第20話 決闘

「うおおおお、決闘だぁぁl!!」

「アレイスターの野郎と、ガウェインだぁぁぁ!! 一方的にやられるなよ、アレイスター!!」



 冒険者ギルドにいた連中が面白そうに騒いでいる。普段ならば賭けも発生するのだが、今回はあまりにも実力が離れているからだろう。特にそういう雰囲気はない。

 俺の勝利を信じてくれる人はいないのか……とちょっと悲しくなっていると、声援が聞こえてきた。



「なんだか、わからないですけど、頑張ってください、アレイスターさん」



 おお、セイロンさんだ。ギルド職員なのに止めなくてもいいのかとか、仕事中じゃないの? と突込みを入れたくなるが、応援してくれることは嬉しい。

 そして残りはというと……



「大丈夫……アレイスターならきっとできるわ」

「うふふ、じゃあ、私も、アレイスター君を応援しましょ。フレーフレー、アレイスターくん♪」



 俺を熱心にみつめてくれているフリーレンと楽しそうにしているマーリンさんである。いや、ガウェインがちょっと可哀そうじゃない? と思うが「ああ、アウェーの状況で勝つ姿こそが英雄である」と楽しそうに笑っている。くっそ、ポジティブだな……

 そして、彼は俺を見つめると勝負の条件を言った。



「五分だ。今から五分の間に私に一撃でもかすらせれば君の勝利だ、もちろんその間は私は手を出さない。いいね」

「手を出さないって本当に良いんですか?」

「ふふふ、表層の冒険者が私に勝てるとでも?」

「な……」



 その一言と共にガウェインの雰囲気が変わる。ただそこにいるだけなのにすさまじい威圧感に襲われる。それはサハギンロードと相対した時よりも圧倒的で……



『マスター!! これまでをお思い出してください。あなたは常に格上とばかり戦ってきたのでのでしょう? 今さら何を怖気づいているのですか!!」



 ブリュンヒルデの言葉に俺は平静を保る。ああ、そうだ。俺は万年チュートリアル野郎とばかにされていて、それでもミノタウロスや、サハギンロードとだって戦ってきたのだ。

 これまでの努力は無駄にしていいものか!!



「では始めるとしようか!! 勝敗はスキルでのみ決まらず!!」

「ぶ、武器だけでも決まらず!!

「「ただ結果のみで決まる!!」」



 冒険者同士の決闘時の口上をかわして俺は斬りかかる。大丈夫、今の俺ならこの程度のプレッシャーに飲まれたりはしない。



「うおおお!!」

「ほう、表層の冒険者にしてはいい動きだ。だが、それだな。我々の領域には程遠い」



 ガウェインは重そうな鎧を身に着けているというに、俺の一撃を紙一重でかわし続ける。実戦だったら何度ころされていたかもわからない。



「どうしたのだ、アレイスター君。こんなものかな? キミも持っているのだろう、ユニークスキルを。英雄に至る可能性を!! ここで見せずにいつ見せると言うのだ!? 遠慮せずにきたまえ、私はこのギルド最強の冒険者の一人だぞ!!」



 彼の目には嘲るような瞳は無い。むしろ、俺が予想もつかないことをやるであろうことを期待している。そんな口調だ。

 そもそもだ。この戦い自体も彼にはメリットなどは無いのだ、むしろ、俺のために……俺を馬鹿にした連中を見返すきっかけをくれた気がする。

 だったら……お言葉に甘えよう。


 

「愛しき我が守護者よ、仮初の力を与えん『戦乙女(ブリュンヒルデ)の寵愛』!!」

「なんと!! 雷を解き放つか!! 中々面白い。だがそれだけだな!!」



 俺が奇襲気味に放った雷を彼は剣を抜き振るうと、その刃に纏わせて、いなした。魔法すらも通じないのかよ。だけど……本命はそっちじゃない。



「雷光突き!!」



 本当にわずかだが、相手の動きがぶれたのがわかる。俺はそのタイミングで憧れの英雄をこれまで模倣してきた突きを放つ。

 その一撃にガウェインは目を見開いて……そのまま彼の身体を貫く……ことはなかった。なぜならその前に俺の顎に激痛が走ったからだ。


「ぐぇえ……」


 そのまま脳が揺れる感覚に襲われて、倒れこんでしまう。なにがおきたんだ?



「ちょっと、ガウェイン!! 手は出さないっていったじゃないの!!」

「はっはっはー、だから手は出していないぞ。私が出したのは足だからなぁ!!」



フリーレンの文句と共に、あたりに歓声が響き渡る。確かに言ってはいなかったけどさぁ……的確に脳を揺らす一撃によって、俺は立ち上がることができずに結局勝つことはできなかった。

 だけど……決して何も手が出なかったわけではない。俺は必死に自分に言い聞かせる。そして、意識がどんどん暗転していくのだった。





「アレイスター……大丈夫かしら? 痛むようなならもうちょっと体を休めた方がいいわよ」



 目を覚ますとフリーレンの心配する声と共に彼女の良く通る声が耳に入った。そして、ここは冒険者ギルドの個室だろうか? 頭の下に柔らかい何かが置かれているのがわかる。

 目を開くと、心配しているかのような彼女の顔が正面から映る。



「これは……膝枕……?」

「うん……こうすると男の人は元気になるって聞いたから……どうかしら?」

「ああ……ありがとう。元気になるよ」



 予想外のことに驚きながらも俺は彼女の柔らかい膝枕にその身をゆだねる。



「アレイスターはちゃんと強くなってるわね。すごかったわよ……」

「でも、まだまだだよ……今日だって、ガウェインさんに歯がたたなかった。そうだろ……俺は、君のライバルだって言うのに……」

「うふふ、私は、アレイスターがあの時に約束を覚えてくれて、頑張ってくれているだけでで嬉しいんだから……それに私のために戦ってくれたでしょう? 英雄譚の英雄みたいでかっこよかったわよ」



 彼女はクスリと笑って軽口をたたく。英雄というのは、共に英雄を目指す俺と彼女の間での最大の褒め言葉である。



「それに、大丈夫。あのガウェインに一矢報いたのよ。アレイスターはちゃんと強くなってるわ。きっと他の冒険者ももう、あなたを馬鹿にしたり何てしないと思う。それにね……こんな話を聞いたことがあるわ。ユニークスキルは最初は弱い能力ならば、弱いほど進化した後に強力な能力を手に入れることができるって……それががんばった人への神様のご褒美なんだって。だからあなたはもっと強くなれると思うわ」

「ご褒美か……確かに、今俺はすごいご褒美を持っている気がするよ」



 

 フリーレンがクスリと可愛らしく笑う。冒険者ギルドの高嶺の花である彼女にこんなことをされていると知られたらさらに、嫉妬されそうである。



「うふふ、こんなのでいいならいつでもするわよ?」



 そういうと彼女は優しく俺の頭をなでてくれる。ああ、そうだ。俺は強くなって……英雄になるのだ。かつて泣いていた彼女との約束を守るために。

 俺はもっと強くなる。いや、なってみせる。



☆ ☆ ☆


「流石はガウェインだ。アレイスターを圧倒したぞ」

「だけど、アレイスターも強かったよな。雷魔法に、最後のつきはやばかった」



 冒険者たちがざわざわと騒ぐ中ガウェインはにやりと笑う。予想通りである。アレイスターとガウェインが戦っているのを見て一部の冒険者たちが彼の強さに気づいたようだ。

 わざわざ悪役を買って出たかいがあったというものだ。



「お疲れ様、ガウェイン」

「ああ、お嬢は今事彼と一緒かな」

「ええ、ちゃんとフォローしときましょうね。で……実際彼はどうだったのかしら?」



 マーリンの言葉にガウェインは自分の意図を完全に分かったうえで自由にさせてくれた彼女ににやりと笑う。



「基礎ができているいい動きだったよ。外れスキルだったと言われても、腐らずに鍛錬をこなしていたのだろうね。そして……力を得てからもそれにおごらずに鍛錬を続けてきたのだろう」



 酒が飲めない彼はブドウジュースのの入ったグラスをどこか気障っぽく口につけながら感心したように言った。ステータスとは違いああいう動きは実践の経験と訓練でしか手に入らない。

 そして、周りからおいていかれても、努力し続ける大変さも、力を得ても今までのうっ憤をはらすように増長しないことの難しさをガウェインは誰よりもそれを知っている。



「そうね、だって、あなたが一瞬とはいえ本気を出さなきゃ負けていたものね」

「流石は我が愛しの君。気づいていたか……」



 からかうようなマーリンの言葉に彼は苦笑する。実際、ガウェインは剣を抜くことは想定してたが、本気で反撃をするつもりはなかったのだ。

 だけど、彼は足を出してしまった。いや、出させられてしまった。彼をそこまで追い詰めることができるのはAランクならばともかくBランクの冒険者でも一握りだろう。



「正直フリーレンと同じユニークスキル持ちだ。隠し玉の一つは想定内だった。だけど、最後のあのつきは予想外だったよ。まるで君がかつて語っていた先祖。ベアトリクス様を想像される一撃だった」

「そうね……彼は幼い時に父が孤児院に訪問した時に手本として見せたいたのを覚えていたんでしょうね。おそらく、英雄にあこがれて、ひたすら模倣して我が物にして必殺技に昇華させたかしら」



 それがどれだけすごいことなのかはアレイスターですら気づいていないだろう。あれは確かにマーリンやフリーレンの父の放った一撃を彷彿とさせた。



「ふふ、彼はこれから伸びるだろうね。願わくば、フリーレンのよき仲間になってくれるのを願うよ。あの子は暴走しがちだからね」

「そうね……フリーレンの英雄の呪縛から解き放ってくれたらいいんだけどね」



 フリーレンがアレイスターを運んでいった個室を見る目はどこか暖かく優しい。そして、彼女は大げさに溜息をついた。



「でも、まずはあの子の機嫌を取らないと。お菓子だけで許してくれるかしら?」

「ふむ……仕方ない。お嬢には私のとっておきののろけ話をしてやるとしよう」

「余計機嫌がわるくなるからやめて……」

「ふむ……女子はコイバナが好きと聞いたのだが……」

「普通は身内の恋話なんて聞きたくないのよ……」



 二人は可愛がっているフリーレンの機嫌をとることを話し合うのだった。




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実はフリーレンちゃんもヒロインなんですよ?

出番が少ないですが……


決闘は水星の魔女の影響ですね……くっそおもしろいけど、どうすんだろ。あの後……









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