第7話 アレイスターの家族

『大分買い込みましたね。マスター』

「ああ、今回はブリュンヒルデのおかげでずいぶんと稼げたからな。孤児院のガキたちに栄養をつくものを食べさせたくってさ」

『なるほど、孤児院の子達にですか……』



 俺が購入した食材をアイテムボックスに詰めているとブリュンヒルデの声が聞こえた。その声はどこか残念そうだ。

 どうしたんだろうと思っていると、彼女が美味しそうにご飯を食べている様子が思い出される。



「心配しなくても、この食材でお弁当を作ってもらうから安心してくれ。孤児院にバーバラって言う子がいるんだが、無茶苦茶料理が美味いんだよ」

『べ、べつにご飯をおねだりしたわけではありませんよ、マスター!!』

「じゃあ、お弁当は俺の分だけにしようかな」

『むう……意地悪ですね、マスター』


 

 軽口を叩くとブリュンヒルデがむくれているのがわかる。ちょっといじりすぎたかもしれないなと思うと孤児院が見える。

 あいつらの笑顔が思い浮かぶと足取りも軽くなる。しばらく進むと薄汚れたステンドガラスが目立つ建物と中心に銅像が庭が見えてきた。



『あの銅像は……』

「かつて魔帝と戦った英雄の一人、剣の聖女『ベアトリクス』様だな。実は俺の憧れの英雄の一人なんだよ。よくシスターに子守歌代わりに彼女の英雄譚を話してもらってさ、彼女の真似をして突きの練習をしたもんだ」

『……そうなんですか……』



 俺の言葉になぜか彼女は口ごもる。だけど、なんだろう。気まずいとかよりも恥ずかしがっている気がするんだよな。



「そういえば、俺のスキルで彼女も召喚できるのかな? 召喚できるのに『英雄』ってあったけど……」

『どうでしょう……彼女の在り方は英雄と呼ばれるには足りないものが多すぎましたからね。難しいと思いますよ』

「そうなのか、残念だな……」

「あれ? アレイスター兄さま?」



 どこか、歯切れの悪いブリュンヒルデを不思議に思っていると庭で子供たちの面倒を見ていた少女と目が合った。少女は俺を見て驚いたように目を見開いてなぜか少し顔を赤くする。



「ああ、ただいま。バーバラ。みんな元気か?」



 そう、彼女が妹分のバーバラである。彼女とシスターがこの孤児院の子供たちの面倒を見てくれているのだ。



「アレイスター兄さま、帰ってくるなら言ってよ。ご馳走とかおしゃれの準備いろいろとあるのに……」

「あー、アレイスター兄だぁぁぁ!!」

「本当だ!! 無事帰ってきたんだ。また冒険の話を聞かせてよ!!」

「バーバラ姉ちゃんも機嫌よくなるし、料理も豪華になるぞ、やったね!!」

「ちょっとみんな、余計な事言わないで!!」



 バーバラの言葉で俺に気づいた子供たちがわらわらと寄ってくる。バーバラが何かを言っていたがよく聞こえなかったな……

 俺はそんな子供たちに大声で叫ぶ。



「ふはははは、喜べ、お前ら。未来の英雄アレイスター様が帰ってきたぞ!! しかも、今日はお菓子もあるぞーーー」

「わー、お兄ちゃん最高!!」

「よ、未来の英雄!!」



 調子よくおだててくる子供たちにお菓子を配っていると、30代後半くらいのシスター服の女性がドアから顔を出した。



「おやおや、騒がしいと思ったらアレイスターか、元気そうで何よりね」

「ただいま、クレアおばちゃん」

「こら、クレア姉さんでしょう? おかえり、アレイスター」



 久々に会う育ての母の元気そうな顔に俺は頬が緩む。ああ、自分の居場所に帰ってきたのだと……




「バーバラの料理はほんとうにすごいな」

「えへへへ、ありがとう、アレイスター兄様。でも、こんなにお肉が食卓に並ぶのはアレイスター兄様のおかげだよ!! さすがだね!!」



 子供たちの相手も済んで、彼らが寝静まったとき俺たちはようやく食事をとっていた。食卓に並ぶのは家庭の料理にしてはちょっと豪華なバーバラのお手製の料理である。

 野菜がたっぷりと煮込まれたスープに食欲をさそう香ばしい匂いのする鳥のローストが何とも食欲をそそる。スープに一口つけると野菜のうまみが感じられ、鳥のローストを食べると肉汁が口内であふれ出す。



「相変わらずバーバラのご飯は最高だな!! これならいつでもお嫁さんにいけるぞ」

「もう、アレイスター兄様ってばおだてないでよ。でも、お嫁さんになるならお兄様のお嫁さんがいいな。なーんちゃって」

「はは、バーバラは可愛いなぁ。でも、そろそろ兄離れしないとだめだぜ」

「もう……本気なのに……」



 可愛い事を言うバーバラの頭を撫でると彼女はなぜか不満そうに頬を膨らませる。ちなみに俺とバーバラは本当の兄妹ではない。孤児院で育った義理の家族である。

 


「うふふ、相変わらずアレイスターとバーバラは仲良しね……でも、アレイスター……今回のお土産はずいぶんと豪華だけど無茶はしていないわよね?」



 俺とバーバラのやり取りを笑顔で見ていたクレアだが、その目がきらりと光る。俺の言葉が嘘かどうか見極めるときの表情だ。ここで嘘をつくとお尻ぺんぺんの刑に処されるのである。



 無茶か……確かに偶然中層には行ったが、おかげで新しい力に目覚めたし帰り道も危険はなかった。うん、無茶はしてないな!!



「ああ、大丈夫だよ。むしろ、これからはもっと稼げると思う。だから楽しみにしていてくれよ、クレア姉さん」

「そう、それならいいんだけど……でもね、お土産なんかどうでもいいのよ。あなたが無事に帰ってきてくれればね。だから、無茶をしちゃだめだからね……ゴホッゴホッ」

「おいおい、クレア姉さんの方がこそ大丈夫か? あんまり無理するなよ?」

「もう、アレイスター兄さまが返ってきたからって張り切るからだよ、水をゆっくり飲んでね」

「最近体調がよくないのよね……バーバラ、最近は抱っこできなくてごめんね……」

「もう、抱っこは卒業してるよ!! 私だってもうおっきくなってるんだから!!」



 話の途中で咳き込むシスターを心配する俺だったが、慣れた手つきでバーバラが水と薬を飲ませる。まあ、子供の世話に、内職と結構大変そうだしな……体力がおちているのかもしれない。今度は健康に良いものでも持ってくるとしよう。それにこれからは俺だって稼げるようになるのだ。彼女も楽になるだろう。

 そして、俺達は久々の家族での食事を楽しむのだった。

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