第37話 アイリスの気持ち

 そして、アイリスの案内で魔法使いがよく使うというショップに連れて行ってもらう。いくつもの種類の杖や、何に使うかわからないような黒い粉などがおいてある。



「ねえ、アレイスター……パパは私に冒険者をやめてほしくてあんな課題を出したのかしら?」



 物珍しいものを色々とみていると少し弱々しい声色でアイリスがそんなことを聞いてきた。『エンデュミオンの館』の秘密を聞いて少し不安になったのかもしれない。

 彼女が聞いてくるのもよくわかる。予想以上の難易度だったからだ。



「それはどうだろうな……少ししか話していないけど、デュナミスさんはそんな意地悪をするような人には見えなかったけどな」

「でも……パパはやっぱり私に冒険者になってほしくないのよ……」

「でもさ、本当にアイリスを連れ戻したいんだったらさ、わざわざその杖を渡したりはしないだろう?」



 アイリスがデュナミスさんから借りた魔力制御の杖を指さした。わざわざあの人がアイリスに杖を渡したのは頑張ってほしいという事なのではないだろうか?



「でも、これって勝手に決められた私の婚約者から借りてるのよね? だったら、これを私が使った時点で大きな借りにならないかしら……」

「う……確かに……」



 アイリスの最もな指摘に思わず言葉が詰まる。そうなんだよなぁ……デュナミスさんはどんな条件で婚約者から杖を借りてきたのだろうか?



「まあ、そこはデュナミスさんが何とかするだろ。俺達は『エンデュミオンの館』を攻略することを考えようぜ」

「まあ、そうね……そこからよね。とりあえずこれをもらうわ」

「おお、すげえ量だな。お嬢ちゃん達はしばらくダンジョンに籠るのかい? ちょっとだけサービスしておいてやるよ」

「まあ、そんなところよ。ありがとう。『絶対』にまた来るわね」



 大量の魔力回復ポーションを見て、店主のおっさんが驚きの声を上げる。確かにすごい量だが、アイリスのやつずいぶんと買いためしたな……まさか、一発撃つごとに回復するつもりなのだろうか……? 確かにそうすれば理論上は『暴走魔法』をもつ彼女でも魔法を撃ち放題だが……お腹むっちゃたぷたぷになりそう。



「行くわよ、アレイスター。エンデュミオンの館絶対クリアしてみせるんだから!!」



 そう言って気合を入れて、大量の魔力回復ポーションの入った革袋を持つ彼女を見て思う。アイリスは本気で課題をクリアするつもりなのだ。

 魔力回復ポーションは決して安いものでは無い。これだけの量を買ったのだ。おそらく、冒険者として稼いだ金のほとんどをこれに費やしたのだろう。そして、彼女は『絶対』という言葉に力をいれて店主に答えていた。

 俺はもしかしたらとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。



「なあ、アイリス……宮廷魔法使いにはならなくていいのか?」

「何よ。私には無理だって言いたいの? 私のスキルは確かに扱いが難しいかもしれないけど、使いこなせれば最強なんだから!!」



 俺の言葉に彼女が不満そうに頬を膨らませるのを見て、勘違いされていることに気づいて慌てて説明する。



「違うって、だって、アイリスは宮廷魔法使いになりたかったんだろ? 冒険者になりたかったわけじゃなかったはずだ。だから、その……杖の力とはいえさ、宮廷魔法使いになれるチャンスがあるんだったら、そっちに行くのかなって思って……」

「もう……そんな事思ってたの? だから、宮廷魔法使いを目指せ何て言ったのね」



 彼女は大きくため息をついてから、顔をあげる。その表情は先ほどよりも明るい。



「そうね……私も最初は冒険者何て、パパへの当てつけだったわ。だけど……自分だけの力で戦って……こうして、仲間ができたり、色々な冒険ができて楽しかったのよ。今は冒険者である自分を誇りに思っているわ。そして、そう思わせてくれたのはあんたなのよ」



 どこか得意げに笑う彼女を見て俺はとてつもない思い違いをしていたと気づく。彼女は本気で冒険者を続けたがっていたのだ。



「アイリス、俺も持つよ」

「でも、これは私の……」

「頼む……持たせてくれ。パーティーは助け合うものだし、俺もまだお前と冒険を続けていきたいんだ。だから肉体労働くらいはこっちに任せてくれよ」

「アレイスター……」



 俺の言葉に彼女は大きく目を見開いてにこりと笑った。



「しょうがないわね!! 落としたりしたら許さないんだから!!」

「ああ、それならば心配はないさ」



 無茶苦茶嬉しそうなのは気のせいではないだろう。何か勘違いさせていたのかなと思いつつ、アイテムボックスに革袋ごといれると、アイリスが信じられないとばかりに頭を抱えた。



「まさか、そんなものまで召喚してたの? ちょっとずるくないかしら?」

「俺の『マイナス召喚』はすごいだろ。それよりも、ちょっと冒険者ギルドによっていいか?」

「別にかまわないけど……」



 アイリスに軽口をたたきながら冒険者ギルドへと戻り、セイロンさんの元へと向かう。



「すいません、お願いしていた件はどうだったでしょうか?」

「ええ、ちょうど話をしてくださる方が見つかりましたよ。『エンデュミオンの館』を攻略した方はあまり多くなかったので幸運ですね」

「アレイスター、どういうことかしら?」

「ああ、直接話を聞いた方が良いと思ってさ、セイロンさんに、依頼をしておいたんだよ」



 驚いている様子のアイリスににやりと笑う。実際どういう風に攻略をしたかがわかればアイリスの戦い方の参考になるかもしれないしな。

 あとは……話をしてくれる人が気難しい人じゃなければいいんだが……偏見だが冒険者ランクが高ければ高いほどちょっと変わった人が多い気がする。



「あ、ちょうどいらっしゃいましたよ」

「Bランク冒険者ダークフレイムだ。よろしく頼む」

「ああ、よろしくおねがいしま……す?」



 そう言って俺に挨拶を返したのは顔に仮面をして、全身に包帯を巻いて、何やら幾何学模様の札を服のあちらこちらに貼っている人物だったのだ。

 明らかに偽名だし、なんかやばそうな人がきちゃったぁぁぁぁ!!

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