そう……彼女が大量にサハギンを倒してくれるおかげでレベルはもちろんステータスは上がるし、ブリュンヒルデの指導の元戦う事によって、戦い方も学べるためソロで冒険をしてい時よりもはるかに効率が良いのだ。
それに……誰かと一緒に冒険することは楽しいな。ソロだったときでは感じる事の出来なかったたのしさに頬が緩む。
「誰か助けてくれ―――!!」
俺とブリュンヒルデが笑い合った時だった。沼地の方から助けを求める声が聞こえた。冒険者がイレギュラーに巻き込まれたのだろうか?
なれない三層に、疲労困憊の身体だぞ? お前がいって何になる?
一瞬そんな考えがよぎるが、ブリュンヒルデの信頼に満ちた目と、自分の努力を信じて駆け出す。
「ブリュンヒルデ、悪いが隠れてくれ。そして、やばかったときには助けてくれ」
「はい、もちろんです」
彼女の嬉しそうな返事を聞いて俺は自分の正解が正しかったと確信する。助けを求める声を無視する人間が英雄に何てなれるかよ!!
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せっかくなのでそれぞれの層に名前をつけることにしました。
アレイスターに助けを求めたのはどんな人物なのか……?
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