第3話 戦乙女召喚
「アレイスター!! どうしたの? 大丈夫?」
「ああ……悪いなんでもない」
今のは何だ? 悪魔に魔王? それに伝説の薬草エリクサーや、聖剣エクスカリバーだと? 神話で語られる存在や武器とアイテムを見つけ俺は驚愕していた。
これを……本当に召喚できるのか……?
って今はそんなことを考えている場合ではない。ダメ元でもいいからなにかを召喚しないと……これでアイリスが逃げる時間を稼げればいいんだけどな。
「アイリス!! 頼む。行ってくれ!! このままじゃ二人とも死ぬってわかってるだろうが!!」
「うう……だけど……私は……あんたを見捨てて何て……」
「違うぞ、アイリス……俺が時間を稼いでその間に、お前は俺達が倒したミノタウロスの素材をギルドに届けに行くんだよ。単なる役割分担だ。気に病むなっての」
彼女が罪悪感を少しでも抱かないように、明るく語り掛ける。そして、何を召喚しようかと悩んでいた時だった。
『己の命を犠牲にしてまで何かを守ろうとするあなたに感銘を受けました。私を召喚してください。必ずやあなたとその少女を守ると誓いましょう』
俺の脳内に声が響いて『戦乙女』の文字が輝く。世界が漆黒に包まれると、一枚のカードがその存在を主張するように俺の視界で回転する。そのカードに描かれているは天使のような翼を背中に持つ甲冑に煌びやかな小麦のような金色の髪の女騎士である。
英雄の担い手『ブリュンヒルデ』
天界にて、英雄を導くために存在する戦乙女。光魔法と槍を得意とし、悪には非情。己の英雄と認めた存在にはその身も心も尽くす。
いきなり脳内に入り込んだ情報に混乱しているが、この謎の空間がいつまで持つかはわからないし、そもそも今の俺のレベルではあまり選択肢もない。それに……英雄の担い手という言葉の響きが気に入った!!
「ブリュンヒルデ召喚!!」
俺がカードを手に取って大声で叫ぶと、手の中のカードがすさまじい光を放ち漆黒の空間がひび割れて砕け散った!!
そして、俺の視界に入るのはダンジョンの中で今にも泣きそうな顔をしているアイリスと、俺に優しい笑みを浮かべている翼をもつ甲冑と形の良い口元以外を隠す兜を身に着けた金色の髪の戦乙女だった。
「マスター、私を選んでくださりありがとうございます。これより私はあなたの槍となり盾となることを誓いましょう」
「え? この子はいったい……」
「汝眠りたまえ、スリープ」
突然のことに驚いた声を上げたアイリスだったが、ブリュンヒルデが何を唱えると、彼女は言葉半ばで気を失うように眠ってしまった。え? なんでアイリスを眠らした?
「おい、ブリュンヒルデ……」
「マスター、話はあとです。敵がやってきたようですよ」
『『----!!』』
俺の質問の前にブリュンヒルデが持っている槍で指した通路を見るとアンデッドモンスターであるスケルトンたちがやってきた。
数は十数体……数が多すぎる……一体一体の能力はそこまでではないが、これだけの数ではミノタウロスよりも厄介かもしれない。ブリュンヒルデと俺だけじゃまずいんじゃ……
「マスター、ご安心を。私はマスターの槍であり盾であると言ったでしょう。あんなものは敵ではありません!! 穢れよ、失せよ、バニッシュ!!」
俺に向けて安心させるように微笑んだ彼女の詠唱と共に槍から純白の光が放たれて、それがスケルトンたちを包むと一瞬にして浄化させた。すごい……これがブリュンヒ。ブリュンヒルデのレベルが上がりました』
脳内に響く言葉と共にステータスが表示される。
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ブリュンヒルデ
真名『??????』
レベル5
HP 60
魔力 70
攻撃力 60
素早さ 30
スキル
上級槍術
神聖魔法
防御アップ
対魔法防御アップ
神の雷
ユニークスキル
戦乙女の誓い
己が主と認めたもののために力を振るう時ステータスアップ。
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俺よりもレベルが低いのにステータスが無茶苦茶高いんだけど……驚愕の目で見つめていると、彼女は優しく微笑む。
「ふふ、これで少しは全盛期に近づきましたね。マスターのお役に立てそうです」
「いや、俺なんかがマスターでいいの? 俺よりも無茶苦茶強いじゃないか」
「何を言っているんですか? 確かに私はマスターよりもステータスは高いでしょう。ですが、本当に大事なものはそれだけではありませんよ。高いステータスだけでは英雄の資格を持っているとは言えません。私はステータスが低くとも、誰かを守ろうとする心の方が大事だと思います。だから、マスターはそんなに自分を卑下しないでください」
ブリュンヒルデはまっすぐと曇りのない目で俺を見つめて言った。そして、騎士が主に忠誠を誓うかのように、膝をついて礼をする。
これが俺のマイナス召喚の本当の力なのか……? 圧倒的な力を持つ存在を召喚して従える能力……これがあれば俺が憧れ夢見た英雄にだってなれるんじゃないだろうか?
そう思うと、俺は胸が熱くなるのを感じた。
「ありがとう、ブリュンヒルデ。君の主として恥じない人間になってみせるよ。ところで……なんでアイリスを眠らしたんだ?」
「そうですね……マスターはまだ自覚はないかもしれませんけど、その力は非常に強力です。強力な力を持つものは良くも悪くも畏怖されます。秘密を知る相手は選んだ方がいいと思ったので独断で眠らせていただきました。マスターのご友人に失礼な真似をして申し訳ありません」
彼女申し訳なさそうに頭をさがる。ブリュンヒルデが善意でやってくれたと知って安心する。アイリスには悪いが俺を心配してくれていることはわかっているからそんな風に謝ってくれなくてもいいんだけどなとすら思う。
「まあ、確かに『魔王』や『聖剣』だって召喚できるみたいだしな……これじゃあ、かの『勇者』や『魔帝』にだってなれるかもしれないよな」
「はい、マスターが求めればそのどちらにもなれると私は思っています」
「え? あはは、ブリュンヒルデは冗談がうまいな」
「私は本気ですが……? あなたはそれだけの力を持っているのですよ?」
冗談で言った言葉を肯定されて俺は思わず口がとまる。『魔帝』というのは魔王や悪魔を従えて世界を滅ぼそうとした存在で、『勇者』は聖剣を片手に、仲間と共にその『魔帝』を倒した伝説的な英雄である。いくらなんでもなぁ……
「それよりもマスター、また魔物がやってくるかもしれません。早くここから出た方がいいと思います」
「そうだな……ブリュンヒルデ。悪いけど護衛を頼むぞ」
「はい、マスター、お任せを!!」
俺はすやすやと気持ちよさそうに眠っているアイリスを抱えて、ブリュンヒルデの後ろをついていきダンジョンを脱出することに成功する。
そして、俺はアイリスを背負っているとなぜかやたら軽くかんじ、ステータスを確認して、マイナス召喚のもう一つの強さに気づく。
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レベル10
HP 10(+30)
魔力 15(+35)
攻撃力 12(+30)
素早さ 11(+15)
ユニークスキル
マイナス召喚 LV2
ブリュンヒルデの加護(召喚者の一部ステータスアップ)
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そう、ブリュンヒルデを召喚したことによって、消費してLV5になったはずが、ダンジョンを出るころにはもう10レベルになっていたのだ、一度レベルが下がったことにより、レベルアップに必要な経験値が少なくなったのである。しかも、なぜかステータスまであがっている。これはブリュンヒルデの力が一部流れているということなのか……
これなら……俺は思ったよりも簡単にいろいろなものを召喚できそうだし、召喚すればするほど強くなれるって事なのか? とりあえず戻ったら色々と確認してみよう。
そう思うと明日からのダンジョンが楽しみになるのだった。
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