第12話 英雄への一歩と新たなる力

 俺が急いで悲鳴の聞こえたほうへと走って行くと、負傷しながらもサハギンに囲まれて戦っている二人組の冒険者が目に入った。

 鎧を身に着けた少年と、ローブを身に着けた少年だ。名前は覚えていないが、昔に一度一層を案内したことのあるやつらだ。確か普段は三人でパーティーを組んでいたはずだが……



「こっちだぜ、クソ魚!!」

「ギョギョ!?」



 嫌な予感がした俺は注意を惹き付けて振り向いたサハギンの眼球目掛けて突きを放つ。ステータスも上がり、ブリュンヒルデの指導と実戦経験を積んだことによってあっさりとサハギンを片付ける。



「アレイスターさん!? なんでこんなところに!?」

「てか、無茶苦茶強くなってる!?」



 万年チュートリアル野郎だった俺が自分たちが苦戦していた相手をあっさり倒したのに驚いたのか、彼らは驚愕の声を漏らす。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。



「そんな事はいいから状況を説明してくれ!! いつも一緒にいる女の子はどうしたんだ?」

「ああ、そうだ。アンナが……調子に乗って沼に近付いて負傷した俺を治療しようとして……」



 鎧を身に着けた少年が泣きながら指さす方向には、一人の少女が沼地の中でサハギン達に引きずり込まれて、運ばれているのが見えた。

 あそこはサハギン達のフィールドである。『沼地のサハギンはミノタウロスよりやばい』という冒険者のことわざがあるとおり、泳ぎながら戦うなどと言う芸当ができない人間では助けにいっても殺されるだけだろう。

 だが、サハギンの巣に連れていかれた彼女の未来は明るくない事も確かだ。



「アレイスターさん、助けてくれてありがとうございました。あとは俺達で……」

「リッド!? 本気で言ってるのかよ。あんなところにつっこんでいったら……」



 少年たちの間で言い争いを始める。ああ、そう言えば、この少年たちは俺を馬鹿にしたりしていなかったなと思い出す。



『マスター、どうしますか?』

「行ってみるよ。いざという時は俺を助けてくれ」

『はい、お任せください!! マスターのそういう所、素敵だと思いますよ』



 ブリュンヒルデは嬉しそうに、そして、誇らしげに答えてくれる。そして、俺は口論をしている少年たちに声をかけて沼地へと進む。



「大丈夫だ。アンナは俺が助けてやるよ」

「アレイスターさん!?」

「自殺行為です!! パーティーでもない僕達のためになんで……」

「そうだな。それが……俺の目指す英雄だからだよ」


 

 彼らにかっこよく答えながら俺はスキルを使い召喚すべきものを選択する。もちろん、俺に力がなければ、こんなことを言ったりはしない。だけど、今の俺には力がある。誰かを救い英雄へと至る力がな!!


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 ジャンヌの旗  消費LV50

 不死鳥の羽飾り 消費LV40

 カイニスの靴  消費LV15

 魔導王の腕輪  消費LV20

 剣聖の指輪   消費LV20

 ???

 ???

 ???

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 あっぶねえ、ギリギリ足りたぜ。俺はそのカイニスの靴を選ぶと世界が漆黒に包まれると、一枚のカードがその存在を主張するように俺の視界で回転する。そのカードに描かれているのは槍を持った英雄であり、その足が輝き、俺の中にアイテムの情報が入ってくる。


 カイニスの靴


 海の神に強制的に加護を与えられし英雄が身に着けていた靴。その加護によって水面をまるで地面の様に歩くことが出来る。

 カードが消えると俺の足には水色の神秘的なブーツをが装備されていた。そして……俺は躊躇なく沼地を踏みしめる。



「アレイスターさんが水の上を!?」

「ギョギョ!?」


 

 追いかけてくる人間を待ち伏せしていたサハギンが大地と同じように沼の上を歩く俺を見て驚愕の声をあげる。そして、それがそいつの最期の言葉になった。

 俺は一撃でサハギンを貫くとそのまま追いかけようとして……アンナと呼ばれた少女の身体が放置されて徐々に沼地に沈んでいくのが見えた。



「大丈夫か!! あいつはどこへ……」



 アンナが沈む前に引き上げねばと駆け寄っていると、ブクブクと水中から気泡のようなものが見え……



『マスター!!』

「わかっている!! 大丈夫だ!!」



 水中から繰り出されるモリをかわして、沼地の中からこちらを覗いている顔めがけて、反撃し相手の目を貫いて絶命させた。サハギンが沼地に獲物を誘い込んで、水中からの奇襲を得意技とするというのは本当の事の様だ。



 危なかった……セイロンさんのメモを読んでいなかったら引っかかっていたかもしれない……



 俺は彼女と心配してくれたブリュンヒルデに感謝しながらアンナを拾い上げる。口元に手を置くと息はあるようだ。



「よかった。無事なようだな……」

『そうですね、マスターが救ったんです。自分のレベルが下がると言うのに召喚した上にこまっている人間を命を救うその姿まさしく英雄です!! やはり私の目に狂いはありませんでした」



 べた褒めするブリュンヒルデに照れくさくなりながらも、俺は彼女を背負って少年たちの元へと戻る。その時、背中に柔らかい感触を感じ少しにやけてしまったのはここだけの話である。ブリュンヒルデにばれたらせっかくの好感度が下がりそうだしな。

 などと思っていると、脳内に声が響く。



『LVが2あがりました。また戦乙女の好感度が上がったため、能力が解放されます。戦乙女の加護を入手しました』



 戦乙女の加護? 一体なんなんだ?


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レベル5


スキル


ブリュンヒルデの加護   (召喚者の一部ステータスアップ)

ブリュンヒルデの寵愛LV1  戦乙女のスキルが使用可能。


ユニークスキル


マイナス召喚 LV2


装備


ドドスコ賠償剣

疾風のローブ

魔狼の首飾り

カイニスの靴


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本日の更新は終わりです。


アレイスターくんが英雄として踏み出した話でした。


カイニスの元ネタはギリシャ神話ですね。







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