第40話
『エンデュミオンの館』までの道のりはかなりあるようだ。魔物達がいる森を俺達は進んでいた。三人でも苦戦していたのだ。ブリュンヒルデと意思疎通が難しい状態のままなのでやばいかなと思ったのだが……
「魔法使い系の魔物は通常の種族よりも頭がいい。気を付けたまえよ。そら、そこの木の上に魔物がいるようだ。魔法が飛んでくるよ」
「ブリュンヒルデ、結界を張ってくれ!! アイリス、魔法を頼む!! アタランテ、射抜け!!」
「任せなさい、氷の礫よ!!」
ブリュンヒルデが結界をはり、俺とアイリスで魔物を倒す。それをひたすら繰り返しているだけなのだが、この前とは違うことが一つある。
「ふむ……アレイスター君の今の判断はよかった。狩人の矢による攻撃は魔法よりも早いからね、奥の敵を狙うのに最適だ。ただ、せっかく素早い動きをできるんだ。背後からの奇襲などその狩人でしかできない戦い方を増やした方が良い。そして、アイリス君の魔法は威力を制御できないと聞いていたが、下級魔法なのにすごい威力と素晴らしい早さで放ったね。相当練習をしたのだろう? ただ、今のは雷の方が良かったかな。万が一はずしても木を経由してダメージを与えれるからね」
「わかりました。次はそうしてみます。その……色々と教えてくれてありがとうございます」
このようにダークフレイムさんが色々とアドバイスをしてくれるのだ。最初は少し警戒していたアイリスもすっかり素直になっている。ブリュンヒルデは元が前衛だったからだろう接近戦での戦い方は教えてもらえるが魔法を使った戦い方や、召喚した者の扱い方などは手探りだった。
おそらく、これは本来パーティーを組んだ時に先輩だったり、仲間同士で相談してあって下層で身に着けておくべきものだったんだろうな。
俺もアイリスもソロだったうえに特異なスキルで何とかなってしまっていた。だから、まだ連携や状況判断が弱かったのだが、それを彼が今指摘してくれているのだ。それだけで俺達はまだ強くなる。個人としてではなくパーティーとしてだ。それがわかっているからこそ、アイリスも素直に従っている。
現に六層に入ってからはダークフレイムさんは俺たちの戦いに手を出さないが、敵の奇襲パターンや、攻撃パターンを教えてたり、こうしてアドバイスをしているだけなのに、俺達は苦戦しなくなったのだ。
「ダークフレイムさん、依頼は『エンデュミオンの館』について教えてくれってだけだったのに、戦い方までおしえてもらって、ありがとうございます。あなたのおかげで俺達は強くなれそうです」
「ふふ、気にすることはないさ、それが先輩冒険者としての義務だからね。それに……アレイスター君は一層で私と同じことをしていたのだろう? 君がやっていることと同じことをしただけさ」
「俺がやっていたことを知っていたのですか……」
「君の依頼を受けた時に受付嬢の子が教えてくれたよ。なに、自分がやったことが返ってきた。そう思えばいいさ」
俺が驚いていると、ダークフレイムさんがふっと笑った。ああ、そうか……俺がやっていたことは無駄ではなかったんだな……
そういえばドドスコとかにはバカにされていたけど、サハギンから助けたリッドたちや、アイリスは俺に感謝をしてくれていたもんな。ちょうど今の俺と同じ気持ちだったのだろう。
「『エンデュミオンの館』はもう少しだ、いまのうちに戦い方を学んでおきたまえ。あそこは本当に恐ろしいよ」
戦いに勝って緩んだ気持ちを引き締めるようにダークフレイムさんが言った。ああ、そうだ。俺達は六層を攻略しにきたんじゃない。『エンデュミオンの館』を攻略しに来たのだ。
「アレイスター、私たちはやるわよ」
「ああ、絶対クリアしような」
「ふふ、青春だねぇ」
同じことを思ったのだろう、アイリスと目があって俺達は頷いた。そして、俺達は先に進むのだった。
あの後何回か敵との戦いをして、俺達はようやく『エンデュミオンの館』にやってきた。
「すごいわね……」
「ああ、ここがダンジョンだなんて信じられないな……」
そこはダンジョンだというのに、魔力か何かで守られているのか建物には傷一つなく、まるで貴族の屋敷のように立派な庭まであった。
所々植物に水をやったりしているのはゴーレムだろうか? 人型と土人形がメンテナンスをしているようだ。
「不思議な所だろう? これほどの魔法はまだ、私達では再現できないんだ。魔帝の時代の魔法使いがいかに強力だったかわかるね。ちなみに、肥料は魔物の死体らしいよ」
ダークフレイムさんが庭に一歩足を踏み入れて、俺達も来いとばかりに手招きをした。それにつられて俺が足を一歩踏み入れた時だった。
「では、さっそく『エンデュミオンの館』を知ってもらおうかな」
「アレイスター!!」
「え?」
ダークフレイムさんがいきなり俺に向けて短剣を向けてくる。一切の殺気を感じさせない行動に、俺はただ、自分の胸に刃が迫ってくるのが見ることしかできなかった。
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