第8話 ダンジョン二層と必殺技

 翌日久々の孤児院でゆっくりと過ごした俺は、クエストを受けつつダンジョンの第二層に来ていた。こちらは平原である一層とは違い二層は大地を埋め尽くすような草が生えている草原である。



「一層とはだいぶ景色が変わりますね、マスター」

「そうだな、本当にダンジョンって不思議だよな……景色が変わるように魔物もがらりと変わるんだ。」



 どこか神秘的に風に揺れる草を見つめながら、ブリュンヒルデとそんな会話をする。今回は初の二層ということで、最初っから彼女を召喚しているのだ。

 そして、俺は初の自力での二層に胸を躍らせながら、セイロンさんからもらった地図に目を通す。どんな魔物が現れるか、取れる素材などが丁寧に書かれている地図は、彼女の冒険者に生きて帰ってきてほしいという気持ちを強く感じる。



「二層の魔物は魔狼(ガルム)っていう狼型の魔物が主にいるそうだ。素早い動きと、鋭い牙に注意って書いてあるな。あとは雄たけびで仲間を呼ぶから注意しろってさ」

「ふふ、お任せください、私の盾があなたを守り、槍があなたの敵を貫きましょう」

「ありがとう、でも、あんまり張り切りすぎないでくれよ。俺も戦いたいからさ」



 ブリュンヒルデが興奮した様子で、槍を構えるのを見て苦笑する。彼女も新しい層だから気合が入っているようだ。



「今回のクエストは魔狼の牙を10個だ。どうやら草原の中を何グループかで動いているようだな」

「あの受付嬢の方がくれた地図ですね。素晴らしいですね」



 俺がセイロンさんからもらった地図を見ていると、ブリュンヒルデ嬉しそうに笑う。



「ああ、本当にセイロンさんには感謝してもしきれないよ。でも、なんでこんなに親切にしてくれるんだろうな?」

「うふふ、それはきっとマスターが真面目で一生懸命だからですよ。そういう方の力になりたいって思いますから。もちろん、私もそうだからあなたに召喚してほしいと願ったのです」



 ブリュンヒルデの言葉にちょっと恥ずかしくなる。冒険者になってからはあんまり人に褒められたりはしてなかったので、こういうのに慣れていないのだ。

 そして、俺達は胸元まである草をかき分けて歩いていく。一部は冒険者達によって草が刈られて道になっているがそういう所には魔狼たちは現れないらしい。いつ襲って来るかなと身構えていると、視界の先にある草むらが揺れているのが見えた。



「マスター!! 敵です。数はおそらく三体!! 私が二体はひきつけますので、あとの一体を任せます」



 そう叫ぶやいなや、彼女が揺れている草むらの方へと駆け出していく。



「ガルゥゥゥゥ!?」



 ブリュンヒルデの槍が魔狼の一体をあっさりと貫き、悲鳴があたりにこだまする。そして、彼女相手では分が悪いと思ったのか、一匹がこちらへと向かってくる。



「きやがれ、イヌッコロ!!」



 俺はドドスコ賠償剣を構えながら、魔狼と対峙して、こちらへと向かってくる奴を睨みつめる。確かに素早い……だけど……

 


「きゃうん!?」



 相手がこっちに攻撃を仕掛けてくると思ったタイミングで放った俺の一撃は、魔狼の鼻先をかすめて血をまき散らす。



 外した……? いや、俺の動きが速すぎたか……



 まだ、いきなり上がったステータスには慣れていないためか、攻撃をするのが早すぎたようだ。追撃をしようとするも、魔狼はさっさと距離をとって再度こちらをにらみつけてくる。



「なるほど、これは……ちょうどいいな!!」



 俺の隙を探るように周りを駆ける魔狼の動きを見て俺は思わずニヤリと笑う。ゴブリンよりも動きが素早いためか、タイミングがあわないとかわされてしまうようだ。だが、今はそれが良い。急なステータスの上昇に慣らすのにちょうどいい相手だ。

 俺は再度こちらに向かってくる魔狼に先ほどよりもためをつくって、カウンター気味に突きをおみまいしてやる。



「きゃうん!!」



 俺の一撃は見事魔狼の額を貫き、悲鳴をあげると、血をまき散らしながら逃げ出していってしまった。流石に彼女のように魔狼に倒すことはできなかったが、二層初の戦いにしては上出来だろう。今の俺は二層の相手にも手が届くようになったのだ。その事実だけで嬉しい。





 一息ついて彼女に視線を送ると、二匹いた魔狼はすでに息絶えていた。槍を構えて敵を鋭い目つきで魔狼の死体を見つめている彼女は何とも凛々しくかっこいい。

 彼女は俺の視線に気づくとにこりと笑った。



「流石、マスター。的確に相手の弱点を突きましたね。やたらと突きが鋭い気がするのですが、何か特殊な訓練をしているのですか?」

「ああ、それはその……」

「どうしました、マスター?」



 ブリュンヒルデの質問に俺が少し恥ずかしそうにしていると、怪訝な顔をされる。まあ、ちょっと恥ずかしいが隠していてもしょうがないだろう。



「その……憧れの英雄の『ベアトリクス』の真似をしていて昔っから突きばかり練習をしていたんだよ……」

「ああ、なるほど……」



 俺の言葉にブリュンヒルデが苦笑する。子供の頃は誰だって、憧れの存在の真似をしただろ? それをずっと継続していただけに過ぎない。



「彼女の必殺『雷光突き』は書物にも残っているのですね……」

「ああ、そうだ。その一撃はワイバーンの鱗すらも容易に貫く、必殺の一撃だな」

「なるほど……そのように伝わっているのですね。ですが、一つだけ誤解を解かせてください。彼女の一撃はワイバーンどころではありません。エルダードラゴンの鱗すらも貫きます」



 まるでみたことがあるかのようにブリュンヒルデが言う。



「やっぱり、ブリュンヒルデはベアトリクスとあったことがあるのか?」

「うふふ、秘密です。ですが、マスターに『雷光突き』を教える事は可能ですよ。剣を貸してください」

「あ。ああ……」



 そういうと彼女は俺からドドスコ賠償剣を借りて、巨大な岩の前で剣を垂直に構えて……一瞬だった。



 ドォゴン!!

 


 きづいたらすさまじいまでの踏み込みの音と共に、彼女の前の岩がえぐれていたのだ。



「全体重、全力を載せて貫く。それが雷光突きです。マスターは基本はできているようなので、日々鍛錬を繰り返していけば必ずできるようになると思います」



 そう言って、彼女はどこか自慢げに、そして、嬉しそうに笑いながら剣を返してくれる。俺は内心感動していた。書物に書いてあるだけの技を目の前で見たのだ。

 胸が熱くなっている。そして、ブリュンヒルデは俺が思っている以上にすごい存在なのではないだろうか? と思っている時だった。

 


「ワォーン!!」



 先ほど逃してしまった魔狼が仲間を呼んできたようだ。今度は五体もの魔狼がこちらへと向かってくる。



「うふふ、ちょうどよかったですね。マスター。素早い的がたくさん来ましたよ。彼等で試してみましょう」



 そう言って、彼女は楽しそうににこりと笑うのだった。まさか、ブリュンヒルデってすごいスパルタなんじゃ……




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