レベルダウンから始まる召喚無双〜俺だけ使える『マイナス召喚』は経験値を対価にあらゆるものを召喚するチートスキルでした。『英雄』『神獣』『聖剣』『魔王』を召喚し最強へ至る~

高野 ケイ

第1話 底辺冒険者アレイスター

「お、万年チュートリアル野郎じゃないか、今日もゴブリン狩りか?」 

「おいおい、ドドスコ。こいつのステータスだぜ、ゴブリンが狩れるはずないっての。せいぜい薬草採取だろ? 安全なクエストばかり受けてて羨ましいぜ……俺たちは今日も魔物狩りだからなぁ!!」


 

 俺を見てクスクスと笑う声が聞こえる。これからクエストだって言うのにギルドの入り口で嫌なやつらに出会ってしまった。

 彼らは俺と同期の冒険者たちである。俺を万年チュートリアル野郎と呼んだのがドドスコで、もう一人の軽装の男がギャンガーである。会うたびに俺の事を馬鹿にしてくる不快な奴らだ。

 確かにこいつらの言うとおり、俺はとある理由で、チュートリアルと呼ばれているダンジョンの一層ばかりを探索しているが、こんな風に馬鹿にされるいわれはない。



「俺は万年チュートリアル野郎じゃない……アレイスターだ!! いずれ英雄になる男だ!!」

「何が英雄だ!! 生意気だな!!」

「そうだ、お前ごときが俺達に口答えするんじゃねえ!!」



 俺が反論したのが気にくわないのか、ドドスコがつかみかかろうとしてきた時だった。割り込むように人影がやってくる。



「あなたたち邪魔よ!! どきなさい」



 ローブを身にまとった金髪の小柄なつり目の少女だ。彼女の名前はアイリス。俺よりも後輩だが、圧倒的な魔力で一気に駆け上がった冒険者である。

 自分よりも上位の冒険者の圧力にドドスコ達の動きが止まり、冷や汗を流す。彼女は冷たい目でドドスコたちを見つめ……そして、俺と目が合うとちょっとふくれっ面で言った。



「あんただってすごいんだから、しゃきっとしなさいよ」



 アイリスの言葉に俺が苦笑していると、彼女は何事もなかったように冒険者ギルドを出て行く。ドドスコ達はアイリスの後ろ姿を見て、騒ぎ出す。



「おっかねーなぁ、あの女。殺されるかと思ったぜ」

「全くだ。でも、あいつはもう中層に言ってるんだろ? すげえよなぁ……」



 違うよ……アイリスは確かに口は悪いが優しい少女なんだと思ったが余計なことは言わない。騒いでいるドドスコたちを放置してため息をつきながら俺は、ダンジョンへと向かうのだった。





 ダンジョン……それはいわば異界への入り口である。現に洞窟の中だというのにこの中には草原が広がっており魔物を含めた動物や、ここでしか取れない魔力のこもった植物などが生えている。

 


「とりあえず、こんなものかな……」



 俺は汗をぬぐって収穫した薬草を革鞄に入れる。ギルドに頼まれた分の量は取り終わった。これで孤児院の子供たちにパンを買うくらいはできるだろう。

 そう思って一息ついていると、ガサガサっと草むらの方から音がしたの咄嗟に身をひそめる。すると俺が隠れていることに気づかずにゴブリンが数匹通って行った。



「あぶねえ……見つかったらやばかったな……一匹だけなら倒せるんだけどな……」



 俺は腰にさしてあるショートソードを握りながらため息をつく。ダンジョンに生息する最弱のモンスターであるゴブリンにすらこのざまな自分に情けなくなってくる。



 こんな生活をしてもう三年だ。俺がいるのはダンジョンの地下一層であり、時々すれ違うのもルーキーの冒険者ばかりである。

 俺がずっとここで足踏みをしているのには理由がある。


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レベル20

HP   15  

魔力  20

攻撃力 15

素早さ 15


ユニークスキル


マイナス召喚



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 一般的なレベル1の冒険者の平均数値が10だと思ってくれれば俺の弱さがわかるはずだ。俺の『マイナス召喚』というユニークスキルの影響かレベルが上がりやすい代わりに、ほかの人と比べてステータスが全然上がらなかったのだ。

 そして肝心のユニークスキルである『マイナス召喚』の効果はレベルを生贄にして何かを召喚するのだ。その召喚できるものが強力ならば問題はないのだが……



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薬草     消費LV1

犬      消費LV3 

さびた剣   消費LV4


???   消費LV50

???   消費LV99 

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 このありさまだ。リスクのわりに召喚できるものがゴミすぎるのである。薬草もさびた剣も特殊な効果なんかない。



 それでも、俺に可能性が無いわけじゃないんだよな。



 ダンジョンは奥に潜れば潜るほど魔力があふれてる。そのため、レベルアップ時のステータス上昇が増したり、スキルが開花することもあるのだ。

 期待すべきはまだ解放されていない『???』であり、パーティーを組んで下に降りれば解放されるかもしれないが、ステータスが低い上に、外れスキルだとばれているため、組んでいる仲間などいないのでずっと一階で薬草狩りをしているのである。



「今度少し無理して深い層に入ってみるか……」



 孤児院のために金も稼がないといけないし、このままでは英雄になる夢もいつ叶うかわからない。俺が新たな決意を元にダンジョンの出口に向かっていた時だった。



「助けてくれぇ!!」

「何でこんなところにあいつがいるんだよぉぉぉ!!」



 大きな悲鳴と共に冒険者たちが、こっちへとやってくる。てか、一番前を走っているのはドドスコとギャンガーじゃないか!! 何だろうと思って視線をやると、その後ろには一匹の魔物の姿があった。



 ミノタウロス



 人型の牛頭の魔物でありすさまじい怪力を持つ魔物である。中層の門番的な魔物あり、通称『中級者殺し』とまで呼ばれている魔物だ。こいつを倒したパーティーは一人前と呼ばれるのである。

 少なくともこんなところにいていい魔物ではない。



「はぁー? なんであんなのが……てか、こっちにくるなって!!」



 俺はこちらに向かってくるドドスコ達と魔物に思わず悲鳴を上げるのだった。



「アレイスター!! さっさとどけよ、ぶっ殺されちまうだろ!!」

「お前この階層は詳しいんだろ? なんとかしろ!!」

「はぁ……はぁ……」


 

 俺に追い付いてきたドドスコとギャンガーの野郎が無茶苦茶なことを言いやがる。そして、少し遅れてローブを身にまとう小柄な少女が息を切らしてついてきている。

 そう、アイリスである。



「大丈夫か、アイリス?」

「アレイスター心配してくれてありがと……でも、なんで今、気づいたみたいな顔をしているのよ……まさか、私が小っちゃくて気づかなかったんじゃ……」

「さっさと逃げるぞー」



 一瞬彼女の瞳に凶暴な輝きに宿ったのに気づいた俺は慌てて話を変える。てか、こいつらわざと魔物を連れてきたのか? 

 魔物を引き連れて、他の冒険者たちに押し付けるのはタブーであり、最悪、冒険者のライセンスをはく奪されることだってあるのだ。

  


「何でこんな魔物をつれてきたんだ? ここは初心者しかいないんだぞ。こんなのに出会ったららどうなるかくらいわかるだろ!!」

「うるせえ!! 下に降りようとしたら、いきなり襲ってきたんだから仕方ねーだろ!!



 ドドスコたちは口や態度はくそだが、実力はそこそこだ。こいつらがタブーを破ってまで逃げるっていうことは本当にどうしようもないのだろう。

 だが、このまま一層にこんな強力な魔物がいたらどうなるかなんて想像に容易い。

 

 でもさ……俺ごときじゃ、どうしようもないよな……と思っていただろう。ここが一層じゃなかったらなぁ!!



「お前ら死にたくなければ、俺についてこい!!」

「はぁー? なんで俺たちがお前の命令を……」

「そうだそうだ、このまま素直に出口を目指すのが一番だろうが!!」

「いいわ……アレイスターには何か考えがあるんでしょう?」



 文句を言うドドスコとギャンガーの言葉を遮ったのはアイリスだ。金色の髪のツインテールをなびかせながら彼女が俺を見つめる。

 


「信頼してくれてありがとよ。それにしても、ソロ専門のアイリスがなんでドドスコ達といるんだ? まさかパーティーを組んだのか?」

「そんなわけないでしょ。狩りをしてたらこいつらの逃亡劇に巻き込まれたのよ!! いいからあなたの作戦を教えなさい」


 

 ドドスコ達の仲間と勘違いされたのかが、不愉快だったのか、アイリスは不満そうにほほを膨らます。



「とりあえずこいつを誘導したい。できるか?」

「そんなの簡単じゃない。任せなさい!!」



 アイリスはローブのポケットから革袋を取り出すと、粉末状のそれを自分に振りかけた。すると後ろで追いかけていたミノタウロスが『ぶもー』と興奮したように声を上げる。



「アイリス? それって魔物の興奮剤じゃないか!! お前が狙われるんだぞ?」

「なによ、アレイスターに作戦があるんでしょ? だったら大丈夫に決まってるわ。それに……こいつを放置したらまずいってことくらい私だってわかるもの。」



 俺の言葉にアイリスは息を切らしながらも答える。ミノタウロスの視線はもはや俺達ではなく、アイリス一人を見つめている。やつにとっては興奮剤をまぶした彼女はごちそうに見えるのだろう。



「信じてくれてありがとよ」



 俺はぼそりと呟く。彼女とは冒険者になりたての時に少し基礎を教えたのと、ソロの冒険者同士タイミングが合ったらなんとなく飯を食っていただけの関係に過ぎない。

 それなのに、信じてくれたのだ。だったら期待に応えないとな!!



「そっちにトラップがある。俺が飛んだところをお前らも避けてくれ!!」



 俺は何もない平地を指さしてからアイリスたちを先導する。ダンジョンには地上には存在しないようなトラップがある。それこそ落とし穴だったり、別の層に転移するような罠だ。通称『ダンジョンの悪意』である。



 そして、俺は地下一層に限れば完全に把握しているのである。伊達に三年間ずっと一層を探索していたわけではない。



「アイリス、ここだ!!」

「わかったわ!!」



 ラストスパートとばかりに、アイリスが駆け出してミノタウロスを俺が指さした罠へと誘導する。



「ブモ―!?」



 そして、彼女についていったミノタウロスはトラップに気づかずにあっさりと引っかかった、やつが踏んだはずの地面はそれが幻であったかのように、かき消えて、ミノタウロスの下半身が捕らわれた。



「風刃よ、我が敵を切り刻め!!」



 必死に抜け出そうと暴れるミノタウロスを、アイリスが魔法で風の刃を生みだし切り刻んで弱らせる。



「やったか?」

「やったな!!」


 

 ドドスコとギャンガーがくっそ不吉な言葉を放ちやがる。え? やったよな? 少し不安にミノタウロスを眺めると、苦しそうにもがいているが、全身の切り傷と下半身が埋まっているせいか、抜け出すことができない。



「流石はアレイスターね!! やるじゃない」

「いや、アイリスが引きつけて、弱らせてくれたおかげだよ。後はギルドに戻って、応援を呼んでこよう」



 ミノタウロスは強力な魔物だ。このままアイリスの魔法で倒すこともできるだろうが、手負いの獣は恐ろしいからな……俺がそう一息ついた時だった。



「ははは、こいつ動けないでやんの!」

「これなら俺達でもやれるぜ!!」



 そういってドドスコとギャンガーが、ミノタウロスに攻撃を仕掛けやがったのだ。



「おい、お前ら!!」

『ブモーーーー!!』

「「ほげーー!!」」



 俺の制止も間に合わず、ドドスコたちは傷つけられて怒り暴れたミノタウロスの拳を喰らってふっとんでいった。



「何をやってるのよ、あいつら……」

「一応生きているみたいだな……」



 俺とアイリスはあきれて吹き飛ばされたドドスコたちをみつめる。ぴくぴく動いているので、生きているようだ。ミノタウロスも穴からは出れないし放っておいてもいいだろう。そう思った時だった。



「「え?」」



 ゴゴゴという地響きと共に床が崩れ落ちて、ミノタウロスごと俺とアイリスを巻き込んで、闇へと吸い込まれるのだった。




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