第19話  黄昏の行方

「なるほど……サハギンロードですか……そんなバカな……と言いたいですが、アレイスターさんの言葉ですし、証拠もあるので信じざるおえませんね……」

「はい、重傷を負っていたから何とか倒す事が出来ましたが、無傷だったら俺は帰ってこれなかったかもしれません」



 ダンジョンから帰還して、今回の件を報告すると、セイロンさんは険しい顔をして眉をひそめた。まあ、そりゃあ、そうだよな。

 サハギンロードといい、ミノタウロスと言いイレギュラーな件が連続しているのだ。ギルド職員としては頭が痛い事だろう。これは悪魔の事は言わない方がいいな……それに……ブラドの情報もどこまで信じていいかわからないし……



「他の冒険者達にも異変がなにかあったらすぐに報告し、撤退することと、上位冒険者には魔物の仕留め損ねに気を付けるように注意をしておきます」



 セイロンさんは硬い表情で何かをメモするとすぐに同僚に手渡した。俺の報告が緊急性が高いと判断してくれたのだろう。



「でも……アレイスターさんが戻ってきてくれて本当によかったです。難しいクエストもこなして、イレギュラーにも対応して……本当に強く……立派な冒険者になりましたね。でも、あんまり無茶をしたらだめですからね」



 先ほどまでの硬い表情はどこにいったやら、セイロンさんがほっと一息ついてほほ笑んでくれる。注意こそしているものの、俺の成長を本気で喜んでくれていることがわかり嬉しい。



「はい、ありがとうございます。セイロンさんの笑顔を見たいんで絶対帰ってきますよ。」

「もう、アレイスターさんってば変な事を言って!!」

「いつもからかわれているお礼です。それに……俺には英雄になってセイロンさんって言う美人な受付嬢にお世話になってっていう仕事もありますからね。だから安心してください」

「くうー、今回は私の負けですね……」



 顔を真っ赤にしているセイロンさんにそう告げて、俺が受付を後にすると、同時に冒険者ギルド全体がざわめいた。

 何だろうと思って入り口に視線を送ると、三人組の冒険者が入ってくるところだった。しかも、ただの冒険者ではない。



「『黄昏の行方』か……」



 金色の鎧を身に着けた壮年の男は『不死身のガウェイン』。魔力の篭った大剣と、巨大な盾を扱う戦士である。もう一人は、紺色のローブが見に纏い歩くたびに精霊の加護をしめす煌びやかな光を放っている女性『大賢者マーリン』。彼女は魔法使いが使う魔法と、神官たちが使う法術の両方を使いこなすことができるらしい。そして、最後にはの一人が彼らの後ろからやってきたフリーレンだ。

 この街最強パーティーの三人は下層から帰ってきたのだろう。装備こそ汚れているが、どこか誇らしげで……ギルドの中の人間が彼らの帰還を祝福している。

 そして、フリーレンと目が合うと、彼女はこっそりと小さく俺に向けて手を振ってくれた。この前のようにフリーレンだけの時ならばともかく、彼女がパーティーでいるときには、かつての俺は彼女達を見ているとどこかみじめになってしまい、手を振り返すことが出来なかったが……今ならばと、手を振り返す。



「……!!」



 すると彼女の目がパーッと見開かれて、嬉しそうに微笑んでくれた。せっかくだから、挨拶もしよう。そう思って口を開こうとすると……

 予想外の人物に話しかけられる。



「なるほど……貴公か!! 上層に迷い込みし、サハギンロードを倒したって言う冒険者は!! 新しい英雄候補という事かな?」

「え? 俺ですか? いってぇ!!」



 どこか芝居がかった口調でガウェインが肩を叩きながら話しかけてきたのだ。もちろん同期のフリーレンはともかく、彼とは冒険者ギルドで時々見かけたくらいで接点なんてない。

 いきなりの事に驚いていると、フリーレンが割って入ってくれる。



「ガウェイン……アレイスターが迷惑がっているじゃないの。やめなさい」

「いや、大丈夫だよ、フリーレン。ちょっと驚いただけだからさ」

「おやおや、失礼したな。お嬢。久々に見所のあるやつを見つけたなって思ったから興奮を抑えきれなかったのだ。ふふ、それにしても……彼がいつもお嬢が言ってたアレイスターなのか。この出会い神々の悪戯であると感じずにはいられないなぁ!!」



 顔をしかめて注意するフリーレンの言葉を笑い飛ばすと、彼は俺を見つめて、意味ありげに笑う。フレーレンが俺の事を言っていただって? 彼女は一体どんな事をはなしていたのだろうか?

 どういう事だろうと、彼女を見つめると、顔を赤らめながら余計な事を言うなとばかりにガウェインを睨みつけていた。ちょっと、こわい。



「こーら、ガウェイン。私の可愛い妹をからかわないの。アレイスター君もごめんなさいね。ちょっと頭がおかしいのよ、この人」

「フッ、天才とは常人には理解できないものさ」



 マーリンの辛辣な言葉にガウェインはなぜかキメ顔でウインクをする。確かに俺には彼の思考は理解できなそうである。

 いきなり最強パーティーの人々に絡まれて俺は苦笑していると、当然のように注目を浴びるわけで……最近いきなり俺が調子よくなったのが気に食わないのか、妬みの声が聞こえてくる。



「また、アレイスターかよ。くっそ、たまたまレアな魔物を倒したからってセイロンさんにもきにいられやがって……」

「そうだぜ。『黄昏の行方』に話しかけられて調子に乗ってるんじゃねえか?」

「そうだ。そうだ。『万年チュートリアル野郎』がフリーレンをだましているんだろ」



 いつの間にか、俺は嫉妬する側から嫉妬される側になったようだ。声を上げているのは中層にいけないで燻ぶっている連中である。

 『万年チュートリアル野郎』と見下していた俺が、どんどん強敵を倒し、有名パーティーにまで声をかけられたのがよっぽど気に入らないのだろう。まあ、こういうのは放っておけばいいと思っていると目の前のフリーレンが不快そうに眉をひそめ、ガウェインがそれを聞いてにやりと笑った。



「あなたたち……」

「おや、アレイスター君。君はまさかお嬢の気をひくために虚言を吐いたということなのか? それはいただけないなぁ。彼女は腕は立つが騙されやすく純粋なのだ。ああ、嘆かわしやフリーレンよ。愚かにも騙されてしまうとはな」

「は?」



 冒険者たちに怒鳴りそうになったフリーレンの言葉を遮ってがガウェインはどこか芝居がかったように言った。

 いきなりの事に俺は困惑してしまう。



「ガウェイン……アレイスターは嘘を言っていない。だって……」

「はい、はい、フリーレンはちょっと黙ってなさいな」



 俺の代わりに文句を言おうとしてくれたフリーレンは言葉の途中でマーリンに手によって口を封じられる。というかなんだそれ……? なんでフリーレンが馬鹿にされるようなことを言われているんだ。彼女は何年間もくすぶっていた俺を信じ続けてくれていて……

 今も俺のために怒ってくれたのだ。なのに……このままでいいはずがないだろう!!」



「ガウェインさん……俺を信じられないのは別にいいんです。でも、俺を信じてくれたフリーレンをばかにするのはやめてください」

「ほう……」



 俺の言葉にガウェインの瞳が楽しそうに輝く。



「よくぞ文句を言ったな少年!! だが、我々は冒険者だ。口ではなく、拳で彼女の潔癖を証明するべきだと思わないかね?」

「それは一体どういう……」

「私と勝負をしないかということだよ? もちろん、ハンデはつけよう。君とて、このまま言われっぱなしでは癪だろう? 君が勝てば私は全裸で『アレイスター君とフリーレンを馬鹿にしてごめんなさい』と街中を叫びながら歩くとしよう」



 いきなりの提案にマーリンも止めはしない。つまり……異論はないということだ。正直彼女を馬鹿にした彼らを許せはしない。



 それにこれは……チャンスだ。



 圧倒的な強敵との戦い。なのに俺の心は高揚してた。俺はマイナス召喚に目覚めて強くなったと思う。だけど、どれくらいの立ち位置なのかわからないのだ。そして、彼らと……英雄と呼ばれている彼らとどれくらいの差があるかもわからないのだ。今の俺の力がどれくらい届くのかみてみたい。俺の冒険者としての本能がそう思ってしまったのだ。

 それに悪魔と戦う機会があるかもしれないのだ。深層に言っている彼の実力を知るのは今後の役にも立つだろう。



「ガウェイン何を言って……」

「大丈夫だ。フリーレン。ガウェインさんよろしくお願いします。その代わり全裸云々はどうでもいいので、俺が勝ったら彼女にあやまってください」

「ほう、いい目をしている……女性の名誉のために戦うとは。その意気やよし!!」



 その言葉と共に圧倒的なまで圧力が目の前の男から発せられる。そうして、ギルド最強と元万年チュートリアル野郎の戦いは始まった。




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トップクラスの冒険者にアレイスターくんはどう戦うのか?


お楽しみに。





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