第44話 アイリスの力

「マスター、大変です。今度は狩人が……てや!!」



 ブリュンヒルデがしゃべっている途中に、飛んできた矢を槍ではじく。くっそ、連戦かよ……今はアイリスがへこんでいてそれどころじゃないってのに……



「くっそ、いったんまた体制を……」

「アレイスター!! 制御の杖を貸して。私の魔力なら、ちゃんと制御すればあの距離だって届くかもしれないわ」

「アイリス!?」

「だって……私の我儘であなたたちまで危険にさらすわけにはいかないもの」



 俺は彼女の言葉を疑った。だて、アイリスはこれまでの冒険者人生をかけて『暴走魔法』と向き合ってきたのだ。ここで制御の杖を使うという事はこれまでの経験を殺すことになるし、デュナミスさんのいう事を認めて冒険者をあきらめるということになるわけで……



「だって、仕方ないじゃない。私がやっと手に入れた新しいスキルは『魔力増大』なのよ!! 確かに魔力の総量はあがったわ。だけど、変わらず制御はできないのよ!!」

「『魔量増大』だって……まじかよ……」



 『魔力増大』それはその名の通り、魔力の総量が上がるだけのスキルだ。『暴走魔法』のせいでしょっちゅう大量の魔力を消費していた彼女にふさわしいスキルともいえるだろう。

 アイリスは新しく目覚めた力に不満を持っているようだが、逆に俺は歓喜の声を上げた。



「でかしたぞ、アイリス!! お前は今俺たちに最も必要なスキルを手に入れたんだ。俺は『エンデュミオンの指輪』を召喚する!!」

「ちょっと……アレイスター?」


 そして、アイリスが制止する前に、俺はたった今解禁されたばかりの召喚アイテムを召喚する。



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エンデュミオンの指輪


 かの『エンデュミオン』が自らの英知を使い作成した指輪。魔法の限界を取り外すことができる。


 解放条件 『エンデュミオンの館』に入り、エンデュミオンの影を一体撃退する。


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 世界が漆黒に包まれると、一枚のカードがその存在を主張するように俺の視界で回転する。描かれているの質素な作りの指輪だ。

 そして、漆黒がはれると同時に俺の手の上には強力な魔力を秘めている指輪が現れた。俺は即座にアイリスの方に放り投げる。



「アイリス、これをはめて全力で魔法を放て!!」

「アレイスター、私のためにそれを使うのは無しだって……」

「うるせえ、お前のためじゃねえよ。俺たちのためだっての!! 俺はお前と冒険をしたいし、今はこれをお前が装備して全力を出すのが一番生存率が高いんだよ。俺と……お前が信じ続けた『暴走魔法』を信じろ!!」

「二人ともそろそろ限界です!! いったん逃げるか、戦うか決めてください!!」



 矢をはじき続けていたブリュンヒルデが声をあげる。そして、アイリスは一瞬指輪を見つめて、薬指にはめると、その目を輝かした。



「うふふ、確かにこれは私の『暴走魔法』と『魔力増大』と相性がいいわね。そして、あんたはいつも私を肯定してくれるわね、アレイスター!!」



 指輪の効果を知ったアイリスが得意げに笑うと、杖を構え、はるか遠くにいる狩人に向けて呪文を唱える。



「紅の炎よ、我が願いを持って現界せよ……大爆発(ビックバン)!!!」



 かつて五層で使った魔法だが、その時よりも二倍の大きさの火の玉が狩人に対して、向かっていく。



「……!!」



『エンデュミオンの指輪』によって、本来の上級魔法の限界を超えた『大爆発』は『魔力増大』によってすさまじい量の魔力となったアイリスの魔力をすべて使うかのようにして解き放たれたのだ。

 それは本来の射程を超えてもわずかに弱まるだけで、狩人の乗っていたた屋根ごと巻き込んで爆発する。そして、アイリスが魔力を使い果たして倒れかけたので、俺はあわてて駆け寄ってアイテムボックスから取り出した魔力回復ポーションを飲ませる。



「倒したわよね……」

「ああ、やったよ。これがお前の新しい力だ。やっぱりお前の魔法はすごいな」

「まったく制御することをあきらめて、逆に威力を上げるなんて……私が脳筋みたいじゃないの」



 怒ったように頬を膨らませるアイリスだったが、その表情はこれまでのへこんでいた様子が嘘のように晴れていた。



「アイリスさん……おめでとうございます。あとの一体を倒しに行きましょう」

「ええ、そうね。このまま『エンデュミオンの館』をクリアしてパパをぎゃふんっていわせてやるんだから!!」

「そうだな。もうちょっとだ」



 そして、俺たちが最後の一体を探しているとそいつは建物のない広場のようなところで陣取っていた。その身を法衣を身にまとっている影である。

 最後はヒーラーか……と思った時だった。そいつの持っているメイスが光り輝く。



「……!!」

「まじかよ……」

「エンデュミオン……本当に性格が終わっているわね……」

「まったく、彼らしいですね……」



 その僧侶が呪文を唱えると、まばゆい光と共に、騎士と狩人、魔法使いが復活しやがったのだ。

 命がけでこいつらを倒した俺たちをあざ笑うかの様の出来事だった。だけど、今の俺たちはもう、さっきまでの俺たちではない。



「アイリス!!」

「任せなさい!! 紅の炎よ、我が願いを持って現界せよ……大爆発(ビックバン)!!!」」



 圧倒的な魔力が騎士の作った結界を破壊し敵を燃やし尽くした。すると、まるで街がひび割れたガラスのように砕け散り俺たちは闇の中にのまれるのだった。

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