第38話 ダークフレイムさん
ダークフレイムさんには個室で待ってもらい、俺とアイリスは作戦会議をしていた。変なやつが来る可能性は考えていたが、あんな格好のやつが来るとは思わなかった。
失礼な事だが、密室で一緒にいるにはちょっと心の準備が必要である。
「なあ、アイリス……なんかあの呪符とか、仮面とかって魔法的な意味があるのか?」
「いえ、意味はないと思う。だけどあの恰好の冒険者を私は知ってるわ。『常闇の魔法使い』と呼ばれた冒険者がしていたという格好よ!!」
「『常闇の魔法使い』だって……?」
聞きなれない名前に俺は眉をひそめる。というかずいぶんと大仰な名前だな。英雄譚が好きなこともあり、そこそこ詳しいとは思っていたが聞いたことがない。
『申し訳ありません、マスター。私もその名は知りません』
心の中でブリュンヒルデに訊ねると申し訳なさそうな声が返ってきた。戦乙女である彼女も知らないということは結構マイナーな英雄なんだろうか? もしくは、近代の魔法使いなのかもしれない。
「そいつはどんな魔法使いなんだ?」
「パパが冒険者として活動していた時と同時期にいたらしいわ。そこそこ有名なBランクの冒険者だったらしくて、パパと冒険者時代の友人が話していたのを聞いたことがあるの。ちなみに、『常闇の魔法使い』っていうのは自分で名乗っていたそうよ」
英雄でもなんでもなかった!! だけど、Bランクか……深層にいったかどうか微妙なラインだが、かなり優秀な方だといえよう。
彼が本物ならばその知識を借りることができるのはありがたい。
「でも、あんな格好の冒険者見たら忘れないと思うんだけど……俺も三年間冒険者をやっていたが見覚えがないぞ」
「そうよね……何かの理由で冒険者を休止していたのかもしれないわ。結構な歳だろうし……まあ、話を聞く分にはタダだし、聞いてみましょう。ギルドの仲介だから、ランクは本当だろうし、それに……せっかく、アレイスターが依頼してくれたんだしね」
そう言ってちょっと嬉しそうにアイリスが微笑む。喜んでももらえて素直に嬉しい。
そうだよな……それにセイロンさんが俺に紹介をしてくれたのだ。服装はあれだが、問題はないのだろう。
そう思って、個室を開ける。以外にもダークフレイムさんは気品のある仕草で椅子に腰かけていた。
「すいません、お待たせしました」
「ああ、構わないさ。待つのには慣れているからね。それで……『エンデュミオンの館』に行きたいらしいね。まだ六層を攻略中だというのにずいぶんと性急ではないかな?」
俺達の事はセイロンさんから軽く聞いているのだろう、以外にもまともな質問をしてくる。そして、その視線は俺ではなく、アイリスを見つめていた。
彼女服装から魔法使いだと察したのだろう。どこまで説明すべきか……と思っているとアイリスが口を開く。
「ええ、それはわかっています。だけど、私はどうしても『エンデュミオンの館』を攻略しないといけないんです。多少は無茶でも進むって決めたんです」
「ふふ、若いね……だけど、それにパーティーメンバーを巻き込むのはどうかと思うよ。『エンデュミオンの館』は君の想像以上に難易度が高い。見た所そっちの少年は魔法を使えないんだろう? 死んじゃうかもしれないんだよ」
「それは……」
「冒険者になる時点で多少は覚悟をしていますよ。それに、俺はアイリスの力も自分の力も信じています。俺は彼女のためだけじゃないです。俺が彼女と冒険をしたいから一緒に挑戦をすることを選んだんです」
言いよどむアイリスの言葉を引き継いだ。そう、これが俺の意志だ。アイリスのためだけじゃない。俺のためでもあるのだ。
そして、俺達の様子を見て……ダークフレイムさんが仮面の奥でふっと笑った気がした。
「いい仲間を持ったね。君達の覚悟はわかったよ。では、早速行こうか?」
「え、行くってどこに……?」
キョトンとした様子でこたえると、ダークフレイムさんは何をいっているんだとばかりに返事をする。
「『エンデュミオンの館』に決まってるじゃないか。百聞は一見に如かずっていうだろう? あそこは口で説明してもわからないからね」
そんな事を言いだしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます