第39話 先輩冒険者

そうして、俺達はダークフレイムさんと共に第六層に来ていた。彼がいることもあり、ブリュンヒルデは召喚できないのでやばいかなとも思ったのだが……



「すげえ……エルダーウッドユグドラシルを瞬殺するなんて……」

「魔法の構成力、即座に有効な魔法をつかう判断力……これがBランクの冒険者の力なのね……パパみたいにすごい……」



 六層にくるまでの戦いですでに彼の実力の高さを実感していた。あくまで俺達のサポートだが、ロブリンたちの不意打ちを防ぎ、エルダーウッドユグドラシルを森の木を傷つけずに焼き払う魔法の制御力には驚きを隠せなかった。



 だけど……フリーレンが組んでいるマーリンさんはもっと上なんだよな……



 そう思うと、上の人間達の強さに思わず高揚する。俺もいずれあのランク本当にいけるのだろうか?



「それで……アレイスター君。君は何かを隠しているんじゃないかな? 戦っているところを見させてもらったが、二人は良い連携だし、信頼し合っているのもわかる。だけど、六層で戦うには一歩足りない。まさか、その程度の実力というわけではないのだろう?」



 ダークフレイムさんの言葉に俺は冷や汗を垂らす。流石にこのランクの人にはばれてしまうのだろう。だけど、まだ『マイナス召喚』のことを話せるほど、俺はこの人を信用していない。



『マスター、私を召喚してください。中層で活躍する冒険者ならば今の私くらいの強さの戦士を召喚するのもおかしくはないかと……ただ、新しく何かを召喚するのは控えてもらうのと、私の事は道具のように扱ってください。意思疎通のできないものを召喚スキルを持つものは他にもいると思いますので……』



 迷っている俺に脳内からブリュンヒルデがアドバイスをくれる。確かに魔物を召喚したり、意志の無い存在を召喚するものは珍しいがいる。

 自分の能力を偽るようでちょっと罪悪感を感じるが、そんな事を言っている場合ではないだろう。俺の力に気づきかけているダークフレイムさんを誤魔化して信頼を得る機会を失うのは悪手だ。彼のアドバイスがあれば『エンデュミオンの館』を攻略できる可能性が増えるのだから……



「何を言っているのよ。アレイスターは……」

「庇ってくれてありがとう、アイリス。だけど、奥の手を見せて信頼してもらえるならば安いものだよ。その代わりこれは秘密にしてくださいね」

「ああ、もちろんだ。冒険者たるもの奥の手の一つや二つは持っているものだからね」

「ありがとうございます。ブリュンヒルデ召喚!!」



 ダークフレイムさんに文句を言おうとした彼女を、推しとどめてブリュンヒルデを召喚すると、彼女は無言のまま俺にひざまずく。

 そして、アイリスが何かを言う前に俺は自分の能力を説明する。



「俺の能力『召喚』は『戦乙女』を召喚して、使役をすることができます。とはいえ召喚できるものの数は限られていますし、簡単な命令しか下せないんですけどね」

「なるほど……それがたった二人で六層に至ったわけか……それにしても、英雄を導くという『戦乙女』とは……すごいな……まるで英雄譚のようじゃないか。おお、この羽とかすごいね、ちょっと触ってもいいかな?」



 むちゃくちゃうっきうきの様子でブリュンヒルデをじろじろと見つめるダークフレイムさん。まあ、気持ちはわかるけど……

 恥ずかしいのか、ブリュンヒルデの顔が赤く染まっていく。



「ちょっと!! レディをじろじろ見るなんて失礼よ!!」

「ああ、すまない……つい、珍しいものを見たものでね。召喚魔法か……宮廷魔法使いにも一人いるが彼女にも見せてあげたいものだね」


 

 ブリュンヒルデを庇うようにして、アイリスがダークフレイムさんとの間に割り込んだ。ナイスだ。アイリス!!

 ダークフレイムさんも、意志の無い召喚物を見ていたつもりなので悪気はないんだろうけどな……俺は空気が悪くならないように話題を変える。



「ダークフレイムさんは宮廷魔法使いと知り合いなんですか?」

「あ……ああ、冒険者を長くやっていると、色々な知り合いができるものだよ。それよりも、そろそろ見えてきたよ。あれが『エンデュミオンの館』だ」



 一瞬言いよどんだ後に、誤魔化すようにダークフレイムさんが指をさす。するとその先にはダンジョン内だというのに、森の中心部に不気味なくらい傷の無いレンガ造りの洋館が立っているのがみえたのだった。

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