第2話 覚醒



「痛ってええ……」



 崩壊した穴は直線ではなかったようで、急斜面の滑り台にのったような形で俺達は滑り落ちていった。

 幸運にもミノタウロスがクッションになってくれたおかげで体の節々は痛いものの命に別状はなさそうだ。俺達の下敷きになって息絶えているミノタウロスに感謝する。

 いや、感謝なんかしねーよ。こうなったのもこいつのせいじゃねーかよ!!



「ううん……」

「大丈夫か、アイリス?」



 俺はおとなしく抱きかかえられているアイリスに声をかける。柔らかい感触と甘い香りがするが今はそれどころではない。

 彼女の無事の方が大切である。

 


「アレイスター? ちょっとなんで私を抱きかかえて……ああ、そういうことね。ありがとう」



 目を開いたアイリスが状況を理解したのかお礼を言って、起き上がる。



「気にするな。女の子を守るのは英雄の仕事だからな」

「はいはい、そうね」



 まあ、今の俺は英雄には程遠い存在だがな……などと自虐的に思いながらも俺はなぜか顔を赤らめているアイリスに軽口をたたく。

 そして、一息ついた俺とアイリスはあたりを見回す。



「それでここはどこなのかしら?」

「そうだな……結構、長い距離を降りてきたからなぁ……二層や三層ではないだろう。痛っつ」



 俺の全身を……いや、それだけでなく頭痛すら感じる。やはりあの高度から落ちたのだ。命が無事だっただけでも救いだろう。

 ふと視線を感じるとアイリスが俺を真剣な目で見つめていた。長いまつ毛と可愛らしい瞳がなんとも可愛らしい。え? なんでこんなに俺を見つめてんの? 吊り橋効果的に俺に恋をしたとか? 

 


「ねえ……アレイスターもしかして、全身の痛みだけでなく、頭痛も感じてないかしら?」

「ああ……感じているけど……」



 困惑している俺をよそに、アイリスは難しい顔でうめく。どうやら吊り橋効果ではなかったらしい。



「それ魔力酔いよ……おそらくここはダンジョンの中層……五層よりも下でしょうね……」

「は……?」



 俺は彼女の言葉に絶句する。中層……それは俺たちがいた表層と呼ばれる一層とは段違いの強さを持つ魔物が現れるのだ。ここ入ることができてようやく一人前の冒険者パーティーと認められるのである。そう、パーティーである。少なくとも表層で活動しているソロ冒険者がくるような場所ではないのだ。



「くっそ、一難去ってまた一難かよ。さっさと逃げ……」

「「シャーシャー」」



 ダンジョンの奥底から魔物たちの鳴き声が聞こえる。しかもこちらに近づいてきているようだ。その声を聞いたアイリスが立ち上がって杖を構える。

 しかし、その杖はへし折れており、これではちゃんと魔法を使うことができないだろう。



「アレイスター、ここは私に任せてさっさと逃げなさい。私の魔法の威力は知っているでしょう?」



 そう言って、ほほ笑む彼女の声が震えているのに俺はもちろん気づく。確かに彼女は俺の後輩だが、彼女はソロで中層も探索する冒険者である。冒険者になりたての彼女に基礎を教えたりもしたさっさと俺を追い抜いてしまった実力者だ。

 だけど、その高威力な魔法には一つの欠陥があるのだ。ましてや、今は杖が壊れている。



「違うぜ、アイリス。逃げるのはお前だよ」



 この子は信じてくれたのだ。万年チュートリアル野郎と馬鹿にされていた俺の言葉を……それが嬉しかった。そして、今も自分よりも俺の身を案じてくれている。こんな優しい子がここで死んでいいはずないだろう?

 


「は? 何を言ってるのよ。私一人で逃げれるはず……」

「冷静に考えろよ。俺なんかが逃げても、他の魔物に会ったら即死だろうが。だったら、魔法を使えるお前の方が生存率は高いんだよ」



 俺の言葉に信じられないとばかりにアイリスは目を見開く。そんな彼女にさらに俺は言葉を重ねる。



「いいから行けよ!! お前は最強の魔法使いになるんだろ? だったらこんなところで死ねないだろうが!! でも、俺の事が気になるなら、そこのミノタウロスの角をへし折って、ギルドで換金して孤児院に寄付してくれると嬉しいかな」

「アレイスター、あんた……」



 俺の言葉にアイリスは悔しそうに唇を噛む。くっそ、なんだこれ。まるで英雄譚じゃん。ただ、主人公は俺でなく、アイリスのだけど……

 俺の体はすでにボロボロである。足を引っ張るだけだろう。腐ってもさ、英雄を目指すものとしてはここで彼女の足を引っ張って一緒に死ぬなんて選択肢はないのだ。

 せめて彼女の生存率を少しでもあげようと薬草でも召喚して渡そうとした時だった。脳内に声が響く。



『ダンジョンの強力な魔力を浴びたためにマイナス召喚のレベルが上がりました。召喚できるものが増えます』



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薬草     消費LV1

犬      消費LV3 

さびたけん  消費LV4

スライムパッド消費LV10    NEW

悪魔     消費LV10~50  NEW

戦乙女    消費LV15    NEW 

英雄     消費LV10~50  NEW

エリクサー  消費LV50    NEW

ケルベロス  消費LV60    NEW

エクスカリバー消費LV80    NEW

賢者の杖   消費LV30    NEW

ビキニアーマー消費LV25    NEW

魔王     消費LV99    NEW

???

???

???




ETC

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 なんだこれ……ぱっと見ただけで召喚できるものが無茶苦茶増えてるんだけど!!

 しかも、みるからに強そうな……それこそ英雄譚にでてくるようなものばかりである。



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