第41話 いざ『エンデュミオンの館』へ
いきなりの事に咄嗟に俺の身体が動いて、腕で仕込み杖の刃を受け止めた俺は激痛に……あれ、痛くない?
「そう、これが『エンデュミオンの館』の……」
「何すんのよ!! 氷の礫よ!!」
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁ。結界よ!! あれ!!
怪訝な顔をしている俺に、ダークフレイムさんがどや顔で何かを言いかけたが、アイリスの魔法によって中断されて、情けない悲鳴をあげる。ついでとばかりにブリュンヒルデまで槍を構えて敵意をむき出しにした。
やばい、このままじゃ、ダークフレイムさんが死んじゃう。
「アイリス、俺は大丈夫だから!! まじでダメージがないから!!」
「待った、待った!! 今のは『エンデュミオンの館』の力を教えようとしただけなのだよ!」
「本当? ならいいけど……ダークフレイム!! やっていいことと悪い事があるでしょう?」
「ごめんごめん、説明するよりも実際味わってもらった方が良いと思ったんだけどなぁ……それにしてもとっさに張っただけとはいえ初級魔法で私の結界を貫通するとはなぁ……はくっしょん!!」
体の半分を凍らせたダークフレイムさんが感心したように、そして、どこか嬉しそうに笑う。器が大きいのかよくわからない人である。 そして、詠唱と共に火の粉が舞うと、彼のローブの上を覆う氷が一瞬にして溶けた。
「すごい……私の生み出した氷だけを融かすなんて……パパと同じくらいの魔法の制御力かしら?」
「宮廷魔法使いと同じくらいってどんだけだよ……」
アイリスの突込みに、ダークフレイムさんの凄さを改めて実感していると、彼が得意げにニヤリと笑った。
「なーに、これも努力の成果だよ。そして、『エンデュミオンの館』での経験も生きているのさ。ここでは魔法でした敵を倒せない。だからこそ、より効率的に、魔力を消費して戦わなければいけないんだ」
「効率的に……」
どこか沈んだ顔でアイリスがダークフレイムさんの言葉を繰り返す。
「まあ、何事にも例外はあるけどね、最後は結局自分の力と仲間を信じることが大事だよ」
「自分の力と仲間か……」
ダークフレイムさんの言葉を聞いて、今度は俺が考えさせられる。
仲間を信じるか……俺はアイリスの力を信じたいんだけどな……
横にいる彼女はなにやら気難しい顔をしている。『暴走魔法』というスキルを持っている彼女からしたら、『エンデュミオンの館』は大きな試練になるだろう。
魔法だけしか攻撃が通じない環境で、自分の力がどれだけ通用するかの結果を見せつけられるのだ。
だけど、こいつはできないとは言わなかった。意地もあるだろうが、攻略をできると思ったからこそ、高価な魔力回復ポーションを買い込んで、ここに来たのだ。だったら俺がやる事は決まっている。
欲を言えばこの二層で得た『魔狼の首飾り』のような、この階層で何らかの条件を達成した時の召喚物を手に入れて彼女をサポートできたと思うだけどな……『魔法使いの里』と言われるくらいなんだ。魔法に役に立つ者が手に入ると思う。
だけど、ないものねだりをしても仕方がないだろう。
「アイリス、サポートやアイテムを渡すのは任せろ。お前の強力な魔法だったら、どんな敵だって瞬殺だろ」
「……アレイスター……ありがと」
俺の言葉に彼女は目を見開いて嬉しそうに微笑んだ。そして、そんな俺達をまるで見守るようにして見つめていたダークフレイムさんは、軽くうなづくと言葉を続ける。
「この屋敷の扉に入ると、強制的に試練になるよ。試練は二つあって、一つは『エンデュミオンの影』という四体の魔物と戦う事になる。あれは四層にでてくるロブリンたちの強化版のようなものと思えばいい。そして、もう一つは……エンデュミオンと対話だ。こっちに関しては大した問題ではないよ。」
「ロブリンたちってことは、ちゃんと連携をしてくるって事ですね……」
「そして、プリーストとかもいるって事よね……確かに厄介ね……だけど、そいつらなら敵じゃないわ。圧倒的な力で結界ごと倒しちゃえばいいんですもの」
アイリスが得意げに言った。確かに彼女の魔法ならば並大抵の結界ならば壊せるだろう。俺達のやりとりを見て、ダークフレイムさんは言葉を続けた。
「私がついてこれるのはここまでだ。試験は一度しか受けられない。私はもう入ることができないんだ……」
エンデュミオンというやつはちゃんと抜け道も防いでいるようだ。強力な冒険者が手伝えないように工夫しているらしい。
「アイリス、どうする? いったん戻るか? それともこのまま行くか」
「決まってるわ。せっかくここまできたんですもの。パパがいつまで待ってくれるかわからないし、今からいきましょう」
俺達の考えは決まった。確かに今から戻ってもできることはない。あとは心の問題だけである。幸いにもダークフレイムさんのおかげで、俺達は戦いもうまくなったと思う。
「ダークフレイムさん、色々とありがとうございました」
「ありがとう、その……さっきは魔法をうってごめんなさい……」
「ふふ、気にしなくていいよ。それよりも二人とも気を付けるんだよ」
謝るアイリスに彼は気にしていないとばかりに笑った。
「その……良かったらだけど、お金を払うから今度私の魔法を見てくれないかしら? できることはやっておきたいの」
「そうだね……ちょっと私も忙しくてね……約束はできないが、私が無理な場合は弟子にたのんでおくとするよ」
「そう……わかったわ。でも、また街に来るときは教えてね、その時は強くなった私を見てもらうんだから!!」
普段見なかったことから彼は普段はこの街にいない冒険者なのだろう。出会えたことに感謝しつつ、別れを告げて俺達は『エンデュミオンの館』のドアに触れる。
すると一瞬であたりの光景が変わった。
「ここは……どこかの街か?」
そう、俺達のまわりにはレンガ造りの建物に建っており、どこかの街を模しているようだ。いきなりの事に驚いていると、殺気を感じ……
「マスター、危険です!! 結界よ!!」
その言葉と共に不可視の結界が貼られそこには矢の形をした何かが突き刺さる。
「……!!」
声の方を見るとボウガンを構えた影のような狩人が立っているのが見えた。てかさ、この矢って魔力を凝縮したものじゃん。
ちょっとずるくない?
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