第13話 ランクアップ
「アンナ、アンナ!!?」
「う、うぅん……」
沼地に戻るとリッドという少年が大騒ぎで、出迎えてくれる。少女がうめき声をあげたのを聞いて気が抜けたのか、嬉し泣きをはじめた。
そんな彼らを微笑ましいものをみるように見つめていると、軽装の少年が頭をさげる。
「アレイスターさん、本当にありがとうございました。おかげで僕たちはまた三人で冒険を続けられそうです」
そう言う彼の声は半分涙声になっており、先ほどアンナを見捨てるような事をいったのも本心ではなかったということがわかる。
「ああ、気にするな、それよりも慣れない階層に来た時はあんまり無理をするんじゃないぞ」
「はい、俺……三層にこれたのが嬉しくてつい……それで、魔物に襲われてみんなをピンチにしちゃって……」
俺がアンナに回復薬を与えていたリッドに注意すると彼は悔しそうにその顔を涙でにじませた。どう声をかけようかと思っていると、軽装の少年が口を開く。
「次は絶対許さないからな!! 気をつけろよ。リーダー。あと、アンナが目を覚ましたらちゃんと謝るんだぞ」
「ああ、もう、絶対しないよ……でも、俺がリーダーでいいのか?」
「当たり前だろ。このパーティーのリーダはお前しかいないんだからさ」
そんな風なやり取りを聞いていると、これが仲間か……と、ずっとソロでやっていた俺からすると少しまぶしく見える。
そうして彼らが落ち着いた所で口を開く。
「とりあえずは大丈夫そうだな。じゃあ、俺は行くな」
「あの……アレイスターさんはソロなんですよね? よかったらですけど、俺達はまだ三人ですし、パーティーに入ってもらえませんか?」
彼らに別れを告げると予想外な提案に驚かされる。パーティー勧誘か……ソロで活動していた時にずっと欲しかった言葉だ。
少し前の俺ならば、喜んで受けたかもしれない。だけど、今は……鞄に入っているブリュンヒルデのカードに一瞬視線を送る。
「ありがとう、だけど、俺はしばらくは一人で冒険者を続けるよ。悪いな」
「いえ、こっちこそ、図々しいお願いをして申し訳ありませんでした。今度冒険者ギルドでご飯でもおごらせてください!!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
そう言って、俺は彼らと別れてしばらく歩いてからブリュンヒルデを召喚する。そうして現れた彼女はなぜか申し訳なさそうな顔をしている。
「どうしたんだ、ブリュンヒルデ?」
「マスターがパーティーの勧誘を断ったのは私のせいでしょうか? 私がそのスキルは人にあまり見せないほうがいいと言ったから……」
「それは違うよ。ブリュンヒルデ」
ああ、そうか、彼女は自分の言葉に責任を感じていたのか……俺は誤解を解こうと彼女を安心させるように微笑む。
「俺がさっきパーティーの勧誘を断ったのはさ、ちゃんと自分の意志だ。せっかくスキルが新しい能力に目覚めんだ。まだまだ色々と試したいし、パーティーを組めばレベルアップの効率も下がる。それに、お前の言う通りこれは強力な力だ。だから、信頼できる人間にしか打ち明けない方が良いっていうのは俺も同意見なんだよ」
魔王や勇者などを召喚できることはもちろんの事、今一緒にいるブリュンヒルデだって強力な存在だ。それに今召喚したばかりのカイニスの靴だって、本来ならば中層で手に入るようなレアアイテムである。
この力をドドスコ達のような奴らが知れば悪用しようとしてくるに違いないだろう。そして、もう一つの理由は……俺は恥ずかしさをこらえながら言葉を続ける。
「それにさ……俺はもう、ブリュンヒルデっていう大切な仲間がいるからさ……君のことを隠してまでパーティーを組みたいなんて思わないんだ」
「マスター!!」
感極まったらしいブリュンヒルデが抱き着いてくる。柔らかい感触が俺をおそわ……れないな……甲冑をつけているからか、金属の感触しかない
少しがっかりしながらも彼女が落ち着くのを待って帰還した。ブリュンヒルデの加護っていうのも気になったが、流石に体力の限界である。
冒険者ギルドを開けると、ざわっというざわめきと共に俺皆が見つめるのがわかった。一体何なのだろう? いつものような馬鹿にされている雰囲気とは違う。彼らの瞳にあるのは困惑と驚きだ。
不思議に思いながらもサハギンの鱗を持ってセイロンさんの所へ行くといつものように笑顔で迎えてくれる。
「すいません、クエストを終わらせたのですが……」
「アレイスターさん、おかえりなさい。待ってましたよ!!」
いや、いつも通りじゃないぞ。なんかテンション高いし無茶苦茶嬉しそうだ。一体どうしたんだ? と思っていると彼女が笑顔のまま言葉を続ける。
「リッドさんから報告を受けてますよ。彼らを助けたそうですね。しかも、その時にたった一人でサハギン達を倒したらしいじゃないですか!! すごいですよ、アレイスターさん!! サハギンはゴブリンや魔狼よりもはるかに強力な魔物だって言うのに!!」
「ああ、そのことですか。それは……セイロンさんがくれたメモのおかげですよ。すっごいわかりやすかったですから」
スキルの事を言うわけにはいかないこともあり、俺はちょっと誤魔化す。まあ、実際セイロンさんのおかげでサハギンは倒せたと言うのは嘘じゃないしな。
「ふっふっふ。そう言っていただけると私も頑張った甲斐があるというものですね。アレイスターさんが有名になったら美人受付嬢のおかげですって答えてくださいね。それと嬉しい報告があるんですよ」
どや顔で言うセイロンさんに自分で美人って言っちゃうんだと苦笑する。まあ、実際美人なんだけどさ。
そして、彼女が俺の目の前に銅色のプレートを置いた。これはまさか……
「セイロンさん、これって……?」
「はい、おめでとうございます。今回の冒険者救助及び、サハギン達を軽くあしらう目撃情報により、アレイスターさんの冒険者ランクのアップが決定しました!! これで冒険者ギルドと提携しているお店では安く買い物ができますし、一つ上のCランク任務も受けることができますよ。いえーい、パチパチパチ」
「俺がDランクに……」
冒険者ランクはFからSまである。最低限の基本を学んで見習いを卒業し、ダンジョンに入るのが認められるのがEランクで、そこからクエストをこなしたりしていくと、D→C→B→Aと上がっていくのだ。俺は三年間ずっとEランクで燻ぶっていたのだ。それがようやく……達成感と共に胸が熱くなり、その熱が瞳に映る。
「あれ? アレイスターさんここは大喜びをするところですよ。あ……」
「ああ、すいません。つい嬉しくて……あはは、おかしいですよね? たかがDランクに上がったくらいでないて……」
いきなり押し黙った上に泣いてしまった俺を見て、セイロンさんが驚いた声を上げる。ああ、そうだよな。Dランクは本来冒険者になってそんなに苦労するようなランクじゃない。だけど、俺は嬉しかったんだよ。本当に嬉しかったんだ。
何とか涙をぬぐおうとしていると、セイロンさんがそっとレースのついたハンカチを差し出してくれた。
「おかしくなんてないです。嬉しい時は泣いていいんです。それに私はアレイスターさんがとっても努力をしていたのを知っていますから。頑張りましたね」
「はい……ありがとうございます」
「それにですね……アレイスターさんの様にスキルの覚醒が遅い人は他にも稀にいるんですが、そういう人ほど強力な力を得ることができるっていううわさ話もあるんです。だから……私はアレイスターさんなら本当に英雄になれるって信じてますよ」
彼女の優しさに感謝しながら涙をぬぐう。ハンカチからは柑橘系の心地よい匂いがするのが印象に残った。
落ちついた俺はテーブルの上で新しい冒険者カードを眺めていた。うふふ、ようやくランクアップか……俺はあらためて自分が強くなったことを実感する。
「こういう祝い事の時には仲間と酒を飲むんだけどな……」
あいにく、ソロな上に馬鹿にされていた俺には一緒に祝ってくれるような気安い仲間はあまりいないのである。
「まあ、一人酒って言うのも悪くはないか。流石にこんなんで彼女を召喚したらダメだよな」
ブリュンヒルデを召喚するわけにもいかず、いつもよりも高い酒を頼んで一人で楽しむ。このユニークスキルを恨んだ時もあったが、このスキルのおかげで俺は強くなれたのだ。ながかったけど、無駄じゃなかったんだ。
ふと冒険者になりたてのときのことを思い出していると、人の気配を感じて振り返る。
「アレイスター、ランクアップおめでとう」
「アイリス?」
いつものようにちっこいアイリスが赤色の液体の入ったワイングラスを持って、笑顔を浮かべていて立っていた。珍しく機嫌のよい彼女に俺が驚いていると、彼女はじーっと見て、コホンと咳ばらいをするとこういった。
「よかったらお祝いにおごらせてくれないかしら? ちなみに酒は飲めるのか? とかいったら怒るわよ」
「なんでいきなり喧嘩腰になるんだよ。でも……ありがとう。ついでに飯もおごってくれ」
「あんたね……まあ、この前のお礼もあるしいいわよ」
そうして、俺達は二人で祝宴を開くのだった。ちょっとだけど理想の冒険者に近付けて嬉しかった。ちなみにだが、アイリスの飲んでいるのはブドウジュースだったが、下手にからかうとこわいのでスルーしておくことにした。
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これでアレイスターくんの冒険者ランクアップ!!
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